11.Slave
少女は男にガッチリ掴まれ、鉈のような刃物を少女の喉元に当てている。
何かを叫んでいるが、言葉になっていない。
危険な状態だ。興奮している。
俺達の他に、恐らくナフィのパトロール担当であろう冒険者も到着した。
男の退路は完全に塞がれている。
コレが良い事なのか悪い事なのか。
(なぁ、ポート。1つ答えろ)
《何でしょう》
(万が一あの子が死んだ場合、エレフトラは蘇生できるか?)
《死体の状態によります。首が完全に切断されてしまうと、ちょっと厳しいです》
(分かった)
最悪彼女が死んだ場合でも蘇生が出来ると思ったが、あてにしない方が良さそうだ。
まぁ首が落とされたとしても俺のチートを使えば蘇生は出来るんだが。
出来ればそれは避けたいところだ。
ロントやエレフトラはともかく、他の冒険者にチートを見られたくない。
緊張した空気が流れる。
少女の様子を見る。彼女は……周囲の様子を伺っている。
意外と冷静のようだ。
俺は何かあった時の為に、俺自身に気配を消す魔法をかける。
エレフトラが唇をほとんど動かさないように、俺とロントだけに話しかけた。
「強い光を放つ魔法を使うから、それを合図に突入。いいね」
心の中で頷く。
恐らく目くらましの魔法だろうか。
効果があるか分からないが、念の為状態異常に耐性が付く精霊魔法を犯人以外の全員にかける。
こういう時、無詠唱で済むのが助かる。
少女がこちらを見た。
ロントと目が合っているようだ。
少女はロントと何かアイコンタクトすると、口をガバッと開けた。
そして、男の腕を服の上からガブリと噛み付いた。
その直後、閃光が場を支配した。
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一瞬目を閉じてしまうが、前もって分かっていたおかげで体が反応してくれた。
手に握るナイフを男の足元に投擲する。
閃光で見えないが、恐らく男に命中したはずだ。男の小さな悲鳴が聞こえた。
それと同時に俺の前にいたロントが動いた。
チカチカする目が収まるまで、状況が分からない。
何かが何かを斬る音。
男の悲鳴が聞こえる。
少女は? 無事なのか?
くそっ精霊魔法はほとんど役立たずだった。
光が収まるまで、俺は何もできなかった。
やがて視力が戻ると、ようやく状況が呑み込めた。
少女はとりあえず生きてる。
男はとりあえず死んでる。
そんなところだった。
ロントは閃光が起こるとすぐに男に近づき、腕ごと切り落とした。
少女を助ける為だ。
その時男が暴れて少女の腕に傷を付けたようだが、幸い浅い傷で済んだようだ。
その後、ロントはもう一方の腕も切り落とし、最後に正面から一太刀浴びせた。
当然男はその時点で死んだわけだが、ロントはそこでストップする。
完全にデストローイ状態だ。
俺はとりあえず少女を避難させた。
「ひっ」
「どうした? ……おおう」
俺が少女を連れてエレフトラと合流した時、彼女はまだ男の腕に噛み付いていた。
正確に言うと、切り落とされた腕をそのまま咥えていた。
怖いのでとりあげてそこらへんに捨てる。
エレフトラは目の前で起きている惨状に動揺しながらも、少女に回復魔法をかけた。
俺も一応少女の自然治癒力を上昇させる精霊魔法をかける。
少女が咥えていた腕を取り上げる時に気づいた事だが、この子は非常に立派な歯を持っていた。
まるでドラキュラとか狼男が持っているような立派な犬歯だ。
《……この子、普通の人間じゃないですね》
(そうなのか?)
《はい、半分モンスターの血が混じってますね》
(モンスターの?)
とにかくあとの事は現地の冒険者に任せよう。
えっと、この子はどうしようかな。
《その足元の装置を見てください》
(これか?)
《そこに赤い印がついてますよね。それは、まだ売約済みでない証拠です》
(まだ売られてない奴隷ってことか。じゃあ奴隷商のところに連れて行けばいいのか?)
《そうですね》
ポートにどの奴隷商の所属なのか調べてもらう間に、冒険者たちに少女を送り届けると言っておいた。
冒険者たちはロントの起こしている惨状をただ呆然と眺めていた。
聞いちゃいないか。まぁいいや。
放置して少女に話しかける。
「ねぇ、君。名前は? どこの奴隷商の元にいたんだ?」
少女は何か戸惑ったような感じだった。
どうしたんだろう。
「この子はねぇ、きっとしゃべれないんだと思うよ」
「そうなのか?」
「あぁ、この子はきっとモンスターとの混血の子だ。喉が人間の言葉をしゃべるようになってないのさ」
エレフトラも分かるのか。混血だって。
まぁ、よく見たら人間の位置に耳がなくて、いわゆる犬耳がついているんだけどな。
リボンで隠されててしばらく気づかなかった。
やがて、ポートが少女を所有している奴隷商をつきとめた。
ロントは放置して、エレフトラと2人で彼女を送り届けることにした。
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少女はすぐ近くに店を構える奴隷商のものだった。
送り届ける途中、エレフトラの顔色が凄い悪かった。
「はぁ、毎回あんなのだったりするのかい?」
「ロントか? 今回はまだマシな方だな。酷い時はミンチにしはじめるし」
「うぇ、気がめいるねぇ」
水を飲むかと薦めたが、拒否された。
今何かを口に入れると吐きそうなんだとか。
《ユーハさん、今いいですか?》
(どうした?)
《ちょっと説明してなかった事があったので、補足をしようと》
(補足?)
《奴隷の名前についてです》
奴隷には名前が無い事があるらしい。
もちろんその場限りで従業員として雇われている者は別だ。
生まれつき奴隷だった子供には名前がついてなかったり、親との繋がりを絶つために名前を捨てさせたり。
そういう行為も行われているのだという。
この子もどうやらその1人のようで、名前がないらしい。
名前をそのまま付けない事もあるようだが、買った人が名付ける事もあるという。
《だから、奴隷の子に名前を聞くのはちょっとタブーなところがあるんですよ》
(なるほど、ありがとう。さっきのは失言だったかな)
《まぁ、奴隷の子としては慣れっこかもしれないですけどね》
そんなもんか。
ちなみにこの子は重奴隷で、装置にも爆弾が仕込んであるらしい。
しかし、何かの犯罪をしたという事ではない為町中は割と自由に出歩けるのだとか。
まぁ今回の場合それっが裏目に出たのだが。
奴隷商の店に到着し、受付に事情を説明する。
受付は他の従業員に事を伝え、お礼を言ってきた。
この子が誰かに売られると思うとちょっとやるせないが、まぁ仕方ない。
俺が欲しいのは前衛向けの子だからなぁ。
あの子ではちょっと厳しいところがある。
せっかくなのでちょっとだけカタログを貰った。
へー、結構いろんなのがいるんだなぁ。
この奴隷商は性的なものではなく、冒険に役に立つ者から家事洗濯ならお任せなメイドのような奴隷を扱っているのだという。
その為、結構人通りの多いところに店を構えている。
「そうだ、さっきの子はいくらなんだい?」
「あー、ちょっと見てみようか」
買う気はあんまりないが、一応な。一応見るだけな。
えーっと、確かこの子だ。
少女はほぼタダに近い値段で売っていた。
そして予想外な事に、凄い力自慢と書いてあった。
あの子がか? 何かリンゴを握りつぶせるとか書いてあるけど。
モンスターとの混血だからだろうか。
……一応、一応明日もっかい会いに行ってみるか。




