5.試行な覚醒
「か、かぁ……」
「なーいい加減元気だせよー」
強制連行されたカー君が、サメザメと泣いている。
ぶっちゃけ非常に面倒臭い。
というかどうでもいい。
スズメの涙じゃないが、カラスの涙とか本当に価値が無さそう。
《もーグダグダ泣いててしょーもない》
「かー……」
「まぁまぁ、カー君の気持ちを考えなかった私も悪いですし」
トロープが精いっぱいのフォローをしている。
まぁ、簡単な話カー君がトロープを独占したいってだけの話なんだが。
《いいですか? トロープさんは貴方の為を思ってるんですよ?》
「かぁ……」
《貴方の活躍を見て、その助けになれるように力を付けたいと思ってるんです。応援してあげないでどうするんですか》
カー君としては、トロープの戦力は自分一人でいいと思っている。
むしろ自分がいる事で、トロープの株を上げていると思っている。
それは間違いではない。
しかしトロープも自分が非力だと感じていたのだろう。
最近命を落とし、転生神から助言を貰った。
役に立つ為にモンスターを増やすというのは間違いではない。
俺らとしてもそれに関しては応援したい。
素直に戦力が増える事は良い事だし、トロープの心情も考えてだ。
というかなんだ。
弟が生まれてお母さんを取られた3歳児か。
二回目の人生だというのにメソメソと。
もう仕方ない。
「とりあえず、こいつのフォローするモンスターを増やす方向にしようか。それならいいだろ」
「かー……?」
「どうしても単独行動が多くなるから、空で何かあったら俺らじゃどうしようもないし」
カー君を援護する方法を増やす。
それに関してはカー君自体も欲していたかもしれない。
本人もなんか納得してくれたようだし。
とはいえ、空を援護する方法は少ない。
同じく飛べる奴か、空を狙撃出来る程の超射程か、空に同行出来る程小さい役に立つ奴か。
超射程狙撃に関しては一旦おいておこう。
飛べる奴だが、この大陸に鳥はいない。
いや、厳密にはダチョウや鶏の類の鳥はいる。
卵も食った事あるから確かだ。
だが飛ばないから除外だ。
次に考えられるのはドラゴンだ。
とりあえずあの洞窟のドラゴンはスルーだ。
あんなん従えられるなら最初からする。
ミニドラゴン等がいればワンチャンあるが、ポートピート共にまだそういう報告はないと言う。
俺の本命は昆虫だ。
チョウ、カブトムシ、トンボと言った空を飛べる昆虫。
それらのモンスターなら、空への援護も可能なはずだ。
《あ、この近くにいますよ》
(お、ほんとか?)
《はい、ハエのモンスターが》
(却下で)
何より、トロープの意思を優先したい、
ハエとかGとかのゲテモノはなるべく推奨したくない。
いや、トロープがそれで良いっつったら良いんだけどさ。
「ねぇねぇ」
「おぉうビックリした」
突然ナナが声をかけてきた。
最近新しい靴を買ったせいなのか、足音がしなくて超ビビった。
「いやゴメンゴメン、盗み聞きしたって訳じゃないんだけど聞こえちゃって」
「おう、どうした?」
「トロープんの光ってる状態を調べてからでもいいんじゃないの?」
「そうですよ! 前回ダメだったし!」
「お、おう。分かった、分かったから」
トロープの迫力に押されて、思わず後ずさる。
あーそういやそうだった。
確か、トロープは以前覚醒状態を実験したがってたな。
その時はカー君いなかったからできなかったけど。
今ならいい機会だろう。
トロープの覚醒がどんな能力なのか知ってから、モンスターを増やしても遅くはないはずだ。
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結論から言おう、失敗だった。
覚醒自体は成功した。
見た事の無い衣装に身を包んだトロープ。
第一印象はモンゴル辺りの遊牧民の衣装だったが、その通りらしい。
以前この大陸で過ごし、やがて定住した昔の遊牧民族の衣装だったそうだ。
髪飾りとして鳥の羽根を使っているのは、カー君を意識したからだろうか。
黄金だったからカラスの羽根だったかは分からないけど。
一方、能力が一切分からなかった。
色々試したが、何も判明しなかったのだ。
(おい、何か聞いてないのか?)
《いえ、全く》
ポートに聞いても知らぬ存ぜぬ。
トロープが何を試しても、本人やカー君にも何の影響もなかった。
カー君に乗ってちょっと遠くまで移動して、はぐれ狼を見つけて色々試したが何も起きない。
カー君が重力の魔法? を使っても出力は変わらなかった。
本人は気持ち強まっていると言っていたが、誤差程度だろう。
はぐれ狼を軽く葬り、適当な場所で下してもらう。
蘇生とか試してみるがやはり無理。
うーん、なんだろう。
「カー君、試しに速度のテストお願いしてもいいですか?」
「かー!」
「試しに最高速度でしばらく飛び続けてください 気を付けて」
「かーーっ!」
トロープの指示でカー君が飛行実験を始めた。
ちなみに俺らは拠点からそこそこ離れた位置で待機してる。
襲われても急げば拠点に逃げ込める位置だ。
ナナは今日の夜の見張りなので寝に行っているので、トロープと俺の二人きりだ。
草の上に座る。
どうにもトロープの覚醒を発動させたせいか、気分は優れない。
まぁいつもの事なんですけどね。
「ユーちゃん、お疲れですか?」
「ん、まぁな」
二人きりになったからか、呼び方がユーちゃんに変化した。
効果が切れかけてるせいか、光が大分薄くなってきている。
「ユーちゃん、ちょっと腕比べしませんか?」
「ん? あぁ」
腕相撲のような事をやってみる。
あっけなく負けた。
俺は一応鍛えているが、トロープも一応元々は棒術のようなものを扱っていた。
体力が減っていて、相手が覚醒の強化を受けている今なら力は負けるらしい。
とはいえ、ロントのように肉体特化な覚醒でも無さそうだ。
あくまで基礎体力が上乗せされている程度の強化。
トロープの覚醒が肉体強化ではないのは明白だ。
「ふーん、今ならユーちゃんより力強いんですね」
「まぁ、そうだな」
「へぇ……」
……ん? なんだ?
なんかトロープの様子が……?
「今なら邪魔されず、二人きりに……」
「まて、なんでベルトに手をかける」
「ほらほら、力は私の方が勝ってますよ?」
覚醒の影響なのか?
いや、トロープはよくよく考えるとロントの悪友だ。
隠していただけで元々こういう一面も持っていたんじゃ……。
《ユーハさんユーハさん》
(な、何だよ)
《知ってました? 破瓜ってハカって読むんですよ》
(今その情報を与える意味は何だ!?)
それから数分間、トロープの覚醒が切れるまでの間。
そこでは……。
いや、やめておこう。
俺は、何もされていない。されていないんだ。
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結局、その日は放棄されていた拠点で一晩を明かした。
俺らが到着してしばらく後に、王都側の拠点から出発した人たちと合流したのだ。
やはり柵で囲われてテントが張ってあり、他に人がいるだけで安心感が違う。
町と比べても唐突に刺客に襲われる心配もない。
久々に熟睡が出来たという印象だ。
それから先は、全くと言っていい程モンスターと出くわさず軍事都市に到着した。
あれほど警戒しただけに、非常に拍子抜けだった。
遠くに軍事都市の煙突が見える。
あの煙突が、今は頼もしく見える。
《ところでユーハさん。仲間にするモンスターの話に戻りますけど》
(おう、何だ?)
《他に候補思いつきません? 飛べるモンスター》
うーん、バッタ? ウサギ?
いや、空までジャンプされてもなぁ。
《まぁ、流石にコータなんて出てこないですか》
(……?)
《いえいえ、こちらの話ですよ》
空飛ぶモンスター……。
うーん?




