4.Stealing
「アレは、売った。ここにはねーよ」
その発言を聞いた時、俺は何も思わずただナイフを握った。
初めて殺意というのを明確に抱いた。
《ユーハさん!》
ポートの声で我に返る。
俺は殺そうとしたのか。こいつを。
冷静に考えろ……あれ、こいつ殺していいんじゃね?
いやいやそうじゃない。
俺がここに来たのは何故だ。
ポートがここにブレスレットがあると言ったからだ。
(ポート、本当にここにあるのか?)
《えぇ、ありますね》
(どこにある?)
《金庫の中です。右のクローゼットの中に》
(どういう作りだ?)
《ダイヤルと鍵ですね》
(そりゃ大層なものだな。一応ダイヤルの番号教えてくれ)
《はい。えっとですね……》
言っちゃ何だが、あのブレスレットはそんなに高いものではない。
特別な力があるわけでも、特別高価な装飾や宝石を使っているわけでも無い。
なのにこいつはわざわざブレスレットを小細工してまで盗み、ご丁寧に金庫の中にしまってある。
何故だ?
いや……本人に聞けばいいか。
本人は俺の様子を見ながら、葉巻を灰皿に押し付けている。
「どうした? 急に黙り込んで。考え事かい?」
「いやぁ、お前が何で金庫にご丁寧にしまってるのかとおもってな」
「……何の事だ?」
「ダイヤルは右20、右31、左5、右12だそうだな」
俺はエレフトラの様子を見る。
奴は……ニヤリと笑った?
「お前、本当に神の力が宿ってるんだねぇ」
「会った事もあるぜ。2回ぐらいな」
「そーかいそーかい。……明日の昼また来な。答えを教えてやる」
「は? 俺の話しはまだ終わってないぞ?」
「悪いが時間切れさ。あっちの窓の鍵が開いてる。下にゴミがいっぱいあるから、窓からそこに飛び降りな」
「おい、だから……」
エレフトラは俺の返答を待たず、甲高い声をあげた。
まるで、か弱い女のように。
「キャーーーー!」
「……チッ」
隣の部屋から。下の部屋から。人が動く音がする。
やられたな。
他の人が入ってくる前にここから逃げなければならない。
正直癪だが、奴の言う事通りに奥の窓へ向かう。
窓は確かに人が通れる程の大きさで、鍵も開いていた。
3階から落ちるには高いが、下にはゴミがあってクッションに……。
「おい、ゴミなんてねーじゃねぇか」
「あ、ゴミの収集日間違えたー」
あいつわざとだろ!
立ち止まってる暇はない。足に全力で強化魔法をかけて飛ぶ。
まるでどこぞの映画のようだ。
……ってえ!
足がビリビリと痺れる。
折れてないのが御の字だ。
《アシクビヲクジキマシター!》
(うっせえ! 今イライラしてるんだから黙ってろ!)
上では「デビルが……」とか「サタンが……」とかいう声が聞こえる。
さきほどの悲鳴がゴキブリが現れたという事にしたらしい。
今のうちに撤収しよう。
……っと、侵入に使った脚立をしまわないとな。
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すぐ宿に帰る気分になれなかった。
エレフトラに言われた事がぐるぐると頭を駆け巡る。
あーイライラする。
とっとと殺してしまった方が良かった気がするが、ポート的にはそれはNGなのだろう。
ハーレム候補に加える? アレを?
こんなにお断りしたい気持ちになったのは初めてだよ。
ふらふらと歩いていると、いつの間にか商店街まで来ていた。
そういえば、あのアクセサリーを買った店がこの近くにあったな。
まだちらほら開いている店もあるし、アクセサリー屋なら開いてるんじゃないかな。
もう、新しいの買って帰った方が良い気がしてきた。
ロントに真実を言うのもどうかと思うしな。
お前のブレスレットは盗まれた!
そして胸糞悪い奴がなぁなぁにしてそのまま持ってる!
……黙ってた方がいいだろう。
そう考えながらアクセサリー屋へ到着した。
お店は……開いてなかった。
カーテンがしまってる。遅かったかな?
ふと、入口のドアに張られてる札を見た。
閉店と書かれていた。
……閉店?
あれ? そんなに急に閉店するものなのか?
閉店がこんなに近かったら、閉店セールとかやるんじゃないだろうか。
そもそもそういう告知があるもんじゃないか?
……気になるな。
(なぁ、ポート。これについて知ってたか?)
《…………》
あれ、黙ってる。
どうしたんだろう。トイレかな。
《違いますよ!》
(何だ、いるんじゃないか。さっさと答えてくれよ)
《だって……黙れって言うから》
(拗ねてたのかよ。可愛いな)
《知ってます。私は可愛いです》
(冗談だよ、冗談)
《そこは冗談じゃなくていいんですよ!》
いや、今はそんなことはどうでもいい。
この店の事だよ。
《にしても、ユーハさんは流石ですね。このタイミングでこの店に来るとは》
(流石? どういうことだ?)
《おっと、これ以上はネタバレになっちゃうんで黙っておきますよ》
……何だろう、凄い気になる。
だが、ここまでもったいぶるというのは本当に何かあるのか。
それから俺は宿に戻った。
ロントが真っ先に俺に近寄ってきた。自分のブレスレットだからな。
アテは外れたとだけ言っておいた。
だが、俺の不機嫌さから何かあったのだろうと3人とも察していた。
部屋の中に微妙な空気が流れる中、俺は風呂に入って無理矢理寝た。
リアが物凄い自然に添い寝を仕掛けてきたが、そっとお断りしておいた。
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翌日。非常に、ひじょ~~~に気が進まないが教会に向かった。
わざわざ入場に金を払わないといけないのが尚更腹が立つ。
せめてもの足掻きで俺1人で中に入る。
3人には申し訳ないが、近くにいると八つ当たりしかねない。
あー、何か思い出すだけで腹が立ってきた。
あとでライトベルをからかって鬱憤を晴らそう。
中に入るとエレフトラの姿は見えなかった。
朝の礼拝が終わった後を見計らって中に入ったのに。
あーイライラする。
特にやる事もなく、見学しようにも気になる場所もないので脳内でポートとしりとりをする。
一見するとぼーっとしてるようにしか見えないだろう。
(かんり)
《りんご》
(ごますり)
《りんぱ》
(パリ)
《パリはダメですよ! この世界にないです!》
(じゃあパセリ)
《ぐぬぬ……あ! りょうり!》
(りんり)
《くっ……リカバリー》
(リーハービーリー)
《どんだけり攻めするんですか!》
(ふっ、俺の脳内には「り」で始まって「り」で終わる言葉が10は入ってる。利尻が使えなくて残念だなー)
ちなみに返せなくなったら急遽「る」攻めに変更するのが俺のスタイルだ。
「り」と「る」の二刀流と俺は呼んでいる。
しりとり開始から30分。
まだ来ないのでポートとあっちむいてホイをする方法を考えて30分。
その他色々な時間潰しをやってみた。
結果、エレフトラが来たのは俺が到着してから2時間後の事だった。
《ユーハさん、ようやく来ましたよ》
(……ったく、待たせやがって)
《ワタクシは楽しかったですけどね。指相撲必勝法とか目からウロコでしたよ!》
エレフトラはもったいぶりながら俺の方に歩いてきた。
いい加減決着をつけてやる。
奴はまるで仮面をつけたかのような笑顔を保っていた。
「お待たせいたしました」
「本当に待たされた。で、わざわざ来てやったんだが何なんだよ」
正直、俺のイライラは有頂天だ。
下手な返答をされたらこの講堂を破壊して回りたい気分だ。
なぁに、この像とかも大したことないのは俺が一番良く知っている。
俺は色々とこの先の会話についての予想をしてきた。
だが、奴は予想外の行動をしてきた。
1つの袋を俺に手渡し、そのまま笑顔を崩さずに帰って行ったのだ。何も言わずに。
色々言いたい事があるのに、全て吹っ飛ぶ気分だ。
あーもういい。ひとこと言ってやる。
いや、殴ってやる。
シスター服も、よく匂いを嗅げば昨日の葉巻の匂いがするし。
《まぁまぁユーハさん、まずは袋の中身を確認しましょう》
(中身ぃ? あいつにガツンと言ってからでもいいだろう)
《ダメです。いいから見てください》
珍しく真剣な雰囲気で言われてしまった。
ついこういう時に流されるのが俺の悪いところな気がする。
袋を開けると、そこには一枚の手紙とブレスレットが入っていた。
しかし、そのブレスレットは俺たちの盗まれたブレスレットではない。
素人目で見ても一発で分かる。
本物の宝石をはめている、明らかに俺たちが持っていたブレスレットより高価なものだった。
手紙をこっそり開いて読んでみる。
その一行目には、こう書かれていた。
貴方は、今監視されている。




