6.格下の風格
「ハッハッハ。俺は今ツイていますな!」
「ほう? じゃあレートを倍にしてもいいでしょうか?」
「とーぜんじゃあリア殿! ハーッハッハ」
うーん、この兄弟半端ない。
先ほどからゲームでの敗北フラグを乱立させているのに、最終的に良い成績を残している。
ちなみに、今ブラウン君を操縦しているのは2人組の片方だ。
ウツラウツラしながら操縦しているが大丈夫だろうか。
「うーん後が無いですね。このゲーム、全賭けにします」
「おぉ! ええ度胸ですな! 乗りますぞ!」
「いいんですか? 乗らなくても勝てますよ?」
「自分はここしばらく負けてない! 次も負けるはずがないですぞ!ハーッハッハ」
心の中でニヤリと笑うリア。完全にリアの釣りだ。
パッと見ではリアの方が断然不利だが、裏で俺とリアが結託している。
リアの盤面を見るに、八割方勝てる手が揃っているはずだ。
「勝負!」
「どりゃあ!」
「何っ!」
くっ……そこでそのカードを引くとは。
あー駄目だ。これで3連敗だ。勝てる気がしない。
「……ユーハ、起きた」
「あぁ、ライトベル起きたか。じゃあ俺が寝る」
「……分かった」
若干ふて寝に近い。
うーん、裏でリアと結託しても勝てないかー。
半分眠った頭に、リアと死亡フラグコンビの会話が入ってくる。
「あー完敗でした。流石ですね」
「ハッハッハ。なぁに、運がちょっと良かっただけですな!」
「ちょっとレクチャーしてくれません? 私も強くなりたいです!」
「おう! しょうがないなぁ! リア殿! これを見て下され」
カチャリと何か金属が開く音が聞こえた。
あぁ、もう1人が持っていたロケットか。
確か嫁と娘とか言ってたっけ。
「可愛い方と素敵な方ですね。奥さんと娘さんですか?」
「いんや、ワシから見たら他人ですぞ」
「ではあの人の?」
「いやいや。実は適当に冒険者に声をかけて写真を撮らせて貰った、全く知らない赤の他人なのですぞ」
《何ぃ!》
俺も思わず声に出しそうになった。
あれほど俺の嫁が可愛いとか言ってたのに、アレは妄想というか作り話だったのかよ!
「リア殿。このロケットの写真が何を意味するか分かりますかな?」
「……何でしょう、気休めとかですか?」
「違いますな。流れですぞ」
「流れ?」
(……何かメタな匂いがするな)
《いや、でもまさか……》
「いいですかな、リア殿。コレはわざとですぞ。コレを見せる相手は、何故か不安になる」
「……確かに、ちょっと不安になりました。何というか死んでしまうのではないかと」
「そこで、周囲の人は我々を援護するのですぞ。我らは、その流れを操っているのです」
……俺とロントが一緒に組んだ時も、あいつらが死ぬんじゃないかと思って一生懸命フォローしたっけ。
まさか、それを誘発する為にわざとロケットを俺に見せたのか……?
「しかし、それが今どういう関係があるんですか?」
「いいですか、リア殿。堂々と罠にかかりそうな発言をするとどう思いますかな?」
「そりゃあ、罠にかけようとします」
「そうでしょうとも。相手にカモだと思わせる事。まずこれが大切ですな」
……最初はそう思ってた。
数をこなすうちにそうでもないと気が付いたが。
最後は結託して負けてしまった。
まさかこの一連の流れが、誘導されたというのか?
「リア殿。人間には格上、同格、格下の相手が存在しますぞ」
「はい」
「相手が格下だと思っている相手に、警戒を薄くしてしまうのは道理だということも分かりますかな?」
「……なるほど、そうですね」
「なので、相手の警戒が緩い間にイカサマを仕込むのですぞ」
「ちょっと待ったぁ!」
思わず飛び起きてしまった。
こいつ、敗北フラグを着々と立てていつか負けそうな雰囲気をわざと作り、イカサマの仕込みをしてたのか。
ふてぇやろうだな。
《イカサマがあったんですか……くぅ、ずっと見張っていたのに気づきませんでした》
ポートが物凄く悔しがっている。
俺も悔しい。
「まぁまぁユーハ殿落ち着きなされい。実際の金がかかってないからこそやったまでのこと」
「そうは言ってもさぁ」
「実際の賭けではこのようなイカサマが常時行われていますぞ」
暗に俺たちはまだこの手の賭けに手を出すなという忠告をしてくれているのか。
いや、騙されんぞ。結局ただイカサマやっただけじゃないか。
……まぁ勉強にはなったけどさ。
「……でも、俺たちも一応チェックはしてたぜ? どこでイカサマしたんだ?」
「ガン付けですよ」
「ガン付けぇ!?」
ガン付けというのは、カードに小さな傷を付けておくことだ。
このマテリアルは俺たちが買ったものだぞ。
先に俺達が遊んでたのに、その後つけられた印が見つけられなかったのか。
「全く気付かなかった……」
「そりゃそうですぞ。この『マテリアル』のカードを売っている店は、実家ですからな!」
「……なっ」
「実家の商品を熟知し、ガンを付けても気づかれないようにわざとらしく弱者を装う。たかがゲームと言って泣きを見るのは御免ですぞ」
……ぐうの音もでない。
完全なる策略の前に俺たちは敗れたのだ。
たかがゲームと侮ってはいけない。
彼らは実際の生活でもこれを実践しているのだ。
死亡フラグを立てて周囲に援護をさせ、美味しいところだけを掻っ攫う。
実際の戦いで相手やライバルに「イカサマだ」と言っても仕方ない。
出し抜くにはそれだけの技術が必要だ。
「リア殿。いいかな? 出し抜くには全てを利用するのですぞ」
「全てを?」
「そう。耳をこちらへ」
「はぁ……」
男は他の2人にしか聞こえないように、しかしこっそり俺には聞こえるようにこう言った。
「恋も同様ですぞ。他の2人にユーハ殿を取られたくなければ、全ての言動。行動。流れを自分のものにする。出なければ、いつか取られてしまいますぞ? 誰よりも大切な人を」
リアが顔を上げた。
それは憧れの顔をしていた。
恋ではない。尊敬だ。
彼女の中で、何か考えが変わった。
「……師と、師と呼ばせてください!」
「ハッハッハ。教えは厳しいですぞ?」
「構いません!」
「では、復唱しなさいな」
また妙な事になった。
リアが「あなたの帰る場所を、必ず守ります。何があっても」と復唱しているのを見ながら、俺は心の中でそう思った。
……いいや、寝よう。
「ユーハ殿、世話になりましたぞ」
「いやいや、こっちも世話になった」
ホーガンを出てから3日。
あのコンビには色々と世話になった。
突然の豪雨で困っていると、客車の雨漏りを直してくれたり。
俺が熟睡している最中もモンスターの撃退をしてくれたり。
危ないキノコを教えてもらったり、町に入る時にも手続きをしてくれた。
ありがたい限りだ。
「師匠! ありがとうございました!」
「達者でな! リア殿!」
「次会う時は、必ず腕を上げておきます!」
「必ずいつかまた会える。きっとな!」
妙な連帯感が生まれた奴らもいるが。
ああもう、リアが真似して死亡フラグをまき散らしているし。
(そういえばあいつらの名前、何て言うんだっけ)
《ユーフィクラムさんと、バルドレンさんですね。自己紹介聞いたじゃないですか》
(……妙にかっこいい名前だな)
男の名前は覚えないだろうと思っていたが、しばらく忘れないだろう。
この2人の男の事を。
とにかく、トレイサーに到着した。
まずは宿を探さないといけないな。
戦争についても、結局どうするか保留のままきてしまった。
《そうだ、ここにロントさんの兄弟子さんもいるようですよ》
(そうか)
ハーレムも増やしたいところではあるしなぁ。
色々やる事が多そうだ。
まぁ、悪くないことか。