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12.豪邸のような何か


 エレフトラが操縦する客車が、マーシュの街を走る。

 走る。走る。まだまだ走る……。


「あれ? また同じとこ走ってないか?」

「おかしいねぇ、この辺りに我が家があるはずなんだけど」

「迷ったんですか?」

「うーん、おかしいねぇ」


 おかしいねぇじゃないって。

 自分の家が分からないのか?


「何か大きな屋敷がありますねー」

「そうだねぇ、こんな建物あったかねぇ」

「あ、表札にエレフトラって書いてありますよ」


 客車が急停止した。

 ……ほんとだ、門に表札がついている。

 4つぐらい名前が書いてあるが、そのうち1つがエレフトラって書いてある。


「……ちょっと中で事情を聞いてくるさ」

「行ってらっしゃーい」


 困惑を隠せないエレフトラを送り出し、何が起こったのかポートに聞こう。

 何か訳ありみたいだし。


《いやぁーエレフトラさん王都でいっぱい稼いでたので、結構な額を家に仕送りしてたんですよ》

(ほう)

《そうしたら、どうやら家族の方にとっては大金だったようで、調子に乗って豪邸建てちゃったっぽいんですよね》

(無断でか)

《いえ、そろそろ手紙が到着しますよ。王都の教会に》


 おう……何というすれ違い。

 まぁ、エレフトラの家庭の事情だ。俺らは口を出すまい。




 それにしても、でかい屋敷だなぁ。

 この街の特性上地価は安いだろうが、一方で建物を建てるにはそれなりの対価が必要だろうに。

 木材とか塗料とか、安くはあるまい。


《まぁ、実際にまだ三分の一ぐらい完成してないまま資金が尽きたらしいですけどねー》

(おいおい……税金が無いのはいいけど、維持費とか大丈夫かよ)

《泥棒さんも入り放題ですね!》


 何かちょっとした庭園がある。

 噴水とかこの世界で初めて見たかもしれない。

 水が貴重なはずだが、おそらく今噴き出ている水は例の飲めない水だろう。

 川から水を引いてきたのか? これまた金がかかっただろうに。

 とりあえず事情を皆に説明する。


 遥か遠くのように感じる屋敷の玄関から、エレフトラが出て来た。

 さぞ青ざめてるか、激おこで顔真っ赤になってるかどっちかだろうなぁ。

 あいつ、金にはうるさいしな。

 ……あれ?


「何か、エレフトラさんが今までに見た事無いレベルで笑顔ですね」

「……はしゃいでるように見える」

「気持ち悪いな……」


 あいつ、そんなに豪邸志向だったっけ。

 まぁ何か俺達を呼んでるっぽいし、行くか。



 

 玄関に到着する。

 エレフトラは尚も笑顔だった。

 というか、にやけている。

 気持ち悪い。


「泊まっても大丈夫みたいさ。空いてる部屋ならどこでも好きに」

「お、おう……」


 中に入っても、閑散としていた。

 屋敷自体は大きいけれど、それに見合った豪華な調度品とかは無いし。

 まぁ金が無いからそりゃそうなんだけど。


「そういえば、家の人に挨拶してないけど大丈夫か?」

「え? あぁ今日は遅いから、明日にしよう」


 うーん、エレフトラが言うならいいけどさ。


 屋敷の中はリビングや台所はちゃんとあったが、それとトイレと風呂以外はほとんど使われていない部屋だった。

 ベッドもないような状態だったので、毛布を貰ったり客車から持って来たり。


 せっかくなので、なるべくバラバラになって部屋を使う事に。

 まず、ライトベルが一階の一番玄関に近い部屋を。

 理由は客車に積まれた本だ。

 運ぶのに玄関から遠いと面倒なので、一番近い部屋に。

 あと、一階というのがでかい。ライトベルの部屋は一階、ここ重要。

 エレフトラは自分の部屋があるらしいので、そこに。

 まぁ、そりゃそうか。


 リアは台所に近い部屋を。マイも適当に。

 スランとロントは一緒の部屋で寝るらしい。

 トロープさんとカー君も二階の窓が大きい部屋を借りていた。

 いつの間にかすっかり仲間ポジションだな。

 俺もトロープさんの隣の部屋を使う事にした。


 お風呂場は浴槽がちゃんとある訳ではなく、排水溝と井戸が備え付けられているだけだった。

 井戸で水を汲み上げ、それで体を洗う。

 この水も一応飲まない方がいいらしいが、体を洗うぐらいには使えるとポートが言っていた。

 ちょっと怖いけどな。

 さっさと体を洗い、トイレ行って歯を磨いて、荷物を枕にして毛布を被った。


 その日の夜は凄いゆっくり眠れた。

 間もなく魔物の大群が来るかもしれないとはいえ、割と強行軍な所があったからな。

 

 



 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~





 夢を見た。

 俺は山道を歩いていた。

 非常に険しい山で、モンスターが現れるかもしれないと警戒している俺。

 しかし、突然のモンスターの襲来に気づけなかった。


 モンスターは、ナフィで散々狩ったウサギだった。

 精霊魔法を使って撃退を……。

 あれ? 精霊魔法が使えない。

 武器は……ナイフすらない!?


 ウサギは俺にのしかかってきた。

 両足に柔らかい、重い感触が。

 このままでは、このままでは食われる……!





 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~





 目が覚めた。

 毛布がもっこりしていた。

 そして重い。足が痺れている。


 毛布をどけると、そこにはトロープさんとマイがいた。

 何だ、夜這いか。

 いや外はもう明るいから朝這いか。


「何やってるんだ?」

「いや、ちょっとマイちゃんを連れて性教育を」

「そうか、とりあえずそのズボンにかけられた手をどかして貰おうか」


 全く油断も隙もあったもんじゃない。

 まぁいつかリア辺りにやられるとは思ってたが、マイも確かに可能性はあった。

 ライトベルも一応可能性はあるか。候補多いなおい。

 しかし、まさかトロープさんが焚き付けるとは。


「というか、朝立ってないの?」

「アレは寝る前にちゃんとトイレ行けば立たないもんなんですよー」

「ふーん、まぁ起きちゃ面白くないなぁ。行こ、マイちゃん」

「ふぇ!? は、はい!」


 全く、危ないところだった。

 ここに転生したばかりの俺だったら、寝たフリをしていたかもしれない。

 だが、それでは死亡フラグなんだ。


 マイ達が出て行って僅か1分後、ドアがノックされた。

 ガチャっと開けたのは、俺の予想通りなリアだった。


「ユーハさん、朝ごはん出来ましたよー」

「分かった、すぐ行く」


 な? あのまま体を預けてたら、リアが部屋に入ってくるハプニングがあるんだぜ?

 ポートが勝手に俺の精力を抑えてるようだが、こういうのを見ると抑えられたままでもいいかなと思えてしまう。


《ところでユーハさん》

(ん? 何だ?)

《朝立ってない方は、夜ちゃんとトイレ行ったからってのは嘘っぽいですよ》

(……へ?)

《最近では、EDの方の兆候の1つとか言われてますね》


 うわぁ……しかも俺の場合否定できないし。

 まぁ、俗説らしいのであまり気にはしないでおくけれども。




 食堂に向かうと、仲間たちの他に1人の少女がいた。

 あれは……エレフトラの妹か。

 両親はどこだろう、挨拶しないと。


《あ、両親ともに亡くなってます。彼女が唯一の肉親です》

(お、おう……)


 俺のパーティー、何気に両親の死亡率高くね?

 確かリアとライトベルも両親がもう亡くなってるみたいだし、スランも恐らくは死んでるって言ってたし。

 まぁ世界が世界、時代が時代だから仕方ないのかなぁ。

 とりあえず、俺がなんかリーダーっぽい立ち位置になってるようなので、この場を仕切る事に。


「えっと、俺はユーハ・トリニティと言います。エレフトラがいつもお世話になってます」

「はい……」


 少女はエレフトラ同様、綺麗な金髪だった。

 エレフトラはさらりとしたストレートヘアだが、彼女はウェーブがかった髪質をしている。

 うーん、妹もまた美人だな。やや胸が心許ないけど。

 というか、体格が非常に細い。痩せているというより、痩せこけていると言った方がいいかもしれない。


「妹のユリンだよ」

「しばらく部屋をお借りします、何かあったら言ってください」

「はい……」


 何か、気弱な感じだな。名前がユから始まるのは何か仲間っぽくて嬉しいけど。

 しかしこれまでの話しを総合すると、この子が勝手に豪邸建てたのか?

 そんな風には見えないが。

 でも一応ちゃんと怒った方がいいんじゃないかなぁ。

 俺の口出しすることじゃないかもしれないけどさ。ポート曰くこの建物のせいで結構な額の借金までしちゃってるようだし。


 俺がそんな事を考えていると、急にユリンがオロオロし始めた。

 何だろう、お腹すいたから早く食べたいのかな。

 すると、エレフトラがキッと俺の方を睨んで大きな声をあげた。


「ちょっと、ユリンは男の人が苦手なんだよ! あんまりジロジロ見るから怖がっちゃったじゃないか!」

「あ、あぁすまない」

「おーユリン。怖くないからねー?」


 お、怒られてしまった。

 ていうか、エレフトラの態度がいつもとまるっきり違うんだが。

 もしかして、重度のシスコンなのか? こいつ。

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