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12.故郷乃話

 エレフトラがこの町と言った場所。

 それは、地図上に何もない場所だった。


「この町って……ここに何かあるのか?」

「あぁ、ポータルもギルドも無い非公認の町さ。でも、まだ人は住んでる」

「非公認の……」

「……生まれる前の話さ」


 エレフトラはその町について話し始めた。

 マーシュと呼ばれているその町は、かつては漁村として有名だった。

 様々な海の幸に恵まれ、立地から戦争にも無関係だった。

 だが、ある時転機が訪れる。


「近くで鉄鉱石が発見されたんだよ。一時期はそれで繁栄したそうだ。でも、アレが建設されてから全てが変わったそうだ」

「アレ?」

「製鉄所さ。二十年前にアレが出来たせいで、川や井戸の水が飲めなくなった。海の魚も捕れなくなったそうだ」


 あー……公害か。

 そうだよな、そういうのもあるよな。

 ファンタジーとはいえ、この世界も全てが都合の良い世界じゃないんだし。

 全てが魔法で解決するわけじゃないんだなぁ。


「公にはマーシュは潰れた事になっている。だが、今も人がいっぱい住んでいる」

「で、お前はそこで生まれ育ったと」

「あぁ、そうさ。小さい頃は、遠くから水を運ぶのが大変だったもんだよ。飲み水以外はもっぱら貯めた雨水だしねぇ」


 マーシュは北にある地域なので、雪を貯めて溶かすなんて手もあるそうだ。

 だが、どのような手段を取るにしろ清潔な水を飲む事はかなり困難らしい。


 どうでもいいけど、二十年前ってこいつ十代なんだよなぁ。

 口調とか雰囲気から言ってもっと上かと思ってた。


《エレフトラさん、リアさんより年下ですよ》

(マジかよ)


 あぁ、つい話が逸れてしまった。

 集中して話を続けなければ。


「この町にはギルドも無ければ魔法使いもいない。恐らく大侵攻の気配すら察知できないだろう」

「他の町の冒険者がどの程度が援軍として駆けつけるかだな……」

「マーシュにはポータルが無いのさ。関わりがあるのは隣町のフマウンだけ」

「しかし、大侵攻はフマウンとマーシュのちょうど中間か……」


 これから行くこの大陸の北部には、3つの町が存在する。

 西から順に、トーノ、フマウン、マーシュだ。

 ポートの報告によると、フマウンとマーシュのちょうど中間ぐらいのところで、大侵攻特有の魔力の膨らみが確認されている。

 フマウンは軍事力があり、過去に大侵攻も体験している。

 俺とライトベルは、ここが大侵攻のターゲットだと思っていた。

 マーシュの事を知らなかったからな。

 この町があると知った上で考えると、これは中々面倒な事になっている。


「マーシュとフマウン、その中間にあるってことはどっちに大侵攻が来るか分からないのか……」

「もしくは両方に分散するか……。モンスターの機嫌次第かねぇ」

「で、俺たちに助けて欲しいと」

「そうさ。頼む、この通りだ」


 再びエレフトラが頭を下げた。

 いや、俺は助ける事に関してはやぶさかではない。

 一応俺達の旅の目的は『マオウ』の調査だが、その途中に大侵攻があるような気もする。

 命が惜しいという訳ではない。いや、命は投げ捨てるものではないが。


 だが、俺達には大きな問題がある。

 フマウンにしろマーシュにしろ、その間には大きな山が立ちはだかっている。

 しかも、現状マーシュもフマウンもテレポートのゲートが使えない。

 現状マーシュへ向かうには、ナフィからトーノへテレポート。そこから徒歩でフマウンへ行き、マーシュへ向かうという道のりが必要だ。

 だが、それだとかなりの量を歩く必要がある。

 二週間で到着するか怪しいラインだ。

 その間に大侵攻が発生する可能性が非常に高い。


「俺とライトベルの話を聞いてたんだろ? 俺たちは別に行きたくないわけじゃないんだ。だが、行く方法が無いんだよ」

「そこは任せて欲しいねぇ。コレだよ」

「コレは……」


 エレフトラは俺の前に袋を突き出した。

 その中には大量の金貨が入っていた。

 俺がクエストで働き続けても、何年かかるか分からない額だ。


「おい、コレどうした」

「フン、出所が気になるかい。まぁ話してもいいさ。ユーハ、王都のアクセサリー屋を覚えてるかい?」

「あー、俺がロントに偽物のブレスレット買った所か。あそこ、確か閉店してたよな」

「あそこから貰った金さ。見逃す代わりに、この懐にねじ込んで行ったんだよ」


 収賄だー!

 と思ったけど、どうやらあの国の法律の抜け穴上収賄にはならないらしい。

 エレフトラは役所の人間ではないとか、教会への募金として扱えるとか。

 この世の中腐ってるな。

 というか、犯罪を見逃すとか何かの犯罪の幇助とかになってないのかな。

 一応少し時間を置いてから警察に言ったらしいからセーフらしいが。


 ちなみに、あのアクセサリー屋は夜逃げしたそうだ。

 呪われた品を詐欺で売ると、懲役20年は固いらしいからね。

 エレフトラの懐に店主が金をねじ込んだとか言ってるけど、実際は恐喝じみた事をしたんだろうなってのはなんとなく想像できる。


「ということで、このお金はクリーンなお金さ」

「クリーン……?」

「この金を使って、山道に耐えうる高い車輪を購入する。そうすれば、マーシュへ向かえる」


 なるほど、まぁそういう事なら向かっていいんじゃないだろうか。

 それにしても……。


「……何さ、不思議そうな顔で」

「いやぁー。頭を下げると言い、お金を出すと言い。お前らしくないと思ってなぁ。そんな故郷が大事なのか」

「そうだよ、悪いかい?」

「いや、良いと思うぜ」


 俺はパッと手をエレフトラに差し出した。

 エレフトラはその手をじっと見る。


「いいのかい? 他の町からの援助も無い。治安も悪いからどこまで手伝って貰えるかも分からない。そんな町なんだ」

「関係ねーよ。仲間の故郷なんだからさ」


 エレフトラはその手を恐る恐る握った。

 俺はその手を、強く握り返した。




 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~




 これから色々やる事があるが、今は深夜だ。とりあえず翌朝に持ちこそう。

 ということで、とっとと宿に入って布団に潜り込む。

 そういえば、さっきの話で気になる事があったな。

 マーシュは治安が悪い。そりゃそうなんだけど、エレフトラが言うぐらいなんだから相当なんだろうか。


《非公認の町なので、逃げて来た犯罪者や借金取りから逃げて来た方が大勢いますね。エレフトラさんの両親もそういう方だったようです》

(へぇ)

《まぁ、もちろん元からマーシュに住んでた方も多いですけどね》


 マーシュという町がそういう状態になってから、エレフトラの話では20年が経過している。

 マフィアとかも台頭してたりするんだろうなぁ。殺人事件が日常だったり。

 ロントに色々言い聞かせておかないとなぁ。


(それにしても、意外だったなぁ)

《何がですか?》

(エレフトラが意外と故郷想いな所があってさ)

《だから言ってるじゃないですか。彼女は良い人だって》


 エレフトラの窃盗癖とかも、恐らくこの町で育ったからという理由があるんだろうなぁ。

 ポートの話では、結構速い段階で両親も亡くしているそうだ。

 そりゃあ荒むよなぁ。


《まぁ、彼女の窃盗癖はそんな深い理由は無いんですけどね。盗みたい時に盗むというか》

(……あいつ、口の悪さとその手癖さえ治ってくれればいいんだけどなぁ)

《まぁ、そうですねぇ》


 あ、あと飲酒と喫煙な。

 せっかくの美人なのに、本当にもったいない。


 しかし、そんなあいつが何でシスターなんかを目指すようになったんだろうか。

 今までエレフトラについて結構嫌悪してる部分があったが、少し見直した。

 ちょっとシスターになる経緯も気になってくるな。

 あいつが治癒とかの魔法を上達させたいと思うのは、故郷が関係あるのかもしれない。

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