7.神回避のような何か
客車が山道を爆走する。
辛うじて急なカーブが無い道だったことが幸いだ。
しかしカーブ自体は存在する。
「左に重心を移動させろー!」
皆で客車の中を移動して、なんとかカーブを曲がる。
正直よくここまで横転してないとちょっと感心する。
「やめてー!」とか「止まれー!」等の声もスランの耳には届かない。
単純に前から来る風で消されているのか、それともスランがハイになって耳に入らないのか。
ともかく、もう凄いスピードだ。
猛スピードとのダジャレじゃないぞ。
俺は前世でジェットコースターに乗った事がある。
正確には前々世の方が乗ったが。
当たり前の話だが、ジェットコースター程のスピードは出ない。
せいぜい自転車で坂を下るぐらいだと思って欲しい。
だが、ジェットコースターでも自転車でもありえない事が目の前で起こっている。
俺はスランをなだめながら、必死でブレーキをかけた。
と言ってもそんな高尚なものではない。地面に木の棒を突き刺すだけだ。
だからその棒がバキっと折れた時、俺は咄嗟にある行動に出た。
(ポート)
《何ですか? 妙に冷静になりましたが》
(転生神に、次のチートはもうちょっとまともなのでお願いって伝えてくれ)
《何もう死を覚悟してるんですか! 足掻きましょうよ!》
(もうさ、何か疲れちゃったよ……)
《頑張りましょうよ! せっかく3000ポイント超えたんですし!》
いや、ダメだ。俺は死んでも次があるかもしれないが、他の皆はまだ若い女の子なんだ。
まだ少しぐらい足掻いてみてもいいかもしれない。
(ポート、まだ何か手は無いか?)
《えっと、ちょっと時間がかかるかもしれませんよ?》
(今回ばかりはそれじゃ遅いな……そうだ、こういう地形はないか?)
《ふむふむ、ちょっと探してみます》
俺が要求したのは、直線で登り坂になる地形だ。
どんなに速く走っても、登り坂があればなんとか止まれるんじゃないだろうか。
ありがたい事に、ポートはその場所を20秒で探し出してくれた。
《この先Y字路があります。そこを右に曲がるといい感じの登り坂があります》
(よし、スランに伝える)
俺はスランを棒で突っつくと、ジェスチャーで伝える。
この先の! 分岐を! 右! 右!
うーん、全力でジェエスチャーしたが伝わっただろうか。
指をビッと立ててるから理解はしただろうが。
理解したと信じたい。
スランはニコッと笑うと、ブラウン君に指示を出した。
ブラウン君は、凄い勢いで左に曲がった。
アイエエエエエエ! ヒダリ!? ヒダリナンデ!?
スランがペロッと舌を出す。
あー、ドジっちゃったのかー。
ドジっこだったのかー。
ドジっこなら仕方ないなー。
(なぁ、ポート)
《は、はい》
(次は、平凡な人生がいいかな……)
《ユーハさん、しっかり! しっかりしてください!》
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
客車は走るよどこまでも。
これってアレだよな。いつかどこか衝突するよな。
もしくは、ブラウン君が客車のスピードに追い付けなくなって衝突とか。
仮に下まで降りられたところで、モンスターに衝突とかしそうだ。
言わんこっちゃない。進行上にワイルドベアーがいる。
それも親子だ。
《あ、アレはアカン奴ですね。この時期のワイルドベアーは非常に気性が激しいです》
(しかも、あいつら人里にも余裕で出てくるような精神の持ち主だぞ)
客車の中はもはやカオス状態だ。
ひたすら叫び続けるリア。
何かに助けを乞うエレフトラ。
説得を試みるロント。
俺を見つめて現実逃避しているマイ。
そしてこんな時でも無表情なライトベル。
彼女たちも、ワイルドベアーの生態は分かってるはずだ。
良い感じに絶望している。
ワイルドベアーはこちらに気が付くと、仁王立ちでこちらを威嚇する。
しかし威嚇されてもどうしようもない。
スランが何故か威嚇し返してるが、あいつのガタイじゃ……。
いや、ワイルドベアーが避けた!?
スランが威嚇勝ちしたのか!?
《いや、ただ単に客車と衝突したら危ないって判断しただけだと思いますよ》
(ですよね)
しかし、なんやかんやと幸運が続いている。
よく見れば大分高度も下がってきている。
急な坂も終わったようで、緩やかな下り坂になってきた。
このままなら、一番下まで降りられるんじゃないのか!?
《……あ》
(ん?)
次の瞬間、俺の意識が飛んだ。
後で聞いた所によると、飛んできた木の塊が俺の側頭部に直撃したらしい。
恐怖の余り無意識で何かしらの精霊魔法をかけていなかったら、多分死んでただろう。うん。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
目を覚ました時、俺は客車の外にいた。
リアに膝枕され、木陰で休まされていた。
「……っ痛ぇ」
「あ、ユーハさん。大丈夫ですか? 記憶喪失とかになってませんか?」
「あぁ、多分大丈夫……」
「私の事が分かりますか? 恋人のリアですよ?」
「ねつ造すんなバーカ」
「あぅっ」
リアのおでこをペシッと叩きながら状況を確認する。
まず、スランはロントに説教されている。
一緒にブラウン君も伏せをしながらシュンとしている。
ライトベルとエレフトラが客車の中で何かやってる。
マイの姿が無いな。
「マイさんは、ちょっと下着を変えてます」
「下着?」
「ちょっと……言いにくいんですが……」
「……いや、何となく察した」
「助かります」
客車の中の2人は、何か雑巾みたいなもので作業をしている。
恐らく、マイがお漏らしをしてしまったんだろう。
まぁ仕方ない。この恐怖体験だ。
客車の中が臭っても、気づかないフリをしてやろう。
少なくても客車が壊れたり、怪我人が出たりするよりは何十倍もマシだ。
それにしても、どうやって停車したんだろう。
ブレーキも壊れているのに。そこが不思議だ。
俺はそう思いながら、客車の車輪に注目した。
その疑問はすぐに解決された。
客車の下が、湿地になっている。
沼というよりは、泥と言った方がいいだろう。
車輪が大分泥で汚れているが、ブレーキ以外に本体に大きな損傷はない。
なおこの時の停車について、リアはこう語っている。
「ユーハさんは、あの時寝ていたから幸せだと思いますよ」と。
恐らく、おぞましい体験だったのだろう。
それこそマイが失禁してしまう程に。
遠くに町が見える。
高い塀に囲まれ、ただの田舎町ではない雰囲気が漂っている。
アレがフマウン。かつて大侵攻を受け、これから再びその被害に遭おうとしている町か。
ただ、遠目でもバリスタ等比較的新しい装備が見える。
またバリケード等の設置作業が行われている形跡もある。
察するに、情報が到達したのだろう。
大侵攻が行われるという事を。
となるとあまり時間は残されていない。
何故だか知らないが予定より早く到着できそうなので、フマウンに半日滞在して食料等を買い込んだりする。
そしてマーシュへ向かい、迎撃態勢を取る事にする。
まぁ、なんとか間に合いそうだ。
強行軍をした甲斐があったというものだ。
あー、早く風呂に入りたい。
あと美味しいものが食べたい。
ネズミ肉じゃない奴な。
だが、その為にもすぐにやらなければいけない事がある。
ずっとこのままでいると、いつモンスターに襲われるかも分からんからな。
「ロント、スラン! 手を貸してくれ!」
「ん? 起きたのかユーハ。どうした?」
「いや、コレをなんとかしなくちゃだろ?」
「あー……」
車輪がズボッと泥に入ってしまっている。
コレをなんとかして救出しなければならない。
うーん……下山は何故か物凄い速いスピードだったが、結局この作業のせいでフマウンへの到着は予定通りになりそうだ。




