16.Stretcher
俺達の必死の治療の甲斐もあり、ロントの出血はなんとか抑えられた。
傷ついた内臓も修復され、パックリと開いた傷口も塞がりかけている。
ただし、大きな跡はついてしまうかもしれない。
まぁ生死の境を彷徨う程度の傷ではあったので、跡だけで済んだと言えばいいとも言えるか。
ロントの表情が穏やかになっている。
だが、それより俺はエレフトラの反応の変化で安心していた。
さっきまでは最善を尽くさないと! という感じだったが、今は大分余裕のある表情をしている。
恐らくもう大丈夫だろう。
「ふぅ……リーナ、ユーハ。2人ともかけててくれ。ちょっと休憩するよ」
「はい!」
「分かった」
エレフトラが一度ロントから離れて近くの岩に腰を下ろした。
リーナは一生懸命回復魔法をかけているが、精霊魔法は基本的に片手間でかけられるので、魔法が途切れないように注意しながらエレフトラの隣に座った。
それにしても、今回はエレフトラの冷静さに本当に助けられた。
俺たちだけじゃロントを失っていたかもしれない。
《まさしくプロフェッショナルですね》
(そうだな)
《魔術師っていうのは見える世界ではなく、見えない世界のプロフェッショナルらしいですし。何か通ずるものがあるんですかね》
(お、おう……)
しかし、このまま草原のど真ん中にいるわけにはいかない。
モンスターに襲われるかもしれないし、衛生的にも良くない。
だが、迂闊に運ぶ事も出来ないだろうなぁ。
俺が抱っこしてもおんぶしてもいいが、傷口が広がったら元も子もない。
「ユーハさん、ちょっといいですか」
「どうした?」
エリックが話しかけて来たどうしたんだろう。
「遠くから誰かが近づいてくるみたいです。ナフィ側からみたいですが」
「ん? どれどれ?」
うーん、ほとんど分かんないけど確かに誰か来てるな。
エリックは目が良いんだろうか。
《おぉ!》
(どうした?)
《あの方たちは、ナフィのギルドの救護班の方々です。担架を持ってこっちにきてますね》
(へ? ありがたいけど都合良すぎないか?)
《ライトベルさんですよ! ロントさんの危機を察知して、ギルドに連絡してくれたんだと思います!》
ロントの危機まで察知できたのか。
あいつすげぇな。
個人的には、ギルドまで向かったというところがビックリだ。
《あ、ライトベルさんはリアさんに指示しただけです。実際はリアさんがギルドまで走りました》
(そ、そうか)
とにかく助かった。
ロントが負傷して若干気が動転していたが、この世界も捨てたもんじゃないな。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
「それにしても、本当に凄いねぇ。あの力は」
「あの力?」
ナフィへ戻る途中でエレフトラが話しかけてきた。
「キスするだけで強くなれるってやつだよ。確かにキスする前後で、神様の力が全然違う」
「まぁ、だろうな」
そういえばこいつは神の力とやらが目に見える。
目の前で明確にその光景を見るのはこれが初めてか。
「キスするか? 俺はいつでもいいぞ?」
「それは……」
「冗談だよ、冗談」
やっぱりキスに抵抗があるようだ。
宗教上の理由なら仕方ないし、無理強いはしない。
今ロントは担架で運ばれている。
木製の担架だったので前世の物より乗り心地は悪そうだが、無いよりは全然マシだ。
それより気になる事がある。スランだ。
スランはずっと担架の近くで困った顔して歩いている。
それはただ親しい人が怪我したというだけではない。彼女は深く思いつめた表情をしている。
彼女は今、奴隷の立場だ。
それに加え、ロントは命の恩人でもあった。
そんな彼女が怪我をしてしまった。
自分が転んだというのが原因で。思いつめるなという方が無理がある。
正直何も言う事が浮かんでこない。
ポンポンと頭を撫でておいた。
スランが元気になるには、多分ロントが元気にならないとダメだろう。
ナフィの町に到着した。
正直俺達はギルドに寄ってる暇がないので、ギルドへの報告やその他もろもろはエリック達にお願いした。
ロントは宿に置く事になった。
正直ギルドに医療班はいるが、エレフトラより高度な治療が出来るという訳でもない。
それに別途高額な料金が発生してしまうとか。
宿に到着すると、リアが心配そうに立っていた。
そして俺達の姿を視認すると走ってこちらに来た。
「あの、ロントさん大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。エレフトラがなんとかしてくれた」
「明日にも歩けるまで回復するかねぇ」
「そうですか」
ただし実戦復帰はちょっと様子を見た方がいいかもしれない。
傷が開くといけないからな。
宿の中に入ると、従業員の人が一階の部屋に案内した。
1人用の部屋だ。3階までロントを運ぶのが大変だろうと、数日間貸してくれるよう交渉したらしい。
これもライトベルの案だという。
あいつ何なんだ。たまに凄い頭が回る。
まぁ当の本人は3階にいるんだが。
ここまで運んでくれたギルドの人、本当にありがとう。
リアを付き添いに残し、一度3階に戻る。
荷物が邪魔だ。
ライトベルと少し話したいしな。
ドアをノックして中に入る。
中ではライトベルが何か魔法陣を書いていた。
どうしたんだろう。
「ただいま」
「……おかえり。大変だったらしいね」
「あぁ、色々助かった。その魔法陣は?」
「……例の精霊魔法の犯人を捜してる」
そんなことが出来るのか。
確かに、今回のあのサイの暴走は黒幕がいるだろう。
ライトベルはふとスランを見ると、荷物をゴソゴソと探りだした。
「……スラン、ちょっと来て」
ライトベルはスランに何かを渡していた。
人形? 紙で出来たものかな?
「……お守り。持ってて」
スランはコクリと頷いた。
何だろう。呪いのグッズとかじゃないだろうな。
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ロントが目を覚ましたのは、その日の夕方だった。
リアが呼びに来たので、急いで1階へと向かう。
ロントがいる部屋に入ると、スランが嬉しそうにロントを見ている。
イヌミミがぴょこぴょこ動いている。
彼女はまだ体を起こせないようだが、意識ははっきりしていた。
顔色は良いようだ。
エレフトラがロントに声をかける。
「大丈夫かい? 痛みは?」
「えっと、割と大丈夫だ」
「そうかい。でも今は多分リーナの幻惑魔法がかかってるからねぇ。無理はしないように」
「分かった」
完全にお医者さんだ。
女医さんだ女医さん。
エレフトラはそれから数点ロントに問診をしていた。
恐らく問診をしながら、どこか異常がないのか確認しているのだろう。
まぁ多分大丈夫だと思うが。
リアがツンツンと俺の袖を突っついてきた。
「あの、ロントさんって今日の夕飯どうしましょう」
「そうだな、スープがいいと思う。味が濃いのじゃないといいかな」
「分かりました」
何で俺に聞くんだろう、エレフトラに聞けばいいのに。
と思ったが、そういえばリアに会った当初は医学に精通してるって設定だったことを思い出した。
まぁ、多分スープがいいだろうな。
ところでちょっと気になった事がある。
ロントに聞いてみよう。
「なぁ、幻惑魔法ってかかるとどういうの見るんだ?」
「えっと、そうだな……」
ロントが少し思い出すように天井を眺めている。
そして口を開いた。
「確かユーハが……」
「俺が?」
「私の胸や股を……」
「……ん?」
流れがおかしい。
それっていやらしい夢って奴じゃないか?
「まさぐったり……舐めたり……」
「舐め!」
エレフトラが動揺している。
いや、俺も動揺はしている。
どんな幻惑を見たんだよ!
完全にいやらしい夢見てるじゃねぇか!
エレフトラは恥ずかしがってどこか行っちゃったし。
「で、その後」
「おう。本番でもしたのか?」
「あぁ」
本番したのか。
夢の中の俺、羨ましいな。
「凄い切り刻めた」
「本番ってそっちかよ!」
「凄い、凄い気持ち良かった」
本人にとっての快感ってそっちなんだな。
というか、それがこいつの願望なんじゃないのか?
好きな人を切り刻みたいとか……。
やっぱり、こいつも油断ならないな。うん。
夢の中の俺。良く頑張った。




