10.同郷の仲間のような何か
さて、目の前でカラスが喋っている。
何を言えばいいのか分からない。
絶句とはまさにこのことだろう。
『……おい、名乗ったんだからおめーもなんか無いのか?』
『あぁ、すまん。カラスが懐かしい言葉を喋ってるもんだからつい絶句してしまった』
『いやまぁ分かるけどよー』
とりあえず前世の名前、湯羽 熱居の名前を名乗る。
チートについてと、マーシュへ向かう経緯も。
『へぇー、ハーレムを作れば作るほどねぇ。かぁー! 羨ましいねぇ!』
『そうか? ……いや、そうか』
そういや俺もハーレムのチートって言われて嬉しかったっけ。
いつからだっただろう、あの時の気持ちを忘れたのは。
多分、ロントの殺人癖を知った辺りからだったかな……。
『何だ何だぁ? そんな童貞みたいな反応しやがってよー』
『うっ……』
『はっ! まーだ手ぇ出してねぇのかよ! EDかよEDぃ!』
『くっ……』
『あっ、そうだったのか……すまねぇ……。でもな、カラスよりはマシだろ?』
『まぁ、それは確かに……』
俺も俺で、なんだかんだで今の生活が楽しいしな。
よく言えば刺激がある生活だし。
『それより、お前はどうなんだよ。姿はカラスだけど、普通のカラスじゃないんだろ? 喋ってるし』
『いや、喋ってるのは違うぜ? カラスって元から喋る事が出来る動物だ』
『えっそうなのか?』
《カラスって九官鳥の一種ですからねー》
カラスはオウムのように、教えれば単語を話す事ぐらいは出来るらしい。
知らなかった、カラスを甘く見ていた。
『ところでよー、さっきから聞こえる可愛いねーちゃんの声はサポートか?』
『あぁ、やっぱり聞こえてたのか』
《そーですよー、ポートと申します》
ナナが聞こえていたようだから、カー君も聞こえているのかと思っていたが。
カー君曰く、俺の所にやってきたのもポートの声が聞こえたからだそうだ。
結果だけ考えると、エレフトラを眺めたかっただけにしか見えないが。
しかし、だとすると気になる事がある。
『でも、俺からはお前のサポートの声聞こえないぞ?』
『……オレはサポートなんて貰ってないし、この世界の言葉も分かんねーんだよ』
『あっ……』
カラスの厳しさも甘く見ていた。
そうか、だからトロープさんとしか話せないのか。
日本語は話せるけど。
『まーそんな悲観すんなって。相応のチートも貰えたしな』
『相応のチート?』
カー君は翼を広げると、「かーかー」と鳴きながらバサバサとその場で羽ばたいた。
ダダをこねる飼われた鳥にしか見えない。
『それに、お前綺麗なおねーさんと一緒に旅出来てるじゃねぇか』
『ホントそこは助かるぜ。アネさんがオレの言葉聞き取れてよぉ。それにあの胸! 金髪! 最っ高だぜ!』
『お、おう……』
エレフトラを眺めてたのは、やっぱりそういうやましい気持ちがあったからだったか。
ええい、この際だから聞きたい事聞いちゃえ。
『そもそも、カラスって人間に欲情するのか? カラスはカラス同士かと思ってたんだけど』
『まー、子孫を残さないとって義務感みたいなのを性欲と言うのなら、そういうのも一応あるぜ。だがな……』
『だがな?』
『この世界、カラスはオレ1人……いや1羽なんだよ』
おい、転生神! なんて可哀想な事しやがるんだ!
せめてカラスがいっぱいいる異世界に転生させてやれよ……。
どうやら俺の転生神と同じっぽいし、もし俺が先に奴に会う事になったら一言物申してやろう。
《でもそれだったら、オ●ホール代わりに他の鳥さんと交わればいいんじゃないですか?》
『へっ、サポートのネーちゃんも可愛い声の割にえげつない事言うじゃねーか。でもそのとーりなんだが、問題が2つあるんだよ』
《問題?》
『まず、相手がモンスターしかいない事だ。可愛いスズメや可憐なカワセミなんていやしねぇ。大体は凶暴なワシとかタカとか、ヘタしたらドラゴンだったーなんて事もありえるぜ』
『あぁ、なるほど』
『それと、これが問題だ。オレの体、どうやらメスらしいんだ』
『……あー』
欲求を満たすには、そういうタカやワシに体を預けるしかないと。
そんな彼が、せめて綺麗なお姉さんの近くに居たいと思う事ぐらい、大目に見てやらないとな……。
しかし、こいつそこまで可哀想な境遇にも関わらず前向きだ。
もしかしたら、規格外なチートを持ってるのではなかろうか。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
近くの茂みが突然ガサガサと音を立てた。
何かと思ったら、トロープさんだった。
すっきりした顔をしている。我慢してたんだろうか。
「あら、会話終わりました?」
「あっはい」
「かー!」
「へぇ、やっぱり転生仲間だったんですね」
「かー!」
あ、トロープさんは打ち明けられてたのか。
まぁ俺もそろそろ打ち明けてもいいとは思うんだけどな。
もう散々普通の人じゃないのバレてるし。
「トロープさんは、どの程度転生について知ってるんですか?」
「はい。えっとカー君の前世はニホンって国だとか、神様からチートを授けられたとか。ユーハさんに近づいたのも、カー君がチートを持った転生仲間かもしれないって事でですし」
「あーもうほとんど全部ですね」
「あと、サポートさんがいるってのも聞きました」
それは全部じゃないか。
もう俺隠す事ないわ。
せっかくだし、俺のチートについても話してしまおう。
俺の話を黙って聞いていたトロープさんは、しばらく黙って聞いた後こう聞いてきた。
目をランランと輝かせて。
「ローちゃんは! ロントとはキスしたんですか!?」
「え、えぇ……まぁ……」
「きゃー!」
楽しそうだなぁ。
その時、ロントは首だけの状態だったんだけどな。
「で! で! その時ローちゃんはどんな反応でした?」
「そりゃあもう、まるで生き返ったかのように元気になりましたよ」
「いやー!」
カー君の事をバンバン叩くトロープさん。
まぁ、楽しそうだからいっか。
カー君も嬉しそうだし。
「あのー、そろそろ客車戻りません? あんまり皆待たせるといけないし」
「そうですね、行きますよカー君」
「かー!」
トロープさんは、肩に袈裟のようなものを装着している。
鷹匠が鷹を腕に止める為に、小手のようなものを装着しているのと同じだろう。
ブ厚い皮で出来ているようで、カー君が爪を食い込ませても全然問題なさそうだ。
『ところでカー君さんや』
『ん? どうしたよ』
『カー君って呼び方は、やっぱり前世の和馬から来てるのか?』
『おう、そうよ。おめーさんのユーハってのも、前世の苗字から来てるんだろ?』
『まぁ、確かに』
転生すると、自分の名前を絡めたくなるものなのかね。
そういやナナもそうだったな。
まー皆が皆そうって訳でもないだろうが。
『ところで、王様の耳はロバの耳的な理論で聞いて欲しい事があるんだが』
『何だ?』
『さっきロントとキスしたって言っただろ?』
『おう』
『実は、その時ロントは死んでたんだよね。首が切り落とされてて。蘇生の為にキスしたんだよ』
『あー……』
『トロープさんに言った方がいいかな?』
何だろう、カラスから哀れな目で見られてる。
でも、正直この視線に晒されるのは慣れた。慣れてしまった。
『ま、言っても大丈夫だと思うぜ? アネさんは変な性癖があるしな』
『変な性癖?』
『おう、これはつい一か月ぐらい前に発覚したことなんだけどよー』
『うん』
『アネさん、血を見ると異様に発情するらしいんだな』
この時、俺は思った。
あぁ、ロントの知り合いってことはそう言う事なんだろうなと。
そして同時に確信した。
このロクでもない性癖。
トロープさんは俺たちの仲間になると。




