13.Shopping
中に入ると、俺達の他に何人かいた。
恐らく支配人の男。スタッフが1人。なんか知らないけどマッチョの男。
数人の少女もいて、中にはあの子もいた。彼女たちが俺らの候補だろう。
結構可愛い子が多いな。1人なんかゴリラっぽいのがいるけど。
「あ、ユーハさん!」
「今どんな状況だ?」
「あの男性に、あの子が挑むって状態です!」
挑む? 何を?
と思ったら、マッチョの男性と例の少女が机で向かい合って座った。
そして手を握り肘をつく。腕相撲か。
支配人の合図で両者力を入れる。
……力が均衡してるように見えるけど、マッチョの方が手を抜いてるんじゃないだろうな?
《まぁ、手は抜いてるんですけどね……》
(だろ?)
《いや、手を抜いてるのはどうやら女の子の方なんですよね》
(へ?)
《彼女、全力で腕相撲すると男性の腕を折っちゃうみたいで》
そんな馬鹿力なのか、あの子。
外見からは想像もつかない。
《そもそも筋肉の要素が違いますね。細い腕に見えますが、まるで鉄みたいな筋繊維をしてるみたいです》
(そこまで違うのか。人間とモンスターのハーフって)
しかしだったら尚更そんな安値で売らない気がするんだけどなぁ。
こうなるとちょっとあの子が可哀想な気がする。
もしかしたら客の前で堂々と男を負かせてしまって、買われなかったという事もあったんだろうか。
少女はしばらく苦戦したフリをした後、男を負かせた。
エレフトラとリアが拍手している。
ロントは真顔だ。俺に決めろと言われたからか、真剣にチェックしている。
少女は椅子から降りると、ロントの元にかけよってきた。
何アレ可愛い。俺もされたい。
少女はロントの裾をキュッと持つと、ニコッと笑った。
一瞬ロントの真顔が崩れるのが見て取れる。ロントよ、それが萌えるってことだ。
「なぁ、もういいんじゃないか?」
「しかし……」
「正直そこまで懐いちゃうと、俺からも他の子にしようとか言い辛いしさ」
「そうですね、この子可愛いですし。なんか仲良く出来そうです!」
人肉というのは確かに気になるが、人肉も食べるというだけで普通のものも食べるのだろう。
どうやらソレが特別好物という訳でもないらしいし。
これ以上時間を食うのも他の少女たちに失礼な気がする。
「それでは、こちらにサインをお願いします」
「分かった」
いつの間にか俺がリーダーっぽいポジションになっていたので俺がサインすることに。
念の為契約書の概要をポートに聞いたが、怪しいところはなさそうだった。
契約書を渡すついでに、こっそり支配人に質問をする。
「なぁ、この子の名前はやっぱりないのか?」
「はい、お好みの名前をお付け下さって結構です。それとも番号をお聞きになりますか?」
「いや、それはいい」
番号というのは、少女につけられてたものなのだろう。
聞いても仕方ないと判断した。
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その他色々契約を済ませ、外に出た。
足の装置を速攻で外してやりたいのもやまやまだが、この町の法律上買って三日以内は外してはいけないらしい。
例えば重罪人が奴隷になったとする。
その重罪人の親族が彼を買い取るのは本来犯罪だが、それを断行したとする。
買ってすぐに装置を外せるようにしてしまうと、後々取り返しのつかないことになる。
その為、三日間は購入者も外せないようになっている。
そしてその間に購入者の身元をしっかりと割り出すそうだ。
まぁ今回の場合は重罪人とかじゃないから、軽い問診で済んだが。
「それより、ロント。まずお前が……って顔崩れてるぞ」
「えへへー……ハッ! な、何だ?」
「いや、気持ちは分かる」
でもちょっと普段とのギャップがでかいというか。
まぁ、今はいい。
「とにかく、この子の名前を決めてくれ」
「この子の?」
正直俺はこの世界のネーミングセンスがよくわかんないし、ロントにつけて貰うのが一番いいだろう。
ロントならきっといい名前を思いついてくれるはずだ!
未だに裾を握っている少女も、期待の眼差しでロントを見上げている。
「そうだな……スランでどうだろう」
「わぁ、かわいい名前ですね!」
スランか。
いい名前だと思うけど、どういう由来があるんだろう。
《えっとですね。ロントさんのご両親は、実は男の子が欲しかったらしいんですよ》
(へぇ)
《まぁ、女の子でも物凄い喜んだんですけどね。それでロントさんの次にもう1人を産もうと思ったらしいんですが、ロントさん1人で十分大変だと思って諦めたそうなんですよ。共働きだったそうですし》
(ほうほう)
《で、その時にあった妹の名前の候補だったそうです。ロントさんは弟か妹が欲しかったんでしょうね》
なるほど、だからこそ懐かれたら嬉しいんだろうな。
俺達に築き上げた威厳を崩してまでデレデレした顔になりかけている。
ライトベルがそっと近づいてボソっと俺に呟いた。
「……子供が欲しいなら、いいよ?」
「お前はまず借金を返せ」
借金で思い出したが、少女改めスランちゃんの性能がちゃんと知りたいな。
あとで金を稼ぎがてらクエストを挑むか。この時間でも多少はあるだろう。
ってことは、まずは装備を整えないとな。
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久々の武器屋に到着だ。
ロント、ライトベル、そしてスランが一緒にいる。
リアとエレフトラは、生活に使う道具を買いに行った。
「……コレがいいと思う」
「そんな純金製の装備なんて実用性もあんまりないし高いだろ! しまってこい!」
「……かっこいいのに」
ライトベルはたまにおかしい金銭感覚を披露する。
多少高い装備でも良いっちゃ良いんだが、せめて実用性があるものをだな。
にしても、この身長で何か扱えるものってあるのか?
というか正直、どの程度まで重いのが使えるのかとか分からないしなぁ。
「なぁ、スラン。とりあえず自分が使えそうだなってものを選んでみろ」
スランはコクリと頷くと、トテトテと奥の方へと向かった。
言葉は話せないが、聞き取る事も理解する事もできるらしい。
多少の計算ぐらいなら出来るのかな。
《へ!?》
(どうした?)
《いや、スランちゃんが持ってきたものが余りに予想外で。すぐ持ってきますよ》
「……うお!?」
それは鉄製の槍のようなものだった。
だが、先の方に斧がついている。
これは槍なのか? 何か違う武器なのだろうか。
スランは自らの身長より長いソレを、当然のように持ってきた。
《これは、ハルバードですね》
(ハルバード?)
《日本語では斧、槍と書いて、ふそうと読みます》
(西洋っぽい武器だな)
《そうですねー。急いで楔石マラソンをしないと!》
試しに持たせて貰ったが、俺は精霊魔法の強化でギリギリ持てるぐらいだった。
何この子、化け物か。いや、モンスターとのハーフではあるんだが。
ハルバードがあった場所に行ってみると、案の定結構高い額が書いてあった。
正直スランが数人買えるレベルだ。
(うーん、結構良い値段するなぁ)
《そうですねー。品質が良いのは保障しますが》
(俺なんかまだ投げナイフなのに)
《でも、長物って大体こういう値段しますよ?》
試しに槍も見てみたが、結構高かった。
うーん、こんなものか。
本人が気に入るならコレでいいか。一応予算内だしな。
「ロント、どう思う?」
「へ? あ、あぁ。いいと思う」
「そうか」
お前、今スランに夢中で話聞いてなかっただろ。
まぁ、気持ちは分かるけどさ。
とにかく、これでいいか。
会計を済ませている間に、ふとある事を思い出した。
「そうだ、スラン。お前にコレを渡しておこう」
俺が渡したのは、以前買ったウサギのブローチだ。
女性陣から評判が悪くて、ずっと鞄の中に入ったままだった。
効果も含めて、スランが持った方がいいだろう。
絵的にもそっちの方がいいだろうしな。
スランは俺からそれを受け取ると、ライトベルにつけてもらいながらにっこりと俺に笑いかけた。
何この生き物。可愛いんだけど。




