12.Hot-spring
「温泉!? 温泉があるのか!」
「は、はい」
宿に戻って風呂をどうするか考えていると、リアからいい情報が聞けた。
どうやら温泉がこの町には存在するらしい。
この世界の風呂というのは、大体井戸水を温めたものが多い。
それは別にいいのだが、源泉かけ流しじゃないから結構汚かったりする。
俺らが利用するのは冒険者用の宿が多い。
なんだかんだで俺はハーレムっぽいパーティーを作ってるが、なんだかんだでゴツいおっさんは多い。
それに俺らは客車だからいいが、ほとんどの冒険者は徒歩だ。
モンスターと戦う機会も増えるし、返り血や土だらけになることもよくあること。
当然風呂に入る前に体を洗う人がほとんどだが、そもそも粉石鹸なので石鹸の質があんまり良くない。
結構お湯の張り替えしてくれるんだけどね。
それにお風呂と温泉はやっぱり違う。
今のところ大きな負傷者はいないが、怪我とか病気になったら何と言っても温泉だろう。
何より、元日本人の血が温泉を求めてる!
「そういえば、ロントさんはどうしたんですか?」
「あぁ、あいつな。拾ってくさ」
「拾って……?」
ロントは元の場所に戻ってもいなかった。
ポートに聞いたら事情聴取されているらしい。
反省の意味も込めて数時間ぐらい放置しておくことにしていた。
温泉に行きがてら回収する事にした。
ちなみに、回収した時のロントは案の定血まみれだった。
大分乾いてはいたが、髪の毛についてる血がカピカピになっている。
《表現だけはエロいですね!》
(実際は正気度がガリガリ削られる光景だけどな)
「おー、ここが温泉か」
「……結構最近出来た建物」
洋風の建物だが、この硫黄の匂いは温泉特有のものだ。
こういうの見ると、和風なのか洋風なのかよくわからん世界観だな。
転生神自体よくわからん性格してるから、こんな妙なことになっているんだろうか。
《ユーハさん、アレ見てください》
(あれ?)
玄関の脇に観葉植物が置いてあった。
その近くに変な箱が置いてある。
何だこれ。
《これが例の、精霊魔法で気配を消す対策の装置です》
(へぇ、じゃあこれを壊したら隠密行動できるのか?)
《通常、この他にいくつか同型の装置があります。壊そうもんなら即捕まりますよ》
へぇ。まぁ覗きなんてするつもりないけどな。
《えー、覗きしましょーよー》
(覗いて何の利点があるんだよ)
《ロマンですよ! 女体が見れるんですよ!》
(その気になればリアやライトベルは見せてくれるだろうからいいや)
《……元も子もないですがその通りですね》
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
いやぁ、いい湯だった。
温泉の成分はよく分からんが、多分いい成分が入ってるんだろう。うん。
一酸化二水素とかな。
体にはいいぞ。うん。
女性陣は割と長風呂なので外で待っていると、ロントが出ていた。
そういやこいつは早めに出てくるんだったな。
髪についた血液も綺麗に洗い流されている。
「あぁ、ユーハ」
「おう。さっぱりしたな」
「お陰さまで」
ロントのテンションがちょっと低そうだ。
軽くやらかしたからな。
まぁ虐殺をやらかしたとはいえ、町から多少の報奨金も出たそうだが。
少女のその後とか明日の事を説明したりしていると、他の女性陣も出てきた。
宿に帰るとまず飯にした。
俺は昼の量が少なかったのでがっついた。
もぐもぐしながら宿の部屋を見る。
今俺達は5人だが、昨晩は4人部屋に毛布を1つ追加で借りて眠った。
いざとなればリアとライトベルが体が小さいので一緒のベッドで眠るという手もある。
今とった部屋は奴隷の追加を見越してちょっと広い部屋に泊まってるが、6人になったら2部屋に分けるのも視野に入れた方がいいだろう。
部屋割りをくじ引きで決めた方がいいかもしれないな。
翌朝、目が覚めたので井戸に顔を洗いに行った。
すると、先客がいた。ロントだ。
彼女は朝早く起きると、こうして素振りをしている。
関心な事だ。俺も少しは体を鍛えてるが、日常生活に毛が生えた程度の事しかやってない。
「ロント、おはよう」
「あぁ、ユーハか。こんな時間に珍しいな」
ロントは素振りの手を止めて、布で額をぬぐった。
熱心な奴だよなぁ。俺のパーティーにもったいない。
あの性癖さえなければ本当に最高なんだがなぁ。
「今日は奴隷を見に行く訳だが」
「あぁ、そうだな」
「一応候補を数人選んでおいた。だが、ロント。お前が最終決定を下して欲しいと思ってる」
「私が?」
俺達の中で、前衛は彼女だ。
カタログでいくらかチョイスしてはいるが、俺らにはどういう人が前衛向きなのかがいまいちよく分からない。
そこで、ロントに決めて貰おう。俺たちはそう結論付けた。
前衛同士で連携を取る事も多いだろうし、ロントとフィーリングが合う人が一番いいだろう。
一通りロントに説明し、承諾を得る。
井戸で水を汲みあげて顔を洗い、一度部屋に戻る。
ロントは素振りを再開した。
よし、寝なおそう。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
奴隷商の元に向かった。
前回と違い、全員で向かう。新しい仲間になるので、一応全員に了承を得た方がいいだろう。
「どんな子なんでしょう!」
「……楽しみ」
「そうか、お前らは見た事ないだったな」
一応俺らの中では少女がかなり良い位置を占めている。
だが、言葉を話せないのもちょっと気になるところだ。
モンスターとのハーフらしいしな。まぁいきなり人間に襲いかかる事はないとは思うんだが。
(どうも気になるんだよなぁ)
《何がですか?》
(何でタダ同然なんだろうって)
少女と力自慢というのはミスマッチなんだろうか。
モンスターのハーフというのは畏怖の対象なのかもしれない。
犬耳が原因なのかなぁ。俺としては歓迎なんだが。
……何か嫌な予感がする。
奴隷商の店についた。
受付に一言伝える。昨日の人とは別の男性だった。
彼は奥に引っ込んで何かを伝えている。
すると、脇のカーテンからトテトテと何かが来た。
あの少女だ。
少女は明るい表情でバーっとロントに駆け寄ると、嬉しそうに手を握っている。
ロントが困惑してるのが面白い。
「何か懐かれてるな」
「わぁ、可愛い子ですね!」
「う、うむ」
命の恩人だからな。
ロントへのアピールが凄い。
こっそり受付の男性に聞いたが、こんな反応は初めてだという。
恐る恐るロントが少女の頭に手を乗っけた。
何だろう、凄い初々しい反応で面白い。
でも、どうしても気になる事がある。
皆に中に入ってもらい、俺だけ玄関で残る。
……周囲に他に誰もいないな。
「なぁ、ちょっといいか?」
「はい?」
俺はこっそり受付の男に近づいて質問をする。
「あの子、何であんなに格安なんだ?」
「あぁ、モンスターとのハーフだからですよ」
「それだけか?」
どうも信じられない。
裏に事情がありそうな気がする。
「……裏に何かあるなら言え」
「いやですねぇ。ないですよ」
うーん、何かありそうだ。
(ポート、こいつの脈拍調べろ)
《調べてますよっと。たしかにちょっと上がってますね》
(こりゃ何かあるな)
黙って銀貨を1つ出す。
男は顔色1つ変えない。
2つ……3つ……4つ……。
それが2ケタに到達しても口を割らない。
「まぁ、無いなら仕方ないな。悪かった」
俺が銀貨を回収しようとすると、男がそっと口を割った。
「……あの子はモンスターとのハーフなので、変わったものを食べるんですよ」
「変わったもの?」
「人肉です」
あー……。
いや、モンスターとのハーフだから仕方ないっちゃ仕方ないんだが。
確かに人によってはドン引きするな。
仲間の中にも拒否反応があるかもしれない。
そういやあの事件の時に、腕を咥えたまんまだったな。
内心喰いたかったのかもしれない。
「でも、ちゃんと普通のものも喰うんだろ」
「はい」
「……なるほど、分かった」
それなら、普通に食べさせればいいだけの事か。
俺は受付にそっと銀貨を渡し、仲間と合流する為に奥へと向かった。




