表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/188

8.奇策のインスタントキス

「……ユハ、まだ?」

「まだだよ黙ってろ!」

「……ユハ、疲れた」

「んなわけねーだろ!」


 俺は今ロントとライトベルと一緒に例の石碑まで向かっている。

 ニャレッドさんは午後から(女性と)予定があるらしく、とりあえず石碑の再確認の為に3人で向かっている。

 が、階段すら登れないライトベルにこの道中は到底無理だった。

 そこで…………。


「……ユハ、もっと速く」

「お前をここで降ろせばもっと速くなるんだけどな!」


 俺はライトベルを背負いながら走っていた。

 3人のハーレム要員がいればかなり補助魔法が強い。

 その為今かかっている、力と足を強化する魔法はかなり効果がある。

 とはいえ、それでも汗だくだ。


「……浄化の魔法かけてあげようか?」

「え? 何そんなのあるの?」

「……いや、こう……」

「ひゃうん」


 思わず変な声を上げてしまった。

 急に耳の裏とか舐めるんじゃねぇ。

 思わず転びそうになった。

 癖になっちゃうだろ。

 あぁロント、変な目で見ないでくれ。

 俺は無実だ。





 石碑に到着した。

 ここと町を一往復半したので、日は頂点を超えかなり進んでいる。

 あまり長居は出来なさそうだ。


「で、ライトベルコレを読めるか?」

「……うーん、確かに昔の言葉が使われてる。ちょっとまってて」


 マイ手帳を出して文字をメモしていくライトベル。

 よく読めるな。字が擦れてるのに。 

 ……読め過ぎじゃないか?


「なぁ、完全に削られてる文字まで読めてるのは何でなんだ?」

「……ちょっとこの石碑の過去を見てる」

「なにそれ凄い」


 今より雨水に晒されていない、過去の石碑を見てるらしい。

 とはいえ完全に新品の石碑ではないし、既に欠けている文字もあるのだとか。


「……これは魔法陣文化よりは後。頑張れば読める。でも自信はない」

「へぇ、読めるのか」

「ただし辞書とか必要かも。あと固有名詞はちょっと読めない」


 とか言いつつ、メモを書き終えて分析を始めるライトベル。

 ……分かったよ。用事終わったからまた背負って帰ればいいんだろ。

 ロント、お前まで背負って帰るのは無理だからな。

 そんな目すんなって。




 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~




 宿に戻り、大まかな翻訳作業が始まる。

 ここで発揮されるまさかのコンビネーション。

 本来なら辞書等が必要だが、その代用としてポートが活躍した。


《えーっと、この単語がイケニエって意味です》

「……となるとこっちがこう来て……こう?」

《そうですね。その左の意味が分かればいいんですが……》

「……これは多分種族名。人間であってると思う」

《ん? こっちも人間って意味では無かったですか?》

「……正確にはこっちが人型モンスターも含む。こっちが完全の意味で人間」

《へぇ、勉強になります》

「……私も勉強になる」


 明日資料のありそうな場所を回ろうと思っていたが、ポートとライトベルの共同作業によって翻訳作業は急ピッチで進んだ。

 でもこれ凄い効率はいいんだけど、外から見ると凄い印象悪いんだよなぁ。

 チラッとリアとロントを見る。


《コラ! メモから目を離しちゃダメです! 今いいとこなんだから!》

「……ユハ、空気読んで」

「ごめんなさい……」


 完全にライトベルが独り言を言っているようにしか見えないのだ。

 それに付き添うように座る俺。

 見た目がシュールだ。

 リアとロントも多分妙に思って……あれ? あんまり気にしてない様子だ。


《まぁ、ライトベルさんも堂々と私に話しかけて来ますからね》

「……リアとロントにも、妖精の声が聞こえるって伝えてある」

「あー、そういえばリアには言ったっけ。妖精の声が聞こえるって」


 まぁ、ならいいか。




 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~




 文章自体は5行程度のものだったが、翻訳は1時間半ぐらいかかった。

 いや、むしろその程度で済んだと言った方がいいか。

 結果、やはり俺たちに多少関係があるものだった。

 ざっくり石碑の内容を解読すると、以下の感じだ。


 ここにある者が封印されているというものだ。

 それには多くの人間の生贄が必要。

 我々はそれを阻止しないとうんぬん。

 そしてその下に長々と封印に使う文章が書かれているという。


「……この技術はかなり昔のもの。下手したら200年前とか」

「へぇ、それぐらい昔の奴が封印されてる可能性があるってことか」

「……そして封印されてるのは、多分魔王ではない」

「じゃあ誰なんだ?」

「……バルバリッサ」

「バルバリッサ?」


 ライトベルの印象では、魔王とは異質の存在。

 恐らくの別物だろうと。

 だが、多分今回の戦争を放置すると何かヤバいものが解放されるという事も十分ありえるという。


「うーん、どうするかだなー」

「……正直、私よりユハの方がこういう事は強いと思う」

「ポートはどう思う?」

《正直、無視でもいいと思います。でも、メタな事を言うとRPGで考えてください》

「RPGで?」

《冒険する主人公チーム。彼らの敵は野生のモンスターと魔王、山賊等だけですか?》

(……違うな)


 前世でのゲームでは、魔王やその部下のみが敵ではない。

 町の危険を脅かす存在や、昔の悪魔なんかと戦う展開もよくある。


 ポートは暗に言っている。

 別に無視してもいいが、自分の敵は魔王だけではないと。

 まぁ、それも確かだ。

 出来れば何とかするのがチート持ちのやる事だと言いたいのだろう。


「とりあえず、俺達が取れる選択肢は3つだな」

「……3つ?」

「1つは無視する。1つは停戦させる。1つは戦争を見守り、もし封印が破られたら総力を持ってバルバリッサという何かを倒す」

《……うーん、どれも厳しいでしょうね》

「一番かっこいいのは2番目だけどな」


 しかし、大きな問題がある。

 後ろの2つの選択肢を取るにしては、俺たちは力が不足しすぎている。


《そうだ、ライトベルさんのあの大規模魔法を使うのは?》

「……二つ問題がある」

「問題?」

「……1つは準備が足りない。補助の魔術協会の人もいないし」

「もう1つは?」

「……成功報酬が出ない事。魔力結石を食べちゃうと、それだけで大赤字になる」


 この前の作戦で魔力結石を食べたのは、大侵攻だからとギルドに特別に分けて貰った魔力結石があるからだそうだ。

 ある程度の大きな魔法は素でも使えるが、両方の軍を無力化できる程のものは使えないそうだ。


「なぁ、ポート。戦争が起きるとしたらいつごろか分かるか?」

《うーん、あまり時間ないですね。早ければ明後日にも》

「魔術協会から応援を呼ぶわけにもいかないか」

「……1つだけ方法はある」

「お? 何か呪術があるのか?」

「……呪術じゃない。精霊魔法」

「へ?」

「……今から、大量の婦女子を拉致って、キスをすれば」

「大規模魔法に匹敵する魔法が使えるか……」


 しかし、それは大混乱になるだろう。

 出来れば避けたい案だ。

 ……いや、俺自身まだこのチートについて分かってないことがある。


「なぁ、ポート。1つ聞いていいか?」

《ホイホイ、何でしょう》

「ハーレムに入れないけど一時的にチートの力を増やす目的でキスをするとしよう」

《はい》

「その際、チートの力を弱める事は出来るか?」

《……と、言うと?》

「俺への好感度がアップする効果をガクっと減らす。効果の持続も短く、1週間とかで解けるとか」

《うーん、そうですね。本来はNGですが、アリにしましょう》


 おぉ、言ってみるもんだ。

 こうして、新ルールが生まれた。


 相手が俺の事を全く認識していない。

 全く気絶している。または眠っている。

 そんな状態で俺がキスをした場合、俺は当然チートの力が発揮する。

 しかし彼女たちが目を覚ましても、その時に俺がその場にいなければ俺への好感度はほとんど上がらない。

 誰かが気になるみたいな感情を抱いても、それは一週間ほどで切れる。

 そしてその時に、その女性の分のチート能力アップは無効化される。

 今後、この事をインスタントキスと言う事にした。


《即席麺みたいな感じですね!》

(それは印象が著しく悪いからやめろ)


 こうして、俺達の作戦は始まった。

 適当な婦女子を攫い、俺の精霊魔法の力を上げ、それを使って戦争を中断させる。

 さて、作戦を立てようか。




 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~




 俺とポート、ライトベルの3人で作戦を立てた。

 拉致担当はロント。俺とライトベルが実行犯だ。


「あの! 私も何かやりたいです!」

「大丈夫だリア。実は今回、お前が作戦の鍵だ。一番頑張って貰う」

「へ?」

「夜が明けたらまずこの食材を買い占めろ。俺とロントも荷物持ちについていく。んで、コレを作れ」

「あの、これは?」

「ちょっとしたおまじないだよ。だが、『おまじない』も『お呪い』と書く。ここには呪術のプロがいるんだぜ」

「えーっと、良く分からないですが頑張ります!」


 正直、数十キロ分。下手したら百キロ以上の食材を扱ってもらう。

 彼女が一番大変だろう。




 翌朝、予定通りの食材を買い占めた。

 あまりにまとめ買いだったので、三割近く値引きしてくれたのは助かった。

 全ての手持ちの金を使うぐらいの心持ちだった為、多少残ったのは助かる。

 客車にそれを全て積み込み、戦場の予測地点へと運ぶ。

 ライトベルとポートが計算した場所だ。恐らく大丈夫だろう。


「あの、これ全部やるんですか?」

「あぁ、もちろん俺達も手伝う」

「いえ、1人でやります!」


 ……マジか。全部とりあえずミンチにしなきゃいけないんだけどな。

 まぁ、やるというのならいいか。




 それからのリアは本当に鬼のように働いていた。

 かなり大きな包丁を両手もちにし、ひたすらある肉をミンチにする作業。

 薬剤と木の実を混ぜ、大きな袋に入れて次の袋を作る。

 これを5つ。気の遠くなるような作業。

 もちろん手伝えるところは手伝うが、彼女は頑なに、1人でその作業を行う事にこだわった。

 普段戦闘に役に立てない。その事をいつも気にしているのだろう。

 その借りを返そうと心に決めているように。


《ユーハさん、敵である王都側の進軍がかなり近づいてきました》

(トレイサーは?)

《距離の関係で間に合いそうです。やはり交戦地点は読み通りになりそうですね》

(分かった)


 読み通りだ。

 作戦は明日の朝開始する。




 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~




 俺が眠っていると、客車の中にいきなり大きな衝撃が次々に起こった。

 な、何だぁ?

 と思ったら、次々に熟睡状態の女性が運び込まれていた。

 その数5人。

 ……どの子も若い子だ。

 それなりにかわいい子ばかりだ。

 ロントに渡した睡眠薬で、見事に眠っている。


「ユーハ、頼まれたのはこれでいいか?」

「あぁ、助かった」

「あの……本当に必要なのか? この拉致が」

「どうしても必要だった。損な役回りをさせて悪かったな」

「……助かった。私からも例を言う。ありがとう」


 おそらく運ばれてきたのは冒険者だろう。

 この戦争に参加する目的のトレイサー側の冒険者だ。


 ロントにはリアの手伝いをお願いし、客車の中に俺とライトベル。拉致してきた子たちだけになる。

 客車の中を布で覆い、外から見えないように。

 ……少し心理的抵抗がないと言えば嘘になるが、今回ばかりは仕方ない。


「なぁ、ポート」

《何でしょう》

「この子たちの名前、教えてくれないか」

《……知らないほうがいいのでは?》

「頼む」

《……分っかりました! えーっと、左から順にエルリッド。マイサイド。カルロッド。メアリー。エマです》

「最初三人は名前が似てるな」

《そうですね、姉妹のそうです》

「……三姉妹丼」

「黙ってろ。ポート」

《はいな》

「分かってると思うが、全員分精霊魔法に頼む」

《了解です》


 今回は仕方ない。

 俺は自分にそう言い聞かせて、彼女たち1人1人に口づけをした。





「ロント、すまないが頼まれてくれないか?」

「終わったのか?」

「あぁ、彼女たちを……」

《こちらの道からしばらく行ったところの洞窟が安全です》

「……ここからしばらく行ったところの洞窟に、置いて来てくれないか?」

「分かった」

「すまないな」


 完全に使い捨てになってしまった。

 彼女たちは今回、戦果を挙げる事も出来ない。

 申し訳ないな。

 だが、引き返すわけにはいかない。


「ユーハさん!」

「おぉ、リアどうした」

「完成しました!」

「分かった。ライトベル!」

「……行くよ、ブラウン」

「リア、お疲れ。膝枕してやるからゆっくり休め」

「はい……流石に疲れました」


 客車に袋を乗せ、袋を所定の位置に設置していく。

 その途中で、ぼーっと外を眺めながら自分の手を見る。

 ……精霊魔法が物凄い力を持っているのを感じる。

 8人分のチートか。ライトベル曰く、追加で2人キスした段階で自分より強くなったそうだ。

 ライトベルより3段階上の精霊魔法の力。

 この力で、この戦争を止めてやる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ