11.予定変更
客車から降りてそろそろ寝ようかと思っていると、突然ブラウン君がこちらをジーっと見始めた。
何だろう、失礼な事をしちゃったかな。尻尾踏んだとか。
目が何かを主張している。何かを言いたげな感じだ。
「どうしたんだろう、何か変なものでも食ってお腹壊したんだろうか」
「ここって、モンスターみれるお医者さんいるんでしょうか」
「……最悪、新しいモンスターをテイミングしちゃえばオーケー」
酷い。大事な仲間なのに。
いや、俺も酷い事言ったけどさ。
ブラウン君の様子を見たスランが小走りでブラウン君にかけよる。
「うー! うー!」
「グルル……」
「うー?」
「ゴォゥ……」
「うー! うーうー?」
《会話してますね》
「あいつそんな事できたのか。知らなかった」
「たまにブラウン君と談笑してますよ?」
「へー」
ライトベルがおもむろにペンと紙を取り出す。
そして、話が一段落ついたスランにそっと渡した。
スランはそれを「うー!」と受け取ると、スラスラと文字を書く。
そしてパッとこちらに見せた。
『あちらの方角から、嫌な気配がするらしい』と書いてあった。
スランが指をさす。……北か? 正確には北北東って感じか。
《野生の勘って奴ですかね?》
(ポート。気になるから全力で調べてくれないか?)
《分っかりました! お任せください!》
とりあえずこの件は俺預かりという事になった。
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「……ハ、……ユハ、起きて」
「んんぅ……麻酔玉が売ってない……」
「……ユハ!」
「うお、おおう……何だ」
「……ポートが呼んでる」
真夜中に爆睡していたら、ライトベルに起こされた。
ポートが呼んでるって、こんな時間に珍しいな。
ちなみに他のメンバーはまだ全員夢の中のようだ。
《あ、ユーハさんお目覚めですか》
「何だよ、こんな時間に」
《例のブラウン君の言っていた気配、分かりましたよ》
「えーっと、あぁアレか」
起きたばかりで頭がハッキリしない。
えーっと、そうだ。北で何かが起きるかもしれないっていうアレか。
《ここより北東の山中で、大きな魔力の膨らみが確認出来ました。まだ小さいですが》
「魔力の膨らみ?」
「……大侵攻の予兆……」
「あー……」
北東、北東か。
ここから感じたってことは、やっぱりここが標的なのだろうか。
《ユーハさん、地図ありますか?》
「地図? えーっと」
「……確か、こっちの荷物の中に……あった」
「おぉ、サンキューサンキュー」
バサッと地図を広げる。
えーっと、こっちが北だから……。
「ここが今いるナフィだよな?」
「……そう、でも地図上下逆」
「あぁ……」
くそう、こっちの世界の地図の上下の区別が未だにつかない。
えーっと、こっちが北だな。
「北東ってことはこの辺りか?」
《もうちょっと北です。そう、その辺り》
「……山を越えた先」
「ここかー」
ナフィは四方を山に囲まれている。
王都への道は大きな山を越える事もなく到着できる。
しかし、それ以外の都市へ行こうとするとどこも大回りになってしまう。
もしくは、覚悟を決めて山を越えるか。
《とりあえず、今は4つの選択肢があります》
「そんなにあるのか」
《と言っても、ほとんど使えない選択肢ですけどね》
そう言いつつ、ポートはこれからの案を話し始めた。
かいつまんで言うと、大体こんな感じだった。
一つ目、遠回り案。
これは最も非現実的な選択肢なので、切り捨てる為にまず挙げたのだという。
ここから目的の町までは、山を回避すると何カ月かかるか分からない。
今はまだ大侵攻の兆候がある程度だが、恐らくは間に合わないだろう。
二つ目、山越え案。
山を越えて目的の町に向かう。
シンプルな案だが、これは大きな問題がある。
「客車がなぁ」
《そうです。客車を持って行くのには、あの高い車輪を買う必要があります》
「でも、そんな金無いぞ」
俺たちで歩いて行くという案もあるにはある。
本来の冒険者はこうやって移動するもんだし。
ただし、その場合は……。
「……私が行けない」
「だよなぁ」
大侵攻という点を考えると、ライトベルは非常に強力な駒となる。
俺も既に結構な魔法が使えるようになっているので助けにならない訳ではないが、やっぱりライトベルがいるのといないのとでは大きく違う。
とりあえず保留だな。
三つ目は、ゲートを使ったテレポート案だ。
「そうだよ、こういう時こそテレポート使おうぜ」
「……まぁ、壊れてるんだけどね」
「へ?」
《先日、あちらの町でゲートの破壊騒動が起きたんですよ》
「あっちの町で壊れたのか」
「……復旧の予定は未定。ただし、近くの町から歩いて行くという選択肢はある」
「まぁ、それならまだなんとか出来るか」
ここから目的の町の隣町へ飛び、そこから徒歩で向かう。
一応候補としては保留だな。
《そして四つ目ですが》
「ほう」
《見捨てるという選択肢です》
「何か人聞きが悪いな」
「……あの町は、町の専用の兵士がいる」
《かなり強い事で有名ですね。現に、一度大侵攻を食い止めてますし》
「あぁ。この町どこかで聞いたと思ったら、前にも大侵攻受けてたのか」
《はい。その時の教訓を活かし、以前にも増して多くの兵を雇っているとの事です》
「……それに、あの町には強い魔法使いがいる」
「へぇ、それは楽しみだな」
ライトベルも正確な名前は覚えていなかったらしいが、姓に風の魔法が入っているらしい。
最強の風使いか。確かに範囲攻撃は強そうだ。竜巻とか起こしたり。
「って事は、俺達が無理に行かなくても守れるだろうってことか」
「……そういう事」
よくよく考えれば、別に俺達が全部の大侵攻を食い止める必要はない。
俺がこの世界に来る前から、大侵攻は存在していたのだ。
そして確かにいくらかの町は壊されたらしいが、まだほとんどの町は健在なのだ。
別に俺達が行かなければ、必ず町の皆が皆殺しっていう戦いではない。
「じゃあ行かなくても問題ないか」
「……正直、今回は場所が悪かったし」
話がまとまったので布団に潜りこむ。
さっきまで見ていた夢があまり良い夢ではなかったような気がするが、とにかく眠い。
もう前世で言うところの、深夜3時ぐらいじゃなかろうか。
まぁ、もっとも前世ではそれぐらいの時間余裕で起きてたんだけどな。
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体が揺さぶられる。
全身に重みを感じる。
あぁ、これって誰かが俺の掛布団の中に潜り込んできた感覚だ。
誰だろう。本命リア、対抗ライトベル、大穴寝ぼけたスランだろうか。
「……ったく、こんな時間に誰が」
目をこすり、俺に体重をかけている人物を見る。
えーっと、この髪の色は……。
「お前……」
「話がある。地図を持って、そっと外に出てくれないかい?」
この金髪、エレフトラか。
一番予想外の人物が入り込んできた。
エレフトラはそっと布団から出ると、音を立てないように戸を開けて階段を降りた。
……布団に入ってきた意味は何だったんだ。
俺も他のメンバーを起こさないように、そっと外に出る。
「で、何の用だ?」
「あんたたちが話している内容、聞かせて貰った。大侵攻が起こるって?」
「あぁ、あの話か」
起きていたのか。
何やら心配そうな顔をしている。
「その大侵攻、どのポイントで起こるんだい?」
「あぁ、この辺りだって」
地図を広げてそのポイントを指す。
それを見たエレフトラは、真っ青な顔をした。
「その位置は……」
「どうした? 何かあるのか?」
エレフトラは真顔で何かを考え始めた。
そして、考えがまとまると俺にそっと……。
「おい、どうした」
「頼む。この町に向かってくれないか」
あのプライドが高いエレフトラが、俺に深々と頭を下げた。
余りに予想外な光景に、俺はちょっと固まってしまった。




