15.Injury
二羽目のウサギと対峙するスラン。
さり気なくロントがウサギの足に傷をつける。
動きが鈍くなった相手だが、中々一撃を与えられないでいる。
こんなに大きい相手なんだけどなぁ。
「スラン、武器の特性を考えろ。縦にばっかり振るな」
ロントが助言する。
スランはそれを聞き入れ、今までモグラたたきのように上から叩いていたものを、スイングするよう横を意識した攻撃に変えた。
結果、スランのハルバードがウサギの顔面に直撃。
角度が悪かったのか、斧の刃ではなく面に当たったようだ。
とはいえあんな巨大なハンマーみたいなものが顔面にヒットしたのだ。
ウサギは気絶し、地面に倒れ伏した。
これはこれでアリだろう。
《ハルバードの特徴は、その重さですね。全体では槍よりやや重い程度ですが、先端に重さが集中する分ハンマー的な使い方が出来ます》
(突きより、ブン回す事の方が多そうだな)
《そこはまぁ個人差ですけどね。スランちゃんが今後どう扱うかです》
今後スランに求めるポジションは、いわゆるターゲットを受ける事だ。
スランがあの大きな武器を誇示し、気を引く。
その間、気配が薄くなっているロントが敵を倒していく。
コレを基本形にしたい。
そう考えると、スランがハルバードを使うというのは理に適っている。
そのリーチの長さから身を守るのが得意だし、幼女があんなにでかいものを装備しているというだけで目立つ。
つまり、ブン回していればそれだけで役割にはなる。
今はとりあえず難しい事は考えず、武器を上手く振り回す事を覚えた方がいい。
ちなみに、今はスランに精霊魔法をかけていない。
力を増す魔法をかければ、今よりかなり上手に扱えるのは確かだろう。
ただ、それがいつもとは限らない。
俺がいない時に戦う事も考えると、まずは精霊魔法なしで戦えるようになってほしいとロントと決めた。
あと1羽倒したら精霊魔法を使ってみるかな?
いや、今日はまず現在の状態に慣れる方がいいか。
精霊魔法は明日以降にしよう。
タイミング良くエリックとリーナが1羽引っ張って来てくれた。
ありがたいけど、俺たちばっかり戦っても暇だろう。
「エリック、そろそろ自分達で狩っててもいいぞ」
「はい!」
「一緒に付きあうよ」
エレフトラがエリックとリーナと一緒にウサギの群れへ向かう。
あのウサギ、図体の割に狩り甲斐があるというか。
スランがハルバードの振り方を試行錯誤している間に、エリック達の様子を見ている。
リーナが魔法を使ってウサギを引き寄せる。
エリックがウサギに立ち向かい、エレフトラが手をピカッと光らせた。
何だろうアレ。閃光か?
《電撃魔法ですねー》
(アレも回復魔法の応用なのか?)
《正確に言うと違いますが、関連性のある魔法ですね》
(関連性?)
ポートから後で聞いた話によると、こんな感じだ。
基本的に魔法を使う者は、1つの分野を突き詰めていくのが基本らしい。
しかし、それとは別に他の魔法をちょっとだけ使うという事もままあるのだという。
例えば、ライトベルは天候を変える為の魔法。
リーナは攻撃魔法の他に回復魔法を体得している。
それと同じように、エレフトラも攻撃魔法である電撃的な魔法が使えると。
閃光は何故か回復魔法として存在するらしく、その閃光魔法に関連性がある。
エレフトラは攻撃魔法に特化した魔法使いではない為火力はないが、ちょっとびっくりさせる事は出来るらしい。
ライトベルに習った足止めとかと同じか。
相手をビックリさせて、動きを鈍らせる目的というか。
まったりと眺めているわけにもいかないので、時々思い出したかのようにスランのフォローする。
エリック達は良い動きしてるなぁ。
エリックが女だったら無理矢理ハーレム入りさせても良かったかもしれない。
でもあいつらカップルだしなぁ。
《寝取りは無理な口ですか》
(そうだなー。ちょっと無理だな)
《そうですか、じゃああの子はやめときますね》
(おい、そういう候補もいたのかよ……)
全く油断も隙もない。
ウサギをあしらうエリックは、的確にウサギの急所を狙っていく。
このウサギは頭蓋骨が柔らかいらしく、剣を突き刺せば指先1つでダウンさ。
鋭い爪や角や牙が無いので基本的にタックルしかない。
しかし足が物凄い発達している訳でもないので、ある程度早い足からのタックルぐらいしかない。
しかも無駄にモフモフしてる体毛がクッションになり、中々大きなダメージにはならない事がほとんどだ。
だからこそ俺らの獲物になっている訳だが。
おっと。エリックの近くにいるウサギが、エリックの死角からタックルをかまそうとしている。
危ない! と言おうとしたが、リーナが上手くフォローしているな。
《エリック、上だ!》
(いや、後ろだろ)
こうして、俺たちはウサギをガンガン狩って行った。
このウサギは逃げるという事を知らないアホで助かった。
難易度が低いクエストなので報酬は少ないだろうが、結構効率よく数を狩ったのでそこそこの額にはなるはずだ。
6人で割った時に、エリックとリーナの食費の足しぐらいになれば幸いだが。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
一角にいるウサギを大体狩り尽くした俺達は、その時剥ぎ取りの作業をしていた。
ちなみにウサギちゃんズの肉は硬くて食えたものではないらしい。
けっこうまんまるに太ってるのになぁ。
ということで、今俺達はウサギの尻尾を剥ぎ取っている。
恋愛のお守りになるんだとか。恐らくこの中でリア充になってたウサギもいるだろうが、そいつら全員やられちゃったけどな。
それって恋愛のお守りとしてどうなんだろう。
ふと、何かの力を感じた。
最初は気のせいかと思ったが、いや違う。何か身近なものを……。
《ユーハさん、気づきました?》
(何かの力を感じたが)
《近くで、強い精霊魔法の力を感じました》
(精霊魔法?)
《気を付けてください。何かが来ます》
次の瞬間、悲鳴と断末魔が上がった。
「何が起きた!」
「あっちの方で誰かの悲鳴が!」
リーナが東の方角を指さす。
そちらの方角には、確か他の冒険者が違うクエストを消化していたはず。
何かあったのか? いや、違う。ポートは何かが来ますと言っていた。
ここを動かない方がいいのか? 向かった方がいいのか? 離れた方が?
そう考えている暇もなく、遠くから何かの塊が飛び出してきた。
あの色、あの形、あの角。
間違いない。サイだ。
「ライノスピア!? どうしてこんなところに」
「よく分からんが、こっちを狙ってる。危険だ、一旦逃げるぞ!」
反射的に使えそうな魔法を味方全体に片っ端からかける。
この際ウサギの死体なんか放っておいていい。
とにかくダッシュでこの場から離れる。
サイはこちらに一直線で向かってきた。
早い。本来早い種類なのだろうが、こいつにはあの魔力を感じる。
俺と同じ精霊魔法のだ。
となると、いつか追いつかれるかもしれない。
だが、サイはイノシシと同じで一直線に進む習性がある。気がする。
となると、しょっちゅうイノシシ狩りをしている俺たちには動きが多少読めるはずだ。
サイに向かってナイフを投げる。
距離としては全然届かないが、サイの意識が俺に向いた。これでいい。
引きつけてから、気配を消す魔法を使ってかわす。
一度近くで足を止めてさえしまえば、こちらにも理がある。
サイは物凄いスピードでこちらへと向かってくる。
俺は背後に気を配りながらそのチャンスを伺う……。
その時だった。
スランが転倒した。
足場が悪かったのだろうか? いや、もしかしたら俺の失態か。
スランは精霊魔法の強化を体験したことがなかった。
そんな彼女に全力の強化魔法をかけてしまった。
急な体の変化についていけず、足がもつれてしまったのか。
今回精霊魔法を使うのを先延ばししたツケが、こんなところで来てしまったのか……?
俺はすぐさま気配を消す魔法を解除し、スランにかける。
しかし、解除には少し時間がかかる。
サイは一度足を止め、スランの方へ体を向けた。
これはマズイ。
ナイフを投擲する準備をする、リーナとエレフトラも魔法の構えを取る。
しかし、サイが余りにも早すぎて当たる気配がしない。
当たっても、その硬い皮膚が更に強化されているだろう。有効打も期待できない。
その時、スランの近くにいたロントが動いた。
彼女はスランの持っていたハルバードを拾い上げると、自身の剣とクロスするように構えた。
受け止める気か?
《いえ、受け流すつもりだと思います》
(出来るのか? 相手は数倍の体重があるんだぞ?)
《どうでしょう。一度足を止めたので。今は彼女を信じましょう》
何かあった時に備えて、全力で彼女らの元へと走る。
サイはその角をロントへと向けると、その巨体を全力でロントにぶつけようとした。
ロントはその角を避けつつ、強引に横へと持って行く。
すげぇ、俺の精霊魔法込みでも受け流せるのか。
あれも彼女の普段の修行の成果なのだろうか。
サイはロントによって大きく軌道を修正させられた。
そのまま横を通り抜けるサイ。良かった、第一撃は防げた。
そう思っていた。
「……は?」
「ロントさん!」
サイは通りすがりに、何かをロントにした。
ロントは、大量の血を腹部から流しつつ倒れた。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
ライノスピア。
一見するとただのサイだが、このモンスターには普通のモンスターとの大きな違いがあったらしい。
それは尻尾だった。
通常、サイの尻尾はあってないような小さいものだ。
しかし、このライノスピアは違った。
長い尻尾の先に、鋭利な刃物のような何かが付いているのだ。
まるで槍のような。
ロントはすれ違いざまに、その槍のような尻尾で腹部を刺されていた。
スランはロントに駆け寄って泣いている。
だが、脅威は去っていない。
このサイをどうにかしなければ、また誰かがやられてしまう。
しかし、どうすれば……。
《おっ!》
(どうした?)
《流石ですね、ライトベルさん。粋な事をします》
次の瞬間、サイの足が急に止まった。
今までの威勢の良さがどこかへ行ったかのようだ。
《ライトベルさんが、ナフィから呪術を飛ばしてくれてます》
(数キロあるんだが、そんな事が可能なのか?)
《ユーハさんの靴に仕込んであった魔法陣を介しているんでしょうね》
いつの間にそんなものを。
だが、よくやった。
その後、俺とエリック、リーナの三人でサイを呆気なく倒した。
サイは強いモンスターとはいえ、そこまでの脅威になる相手ではなかった。
謎の精霊魔法さえなければ。
エレフトラがロントに駆け寄っている。
サイに早々にトドメを刺した俺達は、急いでエレフトラの元へ向かった。
ロントの鎧が既に外されていた。
……結構深い傷だな。
腹部をかなり深く刺されているらしい。内臓が損傷しているかもしれない。
クッソ、ロントだからチートの再構築が使えない。
「どうだ? 様子は」
「ちょっとマズイねぇ。彼女痛みで興奮して、血がどんどん出て来てる」
「あの、私に手伝える事ありますか?」
「幻惑の魔法は?」
「少しなら」
「上等だよ」
リーナが治療に参加する。
俺も近くに寄って手伝いをする。
「リーナ、あんたは幻惑を使って精神を安定させな」
「はい!」
「俺は? 自然治癒力上げるの使うか?」
「それは後! 血が無駄に流れる。それより、ここを抑えててくれないかい」
「分かった」
「……こりゃ魔法の力が足りないかもしれないねぇ」
「リーナとエレフトラに魔力を上げる魔法使うぞ」
「助かります!」
「それは助かるよ」
エレフトラの治療は非常に的確だった。
流石回復のプロフェッショナル。本当にいてくれて助かる。
「ユーハ、その魔法もうちょっと強く出来ないかい?」
「いや、これ以上は辛い」
「マズいねぇ……」
ロントの流血は中々止まらない。
結構大きな血管を損傷しているらしい。
今エレフトラはそこの回復に力をいれている。
魔力を補強する手段……。いや、一個あるか。
エレフトラに耳打ちをする。
「……それはいいね。分かったよ」
「閃光は任せた」
「あいよ」
計画が決まった。
ポートにも報告しておかなければならない。
(と、言う事だ)
《強化はいつもの精霊魔法ですね? 分っかりました!》
エレフトラは俺が目を逸らしながら目をつぶるのを確認すると、強烈な閃光を放った。
光がその場を支配する。
俺は、その間にそばで泣きべそをかきながら立っていたスランを強引に引き寄せた。
そして、こっそりとキスをした。
スランとキスをする事で、俺は精霊魔法の腕をまた1つ上げる事が出来る。
その上昇で魔力を強化する精霊魔法も強化される。
この場をなんとか切り抜ける。
今出来る策は、何でもやっておきたかった。
悪いな、スラン。
お前とは話し合った上でキスをしたかったがそういう訳にもいかなくなった。




