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13.後悔の時


 死んだ?

 ハーレム要員が死んだ?

 誰が? 考えるまでもない。

 あの三人だ。

 そのうちの二人が殺されたのだろうか。

 何故?

 恐らく敵襲を受けたのだろう。


 急げ、とにかく急げ。

 俺は一目散に……。







 ………………。

 ……違う、そうじゃない。

 仲間の死、確かにパニックに値する事だ。

 だがかつて俺は仲間の死を経験しているはずだ。

 ロント、ナナは一度死亡した。

 どちらも俺のキスで蘇生させたが。


(ポート、エレフトラは健在か)

《お、冷静になりましたね。はい、仮眠室で無事です》

(分かった)


 今回死亡したのはハーレム要員だから、俺のキスは使えない。

 エレフトラは健在。

 なら、蘇生魔法が使える可能性はある。

 死亡したのはロントとトロープ。

 いや、違う。

 刺客がいる。

 奴も俺がキスした相手だから、候補に入っているはずだ。

 ともかく、死亡してしまった以上はエレフトラの蘇生にかけるしかない。


 それよりも問題が一つある。

 護衛がいたはずだ。その護衛がこの事態に何もしなかった訳ではない。

 彼が監視する場所に選んだのは確かそこを右に曲がって……いた!


「カー君!」


 そのカラスは、まるで道路で力尽きた鳥のようにぐったりとしていた。

 抱えても反応がない。

 まだ温かい、息もある。

 死んではいないようだが、衰弱している。


(とにかくエレフトラの元に向かわないと)

《それよりユーハさん、気配を消した方が》


 気が動転しすぎて、自分の気配を消す事すら忘れていた。

 地下施設が襲撃されたとすると、便乗して俺自身も狙われる可能性がある。

 だから気配は消した方がいいのだが、そんな事すら忘れていたのか自分は。

 というか、応援としてスランとマイぐらい連れてきた方が良かったかもしれないと今更気づく。

 冷静さを欠いてるなほんと。

 今はとにかくハーブ園に向かおう。




 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~




 ハーブ園に近づくと、妙に明るくなっていた。

 最初ハーブ園が放火されたのかと思ったが、明かりを持ったシスター達がハーブ園の近くに集まっていた。


 この時間にハーブを取りに来た訳ではない。

 地下施設で何かあったのだ。

 だが、あそこは拷問施設であり公には出来ない。

 このシスター達も、中にはシスターじゃない手練れがいるのかもしれない。

 アレにはなるべく関わらないよう、気配を消して地下施設に潜る。


 地下は怖い程に真っ暗だった。

 これまで来た時も真っ暗ではあったが、比較的入口に近い位置に灯りはあった。

 だがその灯りが破壊された跡がある。

 侵入者がいたのだろう。

 遠くの灯りでわずかに見えていたものも見えなかった。

 生活魔法を使い、火を出す。


「……」

《どうしました?》

「いや、何でも」


 俺は、その火を見て覚悟を決めた。




 血生臭い匂いが立ち込める。

 俺らが使わせて貰っていた拷問部屋。

 そこの前で、一人のシスターが倒れていた。

 手にはレイピアかと思う程の細い剣が握られていた。

 前から袈裟のように切られ、辺りには血が壁まで飛んでいた。


 そして部屋の中。

 エレフトラが立っていた。

 足元には、二つの倒れた姿があった。

 まず一つ。俺らが拷問していた刺客だ。

 大きな布が覆いかぶさっていた。

 死んだハーレム要員は二人。

 一応奴も便宜上はハーレム要員だ。亡くなった一人目はこいつだろう。


 もう一人、エレフトラの足元に倒れていたのはトロープだった。

 彼女とキスをした際、俺が強化を望んだのは生活魔法だった。

 俺が階段を下りる際、手から出した炎はか細いものだった。

 それは生活魔法への強化が途切れた事を意味する。


 トロープは、キスによる影響を既に受けている。

 キスで蘇生するという事は不可能だ。

 しかし、まだ蘇生魔法という手を俺は望んでいた。


 だが、俺は彼女の亡骸を見た瞬間に絶望をした。

 俺には彼女が蘇生できるとは到底思えなかったからだ。

 失血死ではない。

 切断によるものでもない。

 外傷が酷いとかそういうレベルの話ではない。


 背中から胸にかけて、非常に強力な刃物で突き刺されたような傷だった。

 胸からは大量の血が噴き出したのか、壁一面にまで血が飛んでいた。

 俺でも分かる。この死因が。

 心臓を貫く一撃だ。

 蘇生は、無理だろう。




 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~




(ポート、この辺りに不審者がいる可能性は?)

《ロントさんが今探してる途中ですが、もういないでしょうね》

(そう……か)


 失いそうになる冷静さを、必死に失わぬよう頭を働かせる。

 そうだ、カー君。


「エレフトラ、カー君なんだが……」

「ん? あーこりゃ酷いねぇ」


 エレフトラはそう言うと、シスターの一人を呼んだ。

 そのシスターの名前は……すぐに頭から飛んだ。

 シスターは食堂の机に清潔な布巾を広げると、治癒魔法をかけ始めた。

 犯人も追えない。カー君も任せるしかない。トロープにも何も出来ない。

 俺は、今何も出来ない。


「ちょっとそこ立ってるの邪魔だから、動いてくれないかねぇ」

「あ……悪い」


 何も出来ない。

 その事実を認識すると、どうしてもトロープとの思い出が溢れてくる。

 初めて会ったのは、アリの大侵攻の前だったか。


 崩落した時、餓死しかけて二人で助け合ったな。

 あの時のドラゴンと、また再会するなんて思わなかった。

 ころりん今どうしてるだろうか。


 不思議と涙は流れなかった。

 ただただ、現実を受け入れられないでいた。


「あ、ユーハ。来ていたのか」

「ロント……」


 ロントの顔を見ると、途端に目頭が熱くなるのを感じる。

 そうか、ロントとトロープは幼馴染の仲だった。

 俺よりも、トロープと深い付き合いだったはずだ。

 俺が旅に巻き込んでしまったせいでこんな事に……。

 なんとか耐えようとするが、ロントの顔を見るだけで涙が溢れて来てしまった。

 トロープの顔はまだ綺麗な表情をしている。

 先ほどまで生きていた。つい数時間前に雑談をした。

 そんな彼女が……。


「とりあえず持ってきたけどこれでいいのか?」

「あぁ、これなら楽勝さ」


 ロントとエレフトラが、冷静にトロープの亡骸に何かの処理をしている。

 凄いな二人とも、仲間が死んだというのに非常に冷静だ。


「さて、お二人さん。一旦部屋から出てもらうよ」

「ほら、行くぞユーハ」

「ぅお、おぅ……」


 ロントに手を引かれて部屋の外に出る。

 入れ替わりに、シスター達が中に入る。

 外で切られていたシスターも、部屋の中に運び込まれている。

 これから、弔う儀式のようなものをするのだろうか。

 教会だもんな……。


 エレフトラは他のシスターの前だからか、作った声で指揮を始めた。

 他のシスター達も、エレフトラの指示を忠実に守っている。

 俺らはそれを、扉の外から聞くしかできない。


 俺は……。

 俺は…………っ!









「ではこれから、トロープ、エマ両氏の蘇生の術式を汲み上げます」

「はい!」

「まずは服の裁断から」

「分かりました!」


 ……ん?

 蘇生の術式?




 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~




《ぷークスクス》

「ぅあぁぁぁぁぁ……」


 一時間後、俺は仮眠室にいた。

 目の前では、無事治療の終わったカー君の隣で寝息を立てているトロープの姿があった。


《心臓ってのは、他の臓器より強いんですよー。治療するのも他の臓器より楽だから、心臓が貫かれても蘇生はこっちでは出来るんですー》

「くそぉぉぉ……」


 見るからにトロープより斬られたシスターの方が即死では無い感じだったが、今エレフトラはシスターの蘇生を行っている。

 どうやら、あちらの方が難しい蘇生のようだ。

 だが治療機関の威信を賭けてでも、トロープとあのシスターの蘇生をするようだ。

 ちなみに一緒に殺されていた刺客は蘇生しない方向らしい。

 まぁそりゃそうだろうな。


《そ……それにしてもユーハさんのあの慌てっぷりはほんっと面白かったです》

(蘇生出来る状態なら出来るって言ってくれよ!)

《だ、だってあんまりにも焦ってるからつい……蘇生出来ないなんて一言も言ってないのに……》

(くっそー……)

《は、腹が……腹が痛い……》


 ちなみに、もう一人のシスターの蘇生もその日の未明に完了した。

 失敗したら俺がチートを使ってでも蘇生しようと思ったが、取り越し苦労だったらしい。


 蘇生が完了したトロープ。

 彼女が目を覚ますのは、それから二日後の事だった。

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