10.車輪交換
もう嫌だ。
この粘性のある液体なんなんだよ。
俺が寝ている間に何があったんだよ。
ロントとスランに聞いたけど、洗濯物は気にしてたけど俺の方には気を向けていなかったらしい。
もうやだ。怖い。気持ち悪い。
井戸から水を汲み上げ、乱暴に顔をゆすぐ。
服が派手に濡れてしまったがどうでもいい。
この不快感を少しでも取り除きたい。
《機嫌悪いですねー》
(そりゃそうだろ……ってか、お前犯人分かってるんじゃないか?)
《うーん、調査中ですね。モンスターが襲って来たりとかは情報が集めやすいんですが》
どうやら俺が寝ている間の情報は集めにくいらしい。
女性の場合はそういうサポートをお願いする場合もあるそうだが。襲われそうになったら起こしてくれるとか。
だが、悩ましい事にそれを使ってしまうと他の事にポートを使いにくくなってしまう。
ポートは基本的に俺のハーレム候補を探していたり、ライトベルの手伝いをしてたり、何か致命的なイベントが起きないかチェックをしていたりする。
そっちもそっちで重要なのだ。というか、俺が嫌がらせを受けている事を我慢すれば、問題ないと言えばないのだ。
《というか、一個意見いいですか?》
(何だ?)
《ナフィから出ちゃえばいいんじゃないですか?》
(……あ)
そうだ、その手があった。
俺たちは奴隷を買うという目的があった。だからこそ、この町に来た。
でももうスランを買った訳だし、ロントの怪我の様子も大分良くなった。
じゃあ、この町にいる理由はないか。
(ってことは、王都へ帰るのがベストかな?)
《そーですね。魔術協会の会長さんにもお会いできるかもしれませんし》
(あー、そういやそんな話もあったな)
最近バタバタしていたから、すっかり忘れてた。
そうだな。あっちもどうにかしなくちゃ。
他の人の意見も聞いて、町を出てしまおう。
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気分を変えに温泉にでも行こう。
そう思い、温泉セットを取りにいく為に部屋へ戻る途中リアに会った。
リアは客車の近くで何か難しそうな顔をしていた。
「どうした?」
「あ、ユーハさん。何かこの車輪、痛んでるなって思って」
「どれどれ?」
リアが指摘する車輪を見る。
あー、結構ガタが来てるな。
普段町中で走る分にはいいんだが、旅に使うとなるとやっぱり消耗するんだろうか。
たまに雨の日とかあったしな。油は結構頻繁に差してるんだけど、一部摩耗してしまってるな。
そもそもコレは中古だったしなぁ。
「これは修理した方がいいな。道中で壊れたら面倒だし」
「この辺りに修理できる所ありますかね?」
「どうだろう。ここは金持ちが多いところだから、客車を修理できる業者とかもいそうだけどなぁ」
あれ、ちょっと待てよ。ってことはこの修理が終わるまではナフィから出られないのか?
いや、そもそも修理ってどんだけ時間かかるんだ?
(とりあえずポート、この辺りで車輪をなんとか出来そうな業者を調べておいてくれ)
《今調べてますよっと。車輪は修理にします? それとも交換で?》
(うーん……。値段と速さが知りたいから、両方調べてくれると助かる)
《じゃあちょっと時間かかるかもしれませんが、宜しいですか?》
(ポートは優秀だからな、期待してるぞ)
《ちょ、そんな事言われたら頑張らざるをえないじゃないですか! お任せください!》
ポートはこの手の言葉に弱いからな。
チョロいぜ。
《ちょっとぉー、聞こえてますよぉー》
「えへへー、ユーハさんと2人っきりです」
「こーら、引っ付くなよ。今日は特に暑いんだからさ」
「やーでーすー」
俺の腕にリアが絡みつく。
普段はこういう事はないのだが、たまーに甘えてくる時がある。
俺達の中で一番頑張ってるのはリアなので、たまにはいいかなとは思っている。
傍から見ると、バカップルに見えるんだろうなぁ。
ポートが調べた結果、この町には客車を扱う店が6カ所あった。
しかし1つは修理は請け負っておらず、1つはつい先日閉店。
実家に帰るということで今の時期休業しているのが2つ。
つまり2店舗だけが候補として残った。
だが、その候補の1つは宿から非常に離れた場所にあった。
そんなところに、壊れかけの客車を持って行けるか怪しい。
ということで最後に残った『リトール車具店』に向かっている。
幸い比較的大手の店だそうで、車輪の部品販売もしていて交換だけで済みそうだ。
「えっと、あっちですね!」
「こっちか」
向かう間にポートから聞いた話だが、基本的に客車を扱うお店は大通りに必ず面しているらしい。
理由は客車が通れる道じゃないと、お店で客車を出し入れ出来ないからだ。
そういえば前世でも車を扱うお店は、ほとんどの場合大通りに面していたような気がする。
こういうもんはどの世界でも一緒なのかもしれない。
「ここか」
「広いですねー」
お店は大きな敷地を有していた。
十数台の客車を陳列し、客車に取り付ける椅子や屋根が奥に並んでいる。
当然そこに車輪もあった。
「結構いろんな種類があるんだな」
「あ、コレ今使ってるのと一緒ですよ」
「ほんとだ。結構いい値段するなぁ」
前世では自転車の車輪を変えるだけで、本体ぐらいの値段が必要だった時があった。
この世界ではまだ大量生産とかは行われていないし、自転車より遥かに高いものだ。
客車の車輪交換という事で、ある程度の金額は覚悟してあった。
俺の予想よりは多少安いぐらいだったが、やっぱり結構いい値段するな。
「こっちはすっごい高いですねー」
「えーっと……何か特別な金属を使ってて丈夫らしい」
「へぇ、相当丈夫なんですね」
店員に聞くと、登山とかに使う丈夫なものだそうだ。
全く手が出る気がしない。
ちょっとした家が買えそうな値段だ。
車輪の為にここまではちょっと出せないなぁ。
登山の予定とか無いし。
とりあえず今日は下見なので、仲間と相談して決定してからでいいか。
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帰り道、リアに付き合って結構買い物をした。
食糧というのもあるが、その前に調味料が不足してきたらしい。
塩とスパイスの袋を買って帰る。
リアは何か香りのする木の欠片を買っていた。
燻製の作業には、こういう木が必要なんだとか。
木片の名前は知らんが。
宿に戻って情報を整理した後、客車の中で会議を行う。
議題は二つ。この町を出る事と、車輪についてだ。
「車輪はそんなに酷いのかい?」
「あぁ。そこから顔出して下を見て貰えば分かるけど、相当ガタが来てる」
「ということで、私とユーハさんで業者さんに行ってきました」
「見積書がこれだ」
紙をぺらっと渡す。
店員さんに頼んで書いて貰ったものだ。
「多分これからある程度の交渉が入るから、コレよりは少ない額になる」
「この金額は何だい?」
「それは車輪の金額だよ。コレが今の客車が付けてるので、コレが1つ上の。んで一番高いこっちが登山とかも出来る車輪だって」
「……ふーん」
その他聞いてきた事や、他にお店にあった良さそうなパーツ。
それと今後の事についても話す。
まぁほとんど今後の予定に関しては皆俺に一任してくれるので、会議というか俺のプレゼンテーションみたいになってるが。
「じゃあ、車輪は今より1つ上のランクのものに。それが設置出来次第、王都へ出発でいいか?」
「……異議なし」
「私も意義なしです!」
「同じく」
「うー!」
よし、一通り同意が得られた。
これで堂々とこの町から逃げられる。店員の話では明日にでも持って行けば、一晩で交換してくれるそうだ。
最速で明後日か。
……ってあれ? エレフトラが異議なしって言ってないな。
何か問題があるのだろうか。
「エレフトラ、大丈夫か? 何か問題あるのか?」
「んー……いや、問題ないさ。異議なし」
「そうか」
何か引っかかる事があったんだろうか。
この町から出る直前に、窃盗しまくっておくとかそういうのじゃないだろうな。




