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3.星空の下の秘密のような何か

 俺たちが野営を張った空き地は、非常に睡眠に適していた。

 山から流れる空気が、蒸し暑さを和らげてくれる。

 ブラウン君の寝息を除けば、ほとんど聞こえるものもない。


 真夜中にお花を摘みに行きたくなって目が覚めた。

 いや、本当に花摘みに行きたくなったわけじゃないぞ。小だ小。


 俺が体を起こすと、ライトベルだけ起きていた。

 たき火を灯りとして、本を読んでいる。

 エレフトラは普通に爆睡してる。

 おい、夜の見張り担当。

 ……と、そんな事考えてる場合じゃねぇ。とっとと出すもの出さないと。




 そっと野営を離れ、草むらで出すものを出す。

 もはや慣れたものだ。ライトベルも、俺が起きてどこか行った事を特に気にはとめなかった。


 皆の元に戻り、ちょっとだけ水を拝借して手を洗う。

 起きているライトベルの隣にポスッと座る。

 天体に関する本を読んでいた。勉強家だなぁ。


「1人だったのか?」

「……うん」

「エレフトラ起こせばいいのに。1人じゃ不安だろう」

「……彼女辛そうだったから、私が寝ろって言ったの」

「うーん」


 いや、こいつの索敵能力は重々承知だ。

 だが、エレフトラとコンビにさせたのはそこじゃない。

 ちょっと心配な事がある。


「いや、お前咄嗟に皆起こせるのか?」

「……それは大丈夫、秘策がある」

「お、おう。ならいいんだけどさ」


 何かニヤリとしている。

 まぁ、俺が起きてればいいか。




 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~





 冷静に空を見た事が無かったが、非常に夜空が綺麗だ。

 若干青い月が浮かんでいる。

 何より、空一面に広がる満天の星屑が美しい。

 この景色だけは、前世と余り変わらないんだよなぁ。


「……ユハ、1つ聞いていい?」

「何だ?」

「……ユハみたいな能力を持ってる人、他にいるの?」


 すげーポツリと言われたけど、結構核心に迫るな。

 うーん、どう答えよう。

 いや、返答が遅れた時点で答えみたいなもんか。


「エルフの里で、お前に帰って貰ったの覚えてるか?」

「……うん」

「あそこにいた奴が、俺みたいに特別な能力を持ってる。汎用性低いけどな」


 ナナはいわゆる銭投げ能力だ。

 だから俺みたいな能力とは言えるか怪しいが、まぁこの世界には無いものだし。

 ライトベルは俺の言葉を聞くと、やや暗い顔になった。


「……そうなんだ」

「まぁ、そんな強い能力じゃないと思うぞ?」

「……ユハが放置してるなら、問題の無い相手だとは思う」

「どうした、何か暗い顔をして」


 ライトベルは基本的に表情豊かな方ではない。

 表情を読めるようになったのは、旅をしてしばらくのことだ。

 その経験が言っている。今の表情は、何か悪い想像をしている時の顔だ。


「……私は、ユハは世界の中核を握る程の存在だと思う」

「いや、流石にそれは誇張だと思うぞ」

「……誇張じゃない。とりあえず聞いて」

「お、おう」


 ライトベルは、俺にそっと寄り添って頭をポンと俺の肩に置いた。

 妙に良いムードに見えるが、ライトベルの深刻さがそれどころではない。


「……ユハの能力は、上限がない。それは恐ろしい事」

「まぁ、それはそうだな」

「……私たちは、上限を上げるという事がほとんどできない。修行して修行して、それでもいつかは限界を迎える」

「そう、だな」

「……その壁を超える方法は本当に少ない。……私も、ユハに出会わなければ色々諦めないといけなかった」


 うーん、今までにないレベルに重い空気だ。

 というか、何か核心に迫ってる感じがする。


「……ユハ、私は『マオウ』の存在に、ある可能性を考えてる」

「可能性?」

「……ユハと同じ、不思議な能力を持っていた奴だとしたら」


 ……転生者の可能性か。

 いや、無い可能性ではない。

 この世界には『マオウ』なんて概念が無い。

 それなのに、『マオウ』がライトベルの研究の邪魔をしていた。

 つまり、俺みたいな転生者が魔王を名乗って何かをしている可能性がある。

 そして、現状転生者には何かしらのチートがある。

 ということは……。


「上限なく強化される能力を持ってたとしたら、俺しか対抗出来ないかもしれないのか……」

「……そういうこと」


 いや、あくまで可能性の話だ。

 だがありえない話ではない。

 転生者に主人公をやらせ、そのラスボスもまた転生者。

 あの転生神がやりそうな事じゃないか。


 ただ、まだ可能性の域は脱してない。

 俺に対するラスボスを転生神が設定して、それが魔王である可能性も十分にある。

 というか、今までそっちで俺は考えていた。

 まぁ、今後の可能性に気づけただけでもマシなのかもしれない。





「……ところでユハ」

「……何だよ」

「……何かいい雰囲気じゃない?」

「いや、いい雰囲気か?」


 凄いシリアスな話してたと思うんだが。

 どうしてこうなるんだよお前は。

 ライトベルは若干体をはだけさせると、俺の上に覆いかぶさってきた。


「……ユハの性欲が意図して抑えられてたのは聞いた」

「寝てなかったのかよ!」

「……ポート、聞こえる?」

《はいはーい!》

「……ユハに課せられた制限、外せる?」

「おい!」

《大丈夫ですけど、良いんですか? そりゃあもうすんげー事になりますよ?》

「どんなことになるんだよ俺は……」

「……大丈夫」

《もう、グッチョングッチョンのネッチョンネッチョンにされちゃいますよ?》

「……覚悟はしてる」

「俺はしてないよ……」


 というか、屋外でこんな仲間が近くにいる時とかなんか嫌だ。

 せめて、せめて人がいないところで。

 というか、誰かが起きてそうで嫌だ。


「……リアがそろそろ起きると思うけど、大丈夫」

「それ大丈夫じゃねぇよ!」

「……すぐ済むから……」


 そう言いながら、ライトベルは俺のズボンを脱がしにかかった。




 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~




《ユーハさん!》

「……敵!」


 完全にパニくっていた俺を尻目に、ライトベルとポートが同時に反応した。

 敵か、一応警戒はしてたけど全く分からない。


「数は?」

《うーん、ちょっと分からないです。凄い反応が小さくて》

「反応が小さい?」

「……30は覚悟した方がいい」


 どういう事なんだろう。

 とりあえずライトベルがどいたので、外されたベルトを締め直す。


「とにかく皆を起こさないと」

「……ユハ、ちょっと耐えてて」

「ん? ……うおっ」


 全身がいきなり動かなくなる。

 起こしかけていた上半身が、重力に耐え切れずに再び倒れる。

 な、何だ?

 見た感じ、他の仲間も同じように苦しんでいる。

 しかしその現象は一瞬で終わった。

 ライトベルだけが元気なので、こいつがやったことなのだろう。


「う、どうしたんですか?」

「うー」

「敵襲だ、皆気を付けろ」

「敵? ユーハ、それはどこにいるんだ?」

「……恐らく小人族。周囲に囲まれてる」


 小人族?

 聞いた事ない種類だな。

 というか、いつの間にかブラウン君含め全員起きている。

 これか、秘策って奴は。確かにこれなら俺でも起きる気がする。

 とりあえず仲間全員に精霊魔法をかける。


「小人族? どんな奴なんだ?」

「そりゃあ見りゃ分かるねぇ。……来るよ!」


 次の瞬間、前方からいくらかの影が飛び出してきた。

 非常に小さいものだ。

 身長20センチぐらいの小さな人間が、俺たちに向かって走ってきている。

 手には一寸法師が針を持っていたように、非常に小さな尖った金属を剣として使っている。

 足は予想より早い。


 確かにこのサイズなら攻撃が当たらないかもしれない。

 だが、俺には精霊魔法がある!


 ナイフを構えて即座に投げる。

 ナイフは、小人たちの指揮官っぽい奴目がけて一直線に飛んでいった。

 それは確実に指揮官小人を捉えるはずだった。

 だが、ナイフは彼の近くの小人によって弾き飛ばされた。


「弾かれた!?」

「あいつらは反射神経と力が、非常に強いんだよ」

「ユーハ、気をつけろ。ここに来るまでに見たあの客車、こいつらの仕業だ」


 ライトベルが呪術を彼らにかける。

 しかし、彼らはそれをものともせずに進んでくる。

 小人は近くで見ると、結構猟奇的な目をしていた。

 これは……ちょっとマズいかもしれないな。

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