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4.はじめてのデート

「ごめん、待たせた?」

「いえ、今来たところです」

「じゃあ、行こうか」


 パトロールを行った日の夕方、俺は着衣一式を買う事に決めた。

 ファッション係のリアと待ち合わせして、服等を売っている店が密集する地域にやってきた。

 とりあえず動きやすい服を2着程欲しいところだ。


「センスが良い服より、安くて動きやすい服を選んで欲しいかな」

「ふふ、分かりました! ユーハさんの為なら一肌脱いじゃいますよ!」


 頼もしいな。

 俺こういうのには疎いからな。異世界に来たばかりとかを除いても。


 リアのおススメのお店に入る。

 若い店員さんがすげー作り笑顔で微笑んでくる。

 あー駄目だ。服を売ってるお店の雰囲気に慣れない。

 俺だけじゃ絶対入らないな。こういうお店。


 オサレなお店と思いきや、値段を見るとリーズナブルなものもあった。

 そりゃそうか。基本的にこの町は金持ちはあまりいないからな。


 リアが比較的値段が安い一着を手に取り、俺に近づけてうーんと悩む。

 その作業を繰り返す事20分。

 リアはよし、と呟くと店を後にした。


「あれ? 買わないの?」

「値段の割に丈夫じゃないものだったり、微妙でした」

「お、おう……」


 ダメだ全然分からん。


《乙女の買い物にも、色々あるんですよ》

(難しいなぁ)

《ほら、リアちゃん先に行っちゃいますよ?》


 先にずんずん進むリアに急いで追いつく。

 その後3件程ハシゴし、古着屋で2着買う事で落ち着いた。


「掘り出し物でした!これと色違いのこれがいいと思います!」

「おぉ、ありがとう……」


《お疲れですね》

(そりゃあな。試着も何回もしたし)

《世のリア充の人は、こういう苦労もデートの度にしてたりもするんですよ》

(独り身って楽なんだな)


 前世、前々世ではこの類の事は経験した事はなかった。なかなか疲れる。

 とはいえ、やっぱり女の子と一緒に出掛けるのは楽しいな。

 こうしてると良い子なんだが……。


(今は大人しいな)

《ヤンデレっていうのは、物語が進む程病むって相場が決まってますしね。 今は不倫してるわけじゃないですし》

(まだ……な)


 ハーレムということは、リア一筋では行かないという訳であって。

 まぁチートを完全に投げ捨ててリアと一緒に楽しく暮らすとかでもいいんだけどな。


《こちらとしては困るといえば困りますが、選択肢としてはアリですね》

(そうなると、夫婦仲睦まじい中お前が邪魔になるな)

《またまたー、一緒に楽しく暮らしましょうよー》

(……割と本気で悪い冗談だな)

《酷い!》


 まぁ、こうしてみると普通の女の子なんだよなぁ。リアは。


「あの、そういえば今晩のご飯はまだですか?」

「あぁ、そうだな」


 昼はその辺の店で済ませてしまった。

 怖いから火の通った料理を選んでな。

 朝は女将さんの手料理だった。やったぜ。


「お肉に火を通す料理を研究してるんですが、良ければ一緒に食べませんか?」

「うっ……」

「……ダメ、ですか?」

「や、そんな訳ないじゃないか。ありがとう」


 食事に何が入ってるか分からない事以外は普通の子だ。

 その一点のみが割と致命的な気がするんだけどな。




 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~




 俺達は買った古着を持ったまま、リアの家にやってきた。

 一度洗った方がいいという判断だ。


 嬉しい誤算として、一度宿屋に戻った際女将さんに旦那さんの古着を1枚譲ってもらった。

 パジャマとして使えそうだ。

 女将さんが今のところ一番女子力高いというのはどういうことなんだろう。


 料理が出来るまでの間、近くの森に行ってナイフを投げる練習とかしてみる。

 コツを掴めば案外楽勝だな。こんなん。


《命中率を上げる魔法を使っておきながら良く言いますよ》

(うっせ、魔法使わなければまっすぐ飛ばないナイフが悪い)


 短剣を素振りしていると、リアがやってきた。

 お鍋が出来たらしい。早速向かおう。




(うん、美味そうではあるんだよなぁ……)

《えっとこの中にはっと……あっ》

(状態異常対策の魔法かけとくな……)



 魚介系の出汁の効いた美味しい鍋だった。

 ちなみに芋に口を付けた時に反応があったので、芋が今回のキーアイテムだったらしい。

 何か舌がピリピリしたけど、一応異常は無かった。

 ……これさえ無ければなぁ。




 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~




 翌日も水浴びに向かった。

 今度は着替えがあるので一度宿に戻り、食事を済ませていた。


「あ、ユーハさん! おはようございます!」

「おはよう、リア。今日から宿屋の手伝い復帰だっけ?」

「はい! 頑張ります! あ、お洗濯するものありましたらお預かりしますよ」

「あぁ、悪いな」


 非常に助かる。

 ちゃっかり下着もお願いしてしまった。ちょっと恥ずかしい。


《ラッキーでしたね。本当は洗濯サービスは有料なんですよ?》

(好意でやってくれたのか。リアは本当にいい子だな)


 なんだかんだで結構家事をやってもらってるな。

 本当に基本は良い子だな。

 まだ病む要素がないしな。うん。



 ギルドに向かうには向かうのだが、せっかくなのでちょっと違う道を使う事に。

 すると、ふと大きな建物が目に入った。

 何だろうあれは。


《あ、あれは銀行ですよ》

(銀行かー。存在するんだな)

《利子は結構高めに設定されてますよ。ただ、よく潰れます》

(……預けるのはやめておこうか)


 まぁ、今の所はお金預けるどころか借金生活だけどな。




 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~




「あ、ロントさん。おはようございます!」

「ユーハか、おはよう。昨日は助かった」

「いえいえ。こちらこそ色々教えていただきありがとうございました」


 ギルドに向かったら、先にロントがいた。

 何か俺を待ってた節がある。

 ちょっときゅんとしてしまう。


「今日はどうするんだ?」

「せっかくだし、今日もパトロールにしますよ」


 ロントは気のせいか嬉しそうだった。

 1人よりは2人の方が楽しいしな。


《一人ぼっちは寂しいもんな》

(やめろ、せっかく言わなかったのに)


 今日は昨日行かなかった場所をパトロールすることに。

 俺の事を考えてくれてるんだな。助かる。






 パトロールは非常に色々と解説してくれる。

 が、基本的には暇だ。

 同じ場所を通過する時もあるし、原則ロントさんは仕事中は硬い為黙っている事も多い。

 俺から話を振れば、色々答えてくれるんだけどね。


 そんな暇な時も、俺にはこっそりと話す相手がいる。

 ポートだ。


(ってことで何か面白い話とか情報ないか?)

《そーですねー。たった今リアちゃんがユーハさんのパンツを洗おうとしてますよ》

(確かに凄い興味がある話だが、他に)

《えーほんとーですか? 今ユーハさんのパンツをくんかくんかするか迷ってますよ》

(……すっげー気になるけどその場面見れないしなぁ)


 あの子結構むっつりなのか。

 エッチな子は嫌いじゃないけどな。むしろ好きだ。


《えーっと、後は大した情報じゃないのが一個》

(何だ? とりあえず聞きたい)

《うーん、でもある意味ネタバレになっちゃうしなぁ》

(ネタバレ? いいから早く)

《分かりました。小説で例えると、この先の入口にクマのモンスターが街を襲いますよ。小説で例えると5行ぐらい後で》


「ロントさん! 緊急事態です! ついてきてください!」


 返事を聞かずに道を急ぐ。答えを聞いたら1行つかってしまうからな。

 俺とロントに足を速くする魔法をかけ、ついでに色々と魔法をかける。

 初めての実戦だから緊張するな。町の入口に到着し、ナイフの準備をする。


「グアアアァォゥ」

「ワイルドベアー! 町中に出てくるなんて! よく分かったな!」

「ネタバレされましたからね」


 本当にクマのモンスターが出てきやがった。

 何はともあれ、ここで食い止めないと町が危ない。

 こいつは生かして捕えても仕方ないのでこの場で処分する。


「ユーハ、私が行く。援護してくれ」

「俺が引きつけます。ロントさんは隙をついて攻撃してください」

「……君は不思議な奴だな。分かった。従おう」


 クマにナイフを投げる。

 腕にナイフが刺さるが、俺の力ではたかが知れている。浅い傷しかつけられない。

 だがこれでいい。俺に意識が向いたクマ野郎は、俺に向かってやってくる。

 そこにロントが近づいて剣で一閃。

 いやぁ、見事だ。


「……やけにあっさり接近を許したな。このワイルドベアー」

「あとで説明しますよ。それより、このクマの死体どうします?」

「それはギルドの連中に任せる。こういう後処理は、専門としてる連中がいるんだ」


 それから5分後、何人かの男がやって来てクマの死体を持って行った。

 俺達は引き続き巡回にあたる。





「……ということで、精霊魔法に気配を消すというのがあるんです。対象1人が限界なんですけど」

「なるほど。先ほどは私にそれをかけていたから、接近が容易だったのか」

「そういうことです」


 最初は微妙かもしれないと不安になっていたが、精霊魔法も中々馬鹿に出来ないな。

 俺の気配を消して戦うのもいいし、今回のように腕の立つ者の気配を消して戦いを有利にするのも面白い。

 後衛の魔法使いがいる場合は、そいつに使う事で後衛が狙われる確率を減らす事もできる。

 この魔法は汎用性が高くていいな。

 逆に暗殺者とかに使われた時が怖いが。


(今回は助かった)

《それは何よりです! 私は優秀ですからね!)

(5行って意味があまりよく分からなかったし、もうちょっと手前で教えて貰ってもよかったんだけどな)

《まぁまぁ、結果オーライですよ》


 昨日の泥棒小僧よりは報酬が多そうだ。

 これは期待していいだろう。


《それより、問題はこれからですよ》

(これから?)

《今から、ユーハさんを揺るがす大事件が起こります。そこで、2択を選ばせてあげます》

(2択?)

《はい。間もなくある事件が起きます。その時、ユーハさんは2択を選べます》

(ほう)

《1つは足を速くする魔法をロントさんと自分にかける。もう1つは自分にかける。というものです》

(……それは何かの違いがあるのか?)

《はい。ザックリ言うと、情報を取るかお金を取るか! ですね》

(よく分からないな)

《さて、そろそろ時間ですよ。あと3秒ぐらいです》


 えっそんなにすぐなのか。

 身構える間もなく、悲鳴が聞こえてきた。


「誰か助けてえええっ! 強盗、強盗よ!」

「ユーハ、行くぞ!」

「はい!」


 これがその事件って奴か?

 そりゃ2択じゃないと思うんだが。これはロントさんにも魔法をかけて、急いで犯人を捕まえないと。

 そう考えた俺は、自分とロントに足の速さを上げる魔法をかけた。

 そういう選択をした。




 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~



「先に行くぞ! ユーハ!」

「はい!」


 うおお……ロントさん足早えぇ。

 さっきのワイルドベアーの時は俺が先に走り出して、距離も近かったからそんな気はしなかったが。

 何とかついて行こうとするが、ついにロントさんを見失ってしまう。

 地力の差が違う。俺は知らない場所だから、走るのをちょっと躊躇しちゃうしな。


《そこを右です右!》

(分かった)


 なるほど、ロントとはぐれるか否かの選択肢だったんだな。

 となると、先に行ったロントが危ないのか? しかしそれだと情報かお金かの2択の意味が分からない。

 どういう事なんだろう。


 やがて、俺の目の前に空き地が見えてきた。

 そこにはロントが……。


「……え?」








 そこには確かにロントがいた。

 そして、恐らく犯人だった何かが床に転がっていた。

 もはや肉塊としか言えない代物となっていたが。


 ロントが男を切り伏せた。それはまだいい。

 その犯人だった男の手には刃物があった。

 恐らく人違いではないだろう。

 男がロントを見て刃物を突き付けた。

 ロントは正当防衛として切り伏せた。

 まぁそれはまだいい。


 その後、ロントは一心不乱に男を切り続けたのだ。

 もはやそれは意味のない行為。

 いや、彼女とっては意味があるのだ。


(……ロントは何をしてるんだ?)

《分からないんですか?》

(いいや、理解したくないだけかもしれない)

《そうですか。彼女はですね……》



 彼女は、ロントはある癖があった。

 性癖と言ってもいいかもしれない。

 それは、殺人癖とでも言うものだろうか。


 ロントは好きだった。

 人の肉を切る感覚が。

 人の骨を砕く感覚が。

 まるで通販で物を買った時についてくる、緩衝材をプチリプチリと潰すのを楽しむように、人を切り刻むのを楽しんでいた。


 俺がドン引きする中、ロントは悦に浸った艶やかな表情をしていた。

 全身に強盗の返り血を浴びた姿で。


(……1つ、お願いしてもいいか?)

《何でしょう》

(サイコロを転がしておいてくれないか)

《SANチェックですね! かしこまりました!》


 ポートの声を聞いて、心を少しでも落ち着かせたかった。

 ちなみに3下がったらしい。妥当な数字だと思った。

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