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3.はじめてのクエスト

 目の前にシチューがある。

 ポートにこの世界でもシチューであると確認したのでシチューだ。

 色としてはビーフシチューに似てるが、具材はこの世界のものなので人参等ではない。

 ジャガイモ代わりの芋も入っている。

 正直、見た事ない具材だらけだがおいしそうだ。

 それはいい。いいんだ。


 問題はポートが《食べちゃうのかな? 本当に食べちゃうのかな?》と独り言を言っている事だ。

 また、ポートの助言で状態異常の耐性が上がる魔法を使ったのが物凄い気になる。

 どう考えても穏やかではない。


(なぁ、本当に毒じゃないんだよな?)

《大丈夫です! 毒ではありません!》

(……本当に食べても大丈夫なのか?)

《大丈夫です! ……多分》

(多分って何だよ多分って!)

《じゃあ食べないんですか?》

(うっ……)


 リアが目の前で健気な目で見てくる。

 ふと脳裏に、前々世で読んだ嫁の飯がマズい的な文章を思い出す。

 くそっ食うしかないじゃないか。


 スプーンですくい、スープを口に含む。

 ……美味しい。

 思ったより普通のホワイトシチューだった。


「うん、美味しいよ」

「そう、良かったです」


 ポートも反応しない。

 何だ、大した事ないじゃないか。

 気になっていた芋を口に含む。

 うん、美味しい。長いもに似た食感だな。

 次に、俺は肉をスプーンですくった。


「あっ」

《あっ》


 ハモった。

 こいつらハモったぞ。肉なんだな。この肉が何かあるんだな。

 怖い。何の肉なんだよコレは。


「ん?」

「あぁ、なんでもないです」

《どうぞ、どうぞ面白……じゃなかったお食べください》


 ……こいつら……。

 ええいままよ。毒を食らわば皿までだ!




 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~




 結果、体に変化は無かった。

 シチューを完食しても、何も無かった。

 ただ、食べた直後の《本当に食べちゃったんだ》というポートの呟きと、リアが帰る直前に「上手く効かなかったのかな」と呟いたのが非常に印象的だった。


 夜のうちに、女将さんにいくらか日用品を売ってもらった。

 歯磨きと石鹸、そしてタオル代わりの布だ。

 この世界の石鹸は粉状だった。少量の水で溶かして使うらしい。

 流石宿。こういうものもちゃんと売ってるんだな。




 翌朝早く、俺は近くの川を訪れた。水浴びの為だ。

 日本に負けず劣らず綺麗な水の川だ。

 地元の人はここで体を洗うのだとリアに教えてもらった。

 ちなみに男女で水浴びに使える場所が異なる。女性はもうちょっと上流の方だ。

 間違えて女性の方に行ったら死罪の可能性まであるそうなので、知らなかったを口実にラッキースケベイベントは起こさない方がいいだろう。


《……これがユーハさんの息子さんですか》

(何だよ見るなよう。俺もこの体のをまじまじと見たの初めてだけど)

《82点ですね》

(……くそ、思ったより良い点つけられたから怒るに怒れない)


 82点か。

 ハーレムなチートだし、君には期待していいのか……?




 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~



 さて、冒険者ギルドに向かう。

 何というか、見た感じ酒場のような感じだ。

 待ち時間が多いから、酒でも飲んで時間を潰してるのだろうか。

 実際ちょっとしたバーカウンター的なのも設置されている。

 夜だけお酒を提供してるらしい。

 ギルドに入る前にポートにギルドやクエストの説明を受ける。


《冒険者ギルドでは簡単な登録が必要になります。そこで受け取れる手帳が無ければ、クエストを受ける事ができません》

(手帳?)

《どんなクエストをこなしてきたかって事を、クエスト後にギルドの方に記入していただくための手帳です。『冒険者手帳』って呼ばれてます』

(へぇ、それを見てクエストとか割り振るんだ)

《その通りです。あと兵士として仕官志望の人が、前世で言う履歴書代わりに使う事があります》

(なるほどな。クエストは下積みでもあるのか。ちなみに冒険者ランクとかあるのか?)

《残念ながら無いですねー。Eクラスからチートを使って一気にAクラスとかSクラスへ! とかやりたいんですが》


 そんなことを話していたらギルドの中を見回す。

 さて、まずは登録か。





 登録自体はすぐに済んだ。

 強いて言えば正式にフルネームを決めてなかったからちょっと焦った。

 適当にユーハ・ホッターとか書いておいた。

 精霊使いは珍しいなぁぐらいの反応だったが、たまにいるらしい。

 最後に俺の名前とかを書いた冒険者手帳を貰った。

 革製の思ったより良い手帳だった。

 ほとんどが白紙だ。これからどんどん埋めていきたいところだ。


《あの、フルネームはユーハ・サンドライトじゃなかったでしたっけ》

(そうだっけ? まぁ細かい事は気にすんな!)


 掲示板を見ると、何枚かクエストが書いてある紙が貼ってあった。

 えっとなになに。

 薬草の採取。ゴブリンの討伐。すげえベタだ!

 あとはなんちゃらトカゲの討伐とかあるな。


(おススメはどれだ?)

《えっと、その紙の2つ右の……そうそう、それです》

(パトロール?)

《はい、この町とその周辺をパトロールするお仕事です。この町は結構広いので町について知る事が出来ますし、そこそこ稼ぎが良くて運が良ければボーナスが出ます》

(ボーナス?)

《事件が起きてそれを解決したら、内容によって追加報酬が出るんですよ》

(なるほど)


 色々と事件を解決すれば、それはそれで手帳に書けるということか。

 まぁ、せっかくのおススメらしいのでこれにしてみようか。


《ちなみに解決する内容によりますが犯人が人間の場合、原則的に相手を生かして捕えた方が報酬が多いです。が、出来る範囲でいいですよ》

(分かった)


 相手が重犯罪であるほど殺した時の報酬の減りが少ない。

 逆に軽犯罪の相手を殺すと、報酬がガクっと減る。

 なるほど、覚えておこう。




 登録用紙を手に取りポートと相談していると、冒険者ギルドの中に1人の少女が入ってきた。

 軽い金属で出来た鎧を着た、凛々しい少女だった。

 丈夫そうな剣を携えた彼女は、黒に近い青のロングヘア。顔も整っていた。

 正直可愛い。


《お、彼女が気になりますか?》

(まぁ、可愛いな)

《良かったです。ほら、こっち来ますよ》

(へ?)


 少女はパトロールの紙を持った俺の方へ一直線にやってきた。

 な、何だろう。


「そのクエストに興味があるのか?」

「あ、あぁはい。町に来たばかりなので、町の全体を知るにはいいかなと」

「なるほど。私はロント、普段パトロールばかりしている冒険者志願者さ」


 志願者という割には引き締まった体をしている。

 まぁ、いつもパトロールしてるってことは地理に詳しそうだな。

 俺としては助かる。


「俺はユーハと言います。見習いの精霊使いですよ」

「精霊使い?」


 あれ?知らないのか


《まぁ、マイナーな部類ですからね。そもそも魔法自体使える存在自体限られてますし》

(なるほど、まぁ仕方ないか)


 考えてみたらリアは宿屋手伝いだから流れ者の情報は知ってるし、ギルドのおっちゃんもそういうのは詳しいか。

 にしても説明難しいな。

 あれ、その手……。


「えーっと、そうだ。その手、もしかして怪我してます?」

「あぁ、今朝調理してたら間違えて切ってしまってな」


 ロントの左の人差指に包帯が巻かれていた。

 せっかくだし使って見よう。

 治癒力を高める魔法をロントにかける。


「えっと、どうでしょう。痛みが和らいでないですか?」

「おぉ、確かに」

「精霊魔法は力とか色々なものを強化する魔法です。今はロントさんの治癒力を強化しています」

「なるほど、これは凄い」

「気休めですけどね」


 そんなこんなで、俺とロントはとりあえず今日パーティーを組む事にした。

 他に参加者がいるかと思ったが、他に希望者はいなかった。

 こんなかわいい子と一緒に仕事出来るのに、なんでだろう。




 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~



「ここが東区のマーケットだな」

「へぇ、西区とかなり雰囲気違いますね」


 俺たちはほぼ観光がてらパトロールを行った。

 まぁパトロールと言っても見回るだけだし、極々平和なもんだ。


「そういえば、ユーハは変わった服を着ているな」

「そうですか?」

「あぁ、この近くでは見た事無い」


 うーん、そう言われると気になるな。

 確かこの世界ではたまにみかけるぐらいの服装だったはずだが。

 地域にもよるんだろうか。


 それにしてもパトロールは地味だ。

 ほとんど散歩に近い。

 腕章をしているから変なのには絡まれないし、特に危険もないが。

 暇と言えば暇だ。

 


(なんだろう、この剣士と会わせるためにパトロールを選ばされたような気がする)

《あ、バレました?》

(まぁ、いい子には違いないんだが。ハーレムに入れろってことか?)

《実際剣の腕も立ちますし、性格も良い優良物件ですよ》


 段々ポートの性格が読めてきた。

 パトロールをしたいんじゃなくて、この子と引き合わせたいだけだったか。

 俺としては魔物と戦いたい所ではあったんだけどな。

 初の戦闘が人間というのも何というか、神の言う勇者候補っぽくないしな。




 マーケットのパトロールは終わったので、今度は裏通りだ。

 こういう通りが一番気を付けなければならない気がする。


 それにしても、確かにロントは良い子だ。

 多分強いしいい子だし可愛いし。

 だがやっぱりここまでの流れが、ポートに誘導されてる感が半端ないのが気になる。


《まぁまぁ、ワタクシが言う事に間違いはありませんよ》

(昨日まさに、妙な呪文唱えさせられたばかりなんだけどなーなー)

《なんの事でしょう?》

(はいはい、だまされた俺が悪かったよ)


 このサポート、どの程度信用できるのやら


《あ、そこにあるモップを取った方がいいですよ》

(ん? これ?)


 つい言われるがままに、民家に立てかけられているモップを手に取る。

 完全に奇行である。


「……なぁ、ユーハ。何でモップを手にしたんだ?」

「いや、何となくモップを持った方が良い気がしたので」


 何でだろう。俺も知らない。


《それで、右の民家の影の所に隠れてください》

(ここか?)

《そうですそうです。ロントさんも》


 何となく従う俺。

 ロントの腕を引っ張って、一緒に隠れさせる。


「……なぁ、何でモップを手に持ってこんなところに隠れたんだ?」

「いやぁ、その方が良いという電波を受け取ったので」

「電波?」


 本当になんでだろう。

 そう思った瞬間、マーケットの方から悲鳴に似た叫び声が聞こえた。


「キャー! 泥棒よ! 捕まえて!」


 ロントが立ち上がって向かおうとするのを制止する。

 何となく、何となくだがポートがやらせたいことが分かった。

 足音が聞こえてくる。

 俺はモップを手に持つと、そっと裏通りに突きだした。

 次の瞬間、大量の果物を抱えた少年がモップに足を引っかけられた。

 それはもう派手に転んだ。



 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~



 スピード解決をした俺とロントは、追加報酬を結構な額貰う事が出来た。

 具体的に言うと、パトロールの基礎報酬と合わせて女将さんに借金を返せるぐらいは稼いだ。

 ロントには精霊の声が聞こえたとか適当に言って誤魔化した。

 のは良いんだが、脳内でポートがドヤ声で語りかけてくるのが物凄いウザい。


《ね? ワタクシ役にたちましたね?》

(はいはい分かった分かった)


 とりあえずこの町についても分かったし、報酬も手に入って助かる。

 女将さんにすぐお金を返してもいいけど、服買いたいんだよな。

 明日どこかで買ってくるか。





 宿屋に戻り、2階に上がると部屋の前でリアが立っていた。

 ぼーっと俺の泊まっている部屋の扉を眺めている。

 この子、いつからここにいたんだ?


「リア、どうしたんだ?」

「あ、ユーハさん。おかえりなさい」

「おう、ただいま」

「あの、ユーハさんに聞きたい事があって」

「どうした?」

「一緒にいたあの女性はどなたですか?」


 えっと、あぁ。ロントの事か。

 ……何だろう、俺今問い詰められてる?


「今日一緒に仕事した人だよ」

「……本当ですか?」

「それより、ちょうど良かった。これから空いてないか?」

「これからですか?」

「いくつか服を買いたいんだけど、選ぶの手伝ってくれない?」


 分かりやすく表情が明るくなるリア。

 スッと何か右手に握ってたものをしまうのが怖い。

 不穏な空気を読み取って無理矢理話題を変えた。

 なんだろう。この子、アレの気配がするんだが。


《ヤンデレって、いいよね!》

(お前、分かっててリアを推薦しただろ!)


 リアから、強烈なヤンデレの気配を感じる。

 まだ開花してないが、これはよくない傾向だ。

 ハーレム要員の1人目からヤンデレって、それってどうなんだよ……。

 これはロントも何かあると覚悟しないといけないな。

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