3.Sister
俺とロントの前に1人のシスターが立っている。
講堂に入ってくる時は物凄い良い笑顔だったのに、今彼女は真顔で俺をじっと見ている。
何だろう、反応に困る。
「あ、あの俺達が何か……?」
俺の言葉でハッと我に返った女性は、パッと笑顔に戻った。
うん、いい笑顔だ。いい作り笑顔だ。
「失礼致しました。あまり見かけない方ですが、どこかの教会の方ですか?」
「あのー……ちょっと言いにくいんですが教会には初めて来たんですよ。この町の教会は非常に立派なので、ぜひ見学をと」
「そうでしたか。旅の方ですか?」
「えぇ、まぁ」
何だろう、俺が教会の人に見えたのか?
見るからに旅の途中の冒険者な恰好をしているんだが。
正直、偵察という意味もあるので目立つのはちょっと遠慮したいところだったが。
女性は笑顔を保ちつつ、まだ俺をじーっと見ている。
何だろう、ちょっと怖いんですが。
「あの、俺が何か……?」
「あぁいえ、非常に強い神の力を感じるので」
「神の力……?」
何だろう、話しが見えない。
続いてロントの事も見る。
周囲を見渡し、リアとライトベルの事も。
……何かを感づかれている?
「もしかして、ロント……俺の連れにも神の力が?」
「はい。一般の方どころか、聖職者よりも大きな力を感じます」
「へぇ……」
何だろう、変な勧誘でもされてるのかな。
さっきから何でだろうを何回使ったんだろう。
状況が全く理解できない。
《あの、話しが全くかみ合ってないようなので解説しましょうか?》
(おぉ! 解説あるのか! 頼む!)
《そもそもこの教会の神は、この世界を作った神様。創造神です》
(おう)
《で、その創造神。会った事ありますよね?》
(……あ)
なるほど、この世界の創造神。
それはあの転生神だったのか。
そういや管轄の世界って言ってたな。
そう言われると、何となくだが今の状況に説明が付く。
俺から神の力を感じると言ってるのは、チートの事だろう。
そのチートの影響を受けている他の3人も、一般人からは考えられない程の神の力を受けている。
なるほど、それをこの子は見る事が出来るんだな。
そりゃ俺のところに真っ先に来るのも納得できるかもしれない。
ライトベルは俺の前世をちょっと覗き見るという離れ技をやってのけた。
それから比べると、神の力を視認できる人がいてもおかしくはないか。
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事情は分かった。
しかし、だからといって神の力は確かに一身に受けている! なんて説明する必要はない。
とりあえず話題を変えつつ、適当に追い返そう。
「あの、シスターさんはここに来て長いんですか?」
「そうですねぇ、大体半年ぐらいでしょうか」
「なるほど」
まだあまり長くはないんだな。
結構大人びて見えるけど、俺と同い年ぐらいかもしれない。
「あの、お名前教えていただけますか?」
「あぁ。ユーハだ。ユーハ・グランパール。で、こっちが……」
「ロントだ」
「ユーハさんにロントさんですね。私はエレフトラと申します」
エレフトラさんか。
うん、知った所でどうしようもない気がするが。
「もしかしたらまた教会に来るかもしれないので、その時はよろしくお願いします」
「はい。……あら?」
「ん?」
「すみません、ロントさんでしたっけ。その腕に付けているもの見せてもらえますか?」
「あーっと、小手? それともこっち?」
「ブレスレットの方です。少々失礼します」
ロントがブレスレットを外す。
俺が誕生日に買ったものだ。
一応共同で使う金なので俺の自腹ではないが。
エレフトラさんはそのブレスレットをまじまじと見ると、少し考えてからロントに返した。
「ありがとうございました」
「あの、私のブレスレットが何か?」
「いえ、大したことではありませんので……」
まぁちょっとデザインが気になったのかな。
エレフトラさんは「用事があるので、これで失礼します」とまた奥の扉へ消えて行った。
うーん、何だったんだろう。
少ししてからライトベルとリアが帰ってきた。
ライトベルがちょっとやつれてた。一方リアは凄いテカテカしてた。
「凄かったですよ! 神様の像とかありました!」
「そうか、それは良かったな」
「……疲れた」
冷静に考えて神様の像って転生神の事なのかな。
一応実物に会った事あるしなぁ。
ちょっと見てみっか。
実際見てみたら物凄いイケメンがいた。
これは駄作だ。あいつはこんなにキリッとした輪郭じゃなかった。
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日が落ちる頃、俺たちは部屋でまったりとしていた。
客車に慣れて来たとはいえ、やっぱり安全な揺れない部屋の中は心地いい。
自宅だったらなお良いんだろうな。
「じゃあ、私はお風呂入ってきます。お二人はどうしますか?」
「……行く」
「あぁ、私も行こう」
そう3人が立ち上がり、風呂へいく準備をしていた時にソレは発覚した。
発端はロントがあげた、ちょっと間の抜けた声だった。
「へ!?」
「おぉう、どうした」
「無い……」
「無いって何がだよ」
「ブレスレット」
おぉう、思ったより凄いものが無くなってた。
え? 無くなった?
4人で総出で荷物を漁る。
特にロントが普段使っている鞄は全員で入念にチェックした。
ブラが結構でかかった。
「いつまでつけてた記憶がある?」
「えっと……そうだ。あの教会でエレフトラとやらに見せた時までは記憶がある」
「それから直接ここに帰って来て一歩も出てないよな……」
いや、待て。
1つあるじゃないか。簡単に見つける方法が。
(ポート)
《はいはいさー》
(お前、ブレスレットがどこにあるか分かるか?)
《はい、知ってます》
知ってる?
探せます! とか見つけました! とかじゃなくてか?
《あのシスターが持ってます》
(は!? 何であいつが)
《盗んだからですよ。さっき教会いたときに》
(盗んだぁ!?)
《はい。ロントさんに返す前にブレスレットに細工し、外しやすいようにしてます。それからこっそりロントさんの腕から、そりゃもうスルッと》
何て奴だ。
ポートの話しを聞くに、手馴れてるのか?
シスターの割にずいぶんと何というか……。
《で、どうします? 取り返しに行きますか?》
(そりゃ当然だろ)
《分かりました。今彼女は教会にいますよ》
よし、じゃあさっそく行くか。
アレはロントにとって大事なものだ。そんなもの盗まれたままにしてたまるか。
なーにが神の力だよ。結局ブレスレットが目当てだったのか。
……まてよ?
(なぁ、ポート。素直に答えろ)
《はい》
(お前、ブレスレット盗まれた時気づいてたか?)
《えぇ、気づいてました》
(えぇって……何でその時教えなかったんだよ)
《こちらにもいろいろあるんですよ》
いろいろある?
俺たちの財産が盗まれて、それでいろいろあるから教えなかった?
俺は、この世界に来てからポートに何もかも依存していたところがある。
だが、今回のケースは余りに異常だ。
俺とポートの間に険悪なムードが流れている。
こんなことは今まで無かった。
ライトベルはこの流れを分かっているんだろう。じっと俺の方を見ている。
《で、どうするんですか? 取り返しに行きますか?》
(そりゃ行くに決まってるだろ)
《なら、1人で行きましょう。あの建物は気配を消す魔法対策が無いです》
(……そうしよう)
どうもこいつに流されている気がする。
いや、こいつの筋書きに乗らされてるというのか……。
「とにかく、出かけてくる」
「……分かった」
「待ってくれ、私も行く」
「……ロント、1人で行かせて」
「でも……」
「悪いな、俺1人で行かないといけないらしいんだ」
ロントは自分のせいでブレスレットが無くなったと思っている。
まぁ合ってはいるんだが、ポートのせいでもある。
それに相手は手慣れているようだしな。
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夜風を体に受けながら、教会に向かう。
どうしても頭の中にもやもやが生まれては消える。
俺は正直、この度のポートの動きが全く理解できないし疑っている。
だが今までの経験上、こいつのやる事は何だかんだ意味があった。
俺に何か秘密にする事がある?
何だ? 何をさせたい?
……もしかして。
《あー、気づいちゃいましたか》
(お前、もしかしてあのシスターをハーレムに入れるように動いてるのか?)
《まぁ、そうですよ。ブレスレットを盗まれる事。それが彼女と接触する一番いい方法でした》
(何でそんな回りくどい……)
そもそも、俺窃盗する奴とは仲良くしたくないんですが。
本当に必要なのか? あのエレフトラとか言う奴は。
《まぁ、良い人ですよ》
(そうなのかねぇ)
あいつと仲良くするかは、結局俺が決める。
ブレスレットだけを取り返して帰ってもいいわけだ。
教会についた。
昼間の華やかさとは裏腹に、夜はほぼ真っ暗だ。
ちらほらと窓から明かりが漏れている部屋があるが、これのどこかに奴がいるんだろうか。
《そこの……その上です。この部屋にいますよ》
(3階か……)
《あそこの八百屋の脇にある脚立を借りて、そこの窓から侵入しましょう。今ならいけますよ》
俺は盗難を咎めに来たんだが、こっちが犯罪者みたいだな。
まぁいい。ここまで来たら乗ってやるさ。ポートの筋書きとやらに。
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俺が忍び込んだのは、教会に隣接している寮のようだった。
中で教会と繋がり、3階と4階にはシスターしかいないらしい。
一度教会の関係者と遭遇しそうになったが、何とか気づかれずに済んだ。
どうやら俺の気配を消す魔法は有効らしい。
3階のエレフトラの部屋の前までなんとか到着した。
が、これどうするんだ。
中入ったらすぐ「キャー!」 とか叫ばれたら、俺完全に犯罪者なんですが。
いや、現状でも充分に不法侵入で犯罪者なんですが。
(鍵はどうするんだ?)
《大丈夫です、開いてます。入りましょう》
(そうは言ってもなぁ)
《急いでください。もう少ししたら、1人この廊下を通りかかります》
(わーかったよ)
軽く深呼吸して扉を開けた。
中には1人の女性がいた。
シスター服の女性。エレフトラだ。
彼女は俺が入って来ても、何も驚いた様子を示さなかった。
「……何かしら。こんなところまで」
「随分と昼間と様子が違うんだな。シスターさんよ」
「ユーハさんでしたっけ? 何か御用で?」
「てめーが盗ってったものを返して貰おうと思ってな」
エレフトラは深々と椅子に座り、ドンと足を机に乗っけた。
完全に悪党だこいつ。
部屋の中には、ちらほらと高いものが見える。
これらは盗んだものなのだろうか。
「盗んだもの? 何のことやら」
「しらばっくれるんじゃねぇよ」
この女、何1つ怯んでない。
突然部屋に男が侵入してきたというのにだ。
いや、違う。歓迎してる?
「……まさか、俺をここに呼ぶ為にわざと盗んだのか?」
「さーてね」
……こいつといいポートといい。
何で俺なんかにノータイムで執着するんだこいつは。
エレフトラは近くの机から葉巻を取り出すと、口に咥えた。
そして手探りでマッチを探している。
何だこいつは。闇の組織のボスか。
「ねぇ、ユーハだっけ? いっこ聞いていい?」
「……何だよ」
「王都がトレイサーに攻めました。しかし何故か失敗しました。カモフラージュネズミという、めったに人を襲わないモンスターによってです」
ジュッとマッチを擦り、葉巻に火をつける。
肺いっぱいに煙を吸い込み、天井に向かってスパーっと吐き出した。
こいつ、未成年だろ? まぁ、今更どうでもいいが。
「その時、神の力を感じたんだわ。そう、あんたそっくりのね」
「……だからどうした」
「まぁ、しらばっくれるならそれはそれでもいいんだけどね」
ダメだ、何か流れを持ってかれている。
こいつが俺に何かを感づいている。それによってどんなことがバレていても、不思議ではない。
これぐらいは許容範囲だ。
「俺は今そんな問答をしにここに来たんじゃねぇ。返せよ」
「……返せ?」
「とぼけるんじゃねぇ。ブレスレットだよ。俺の連れの」
「あーアレね」
エレフトラは再び肺いっぱいに煙を吸い込み、今度は俺の顔に向かってスパーっと吐き出した。
不快な香りが俺の鼻を刺激する。
そして、奴は言い放った。
「アレは、売った。ここにはねーよ」




