7.森の石碑
ホーガンに到着して、俺達は宿を探した。
戦争が近いせいで宿自体はすぐ見つかった。
しかし、その宿について俺達は揉めていた。
「えー、他にしましょうよ」
「……反対」
「うるせー、ここにするぞ!」
ライトベルはともかく、リアが反対するのは珍しい。
だが、俺はその反対意見を通すわけにはいかない。
「この宿はダメです! 方角が悪いです!」
「……呪術師のお墨付き」
「いつから風水なんてやるようになったんだよ! そもそもホーガンの宿も、町の中央から大体東にあっただろ!」
「でもー」
「でもじゃない!」
その宿は1階の部屋しか空いてなかった。
いや、1階が空いていただけいいと思う。
ベッドではなく布団のようなものを敷いて雑魚寝をするような部屋だった。
が、そこは俺達の間でさほど問題ではなかった。
「お姫様抱っこされたいだけだろ!」
「そ、そんなことは……」
「目を逸らすな逸らすな」
俺も流石にこの旅で疲れている。
そもそも俺は肉体派じゃねぇんだよ!
相談した結果、まずはロントの兄弟子とやらに会いに行くことにした。
ロントだけでもいいかと思ったが、何かこの辺りで異変が起こってないかとか聞いておきたいので俺も同行することにした。
「じゃあロント、行くぞ」
「あぁ、こっちだ」
「……行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃいじゃないですよライトベルさん。私たちも行きますよ!」
「……えー」
リアとライトベルは買い物担当だ。
食糧もそうだが、新たに洗濯という問題が出て来た。
町や綺麗な水の川がある場所ならいいが、本来旅の途中で洗濯をする事は出来ない。
特にホーガンからトレイサーまでの道のりは川が全く無かったので洗濯ものがドッサリとなった。
ちなみにトレイサーについたら真っ先に風呂に入ったのは言うまでもない。
トレイサーには大衆浴場があるんだな。銭湯っぽくてちょっと懐かしい気分になった。
問題は衣服だ。
今回は予備の服や下着を全て着てしまった。
俺としては別に数日下着を変えなくても最悪良いが、このパーティーは乙女が大多数だからな。
今回はリアに4人分の衣服と下着を買ってもらう。
……他の人はそういうセンスとか気にしないからな。俺含め。
ロントは兄弟子の住所を知っていた。
まぁ、手紙ぐらい出すか。
トレイサーにいる兄弟子は、町の南部に住んでいた。
一応一軒家に住んでいるようだが、かなり小さな古屋だった。
とりあえず住めればいいと言ったところか。
ロントがコンコンとノックする。
「ニャレッドさん! ご在宅でしょうか! ロントです!」
(……ニャレッド。猫みたいだな)
《にゃんにゃーん》
(アァ、カワイイネ)
《何で棒読みなんですか!》
脳内でアホなコントをやっている間に、ガタガタと中で音がした後にドアの鍵がガチャリガチャリと開いた。
結構しっかりした鍵なんだな。二重鍵だ。
「ごめんごめん、……っと、男連れだったか」
「ちょ、ニャレッドさん! 何て格好してるんですか!」
「どうも、旅仲間の者です。付き添いに来ました」
ニャレッドさんはボサボサの茶髪にパンツ一丁の姿だった。
……すげぇ腕の筋肉。全身に傷の跡がある。
やだ、惚れちゃう……。
「で、どうした? 道場で留守してるんじゃないのか?」
「それが、ブルックンさんが帰って来たんですよ。それで旅をしろと」
「あー、アイツか。で、モンスターでも狩る旅でも?」
「いえ、えーっとですね」
「そこからは俺が説明します」
俺は旅に出た理由として、各地の異変を調査していると説明。
何か変な事があれば聞きたいと思いここを訪ねたと伝えた。
「うーん、なるほど。でも変な事ねぇ。酒屋のねーちゃんが口説き落とせない事が変な事だが」
「……他でお願いします」
「あとは変な石碑があるぐらいか」
「石碑?」
石碑、凄い気になる響きだ。
ただの石碑ならいいが、大体のRPGで意味深に立っている石碑が何もなかった試しがない。
ストーリー上関係なくても、裏ボスや裏ダンジョンへの伏線としていつか回収される定めである。
「ちょっとその石碑に案内してくれますか?」
「あー……明日でもいいか?」
「何故ですか? ……あー分かりました」
「んじゃあな」
そう言うと、ニャレッドさんは扉を閉めてしまった。
「ちょっと破天荒な人だったな」
「……家に上げてくれても良かったと思うんだがなぁ」
「まぁ、家に上げるわけにはいかないのは何となく分かる」
「ん? 分かるのか? 流石ユーハ殿だ」
肩に金髪の縮れた毛がついてたからな。
あと、パンツの上からでもアレがもっこりしてるのが分かった。
多分、中に裸の女性でもいたのではないかな。
《ちなみにニャレッドさんは知りませんが、中にいるのは酒場の方の妹さんですね》
(互いにそのことは?)
《妹さんもお姉さんが口説かれてる事を知ってますし、お姉さんも妹さんが彼女なのを知ってますよ》
(ありゃりゃ)
そりゃ口説けない訳だ。
それにしても二股かけようとするとかやるな。ニャレッドさん。
なかなか度胸がある。
《……一言良いですか?》
(どうした?)
《ハーレム作ろうとしてる人間のセリフじゃないですね》
(……全くもってその通りだな)
現状でまだハーレム要員とはいえ、3人いることだしな。
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「ただいまーっていっぱい買ったな」
「はい! ライトベルさんにいっぱい持ってもらいました!」
「……疲れた」
「おぉう、容赦ないな」
えーっと買ったのはこれが洋服類か。
こっちは食糧か。そういえば2人分増えてたからな。食糧の在庫もすっからかんか。
あとは……。
「何だこれは」
「あ! ダメです!」
何か銀色の金属の器具があったので手に取ったら奪い取られた。
しかもこれ三つある。何に使うんだこんなの。
ちょっとずつ色が違うし。
「えっとそれは……」
「秘密! 秘密です! ユーハさんにも言えません!」
うーん、触れないでおいたほうがいいのかな。
にしても、この反応は過剰じゃないだろうか。
《あー、アレはしょうがない反応ですね》
(何なのか分かるのか?)
《まぁ、大体察しはつきます。旅は長いでしょう?》
(そりゃな)
《女の子には、やらなければならないこともあるんですよ》
(……あー、何となく分かった)
ムダ毛処理用の器具だったか。
そりゃ悪い事をしたな。
ここには置いてないが、生理用品なんかもちゃんと結構な数のストックがあるとポートは言っていた。
女の子たちとの旅は中々大変なところがある。
リアに膝枕して貰っている時に、リアが少し足を動かしていた時があった。
俺はそれを頭で感じつつ、どうしたのかな? 程度にしか思わなかった。
が、それを見たライトベルに起こられてしまった。
リアは恥ずかしがりやでトイレを申告するのが恥ずかしいらしい。
なのでこちらが汲み取ってやらないといけない。
かといってその次に「トイレか?」とダイレクトで聞いたらそれはそれで怒られた。
……難しいものだ。
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翌日、ロントとニャレッドさんの三人で石碑とやらを見に行くことになった。
……待ち合わせに30分ぐらい待たされたのは大目にみておこう。
しかもその理由が例の妹さんと夜遅くまで勤しんでたからとか。
今度こっそり酒場に行って、姉の方に色々ある事無い事吹き込んでやろうか。
石碑はトレイサーの町から南西の森の中にあるらしい。
トレイサーを出る際、外出許可を3人分発行して町を出た。
結構な距離があるのでライトベルは置いていく。客車も使えない道があるらしいし。
「ちなみに、その石碑はモンスター退治のクエストの最中に見つけたんだぜ」
「へぇ、そうなんですか」
「そのクエストはワイルドベアー討伐だぜ? ワイルドベアーだぜ? ワイルドベアー」
大事な事だから3回言ったんだろうか。
しかし、ロントもほぼ単体で倒してるんだよなぁ。
俺のサポート魔法アリでだけど。
「っとあそこだ」
「結構奥深くにありますね」
「ユーハ、何て書いてあるのか読めるか?」
うーん、分からん。
ポートは読めるだろうか。
《えーっと、多くの人の生贄がどうとか書いてありますね。詳しい事までは》
(まぁ、字も擦れてるから仕方ないな)
《えぇ、それに少し古い時代のもののようです》
にしても人の生贄か。
こういうのって結構RPGでもある印象だ。
生贄をささげると、何かが復活するってやつ。
まぁ、こんだけ奥深くにあるんだから大丈夫だろう。
念の為、文字をもっと削っちゃってもいいかもな。
……まてよ。
(なぁ、ポート)
《どうしました?》
(これって多くの人の生贄がどうとか書いてあるんだよな?)
《はい、そうですね》
(今気づきたくない事気づいちゃったんだけどさ)
《はい?》
(もうすぐ、この近くで戦争起きるかもしれないんだよね)
《……あ》
(人、いっぱい死ぬよね)
《そうですね》
何だろう、凄い嫌な予感しかしない。
……気づかない事にして放置しちゃおうか!
《ダメですよ、何の為の旅ですか》
(……ですよねー)
とりあえず、背負ってでもライトベルを連れてきて読ませてみよう。
あいつなら何とか字が読めるかもしれない。




