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9.代償の時


「はぁ……だるい」


 自己覚醒は、俺を強化する。

 だが、覚醒を放っている時の俺は魔力不足でだるい。

 何故だろう、覚醒から少し経つだけでそのだるさが襲って来る。

 まだ覚醒中なのに。魔力不足でもないはずなのにな。

 とりあえず魔力結石で回復しとこ。


「ユーハ!」

「おぉびっくりした」


 倉庫の扉が急に開かれた。

 飛び込んで来たのはロントだった。

 早かったな、汗をかいている所を見ると全力で走ってきたのだろう。


「あ、えっと……」

「おーロントか。助かった助かった」

「え、あぁうん」


 何だ、戸惑ってるな。

 まぁ無理もない、俺の近くに死体が転がってるからな。


《いえいえ、違いますよ》

(え、何が?)

《ユーハさんの外見が凄い変わってるので、違和感を覚えてるのでしょう》


 あ、そうか。俺今覚醒中だっけ。

 皆恰好が変わってたな、そういや。

 ライトベルに至っては変な騎士が現れてたし。

 でもそんな外見変わってんのか?


《そりゃもう激変してますよ。鏡見ますか? 近くにありますよ》

(おぉ見る見る……って見る訳ねぇだろ!)


 今の俺が鏡見たら、またナルシストモードになってしまう。

 いかんいかん、危ない危ない。




 ロントに頼んで暗殺者の死体を調べて貰っている。

 奴はキスして復活させる予定だが、別にそのまま蘇生しなくてもいい。

 具体的には、死体の状態で体を縛り、目隠ししてキスしてもいい。

 何だったら牢屋の中で蘇生してもいい。

 そしてその前に、隠し持っている武器とかを全て取り除かなければならない。


 そういう点で、ロントが来てくれたのは本当に助かった。

 死体に対して全く臆する様子もないし、相手が女性だからと言って遠慮もない。

 俺の持っていたスプーンを使って、色々と突っ込んで調べている。

 相手の服を全てひん剥いて、口の中とか髪の中とか。

 股間についている穴にまで調べ始めて正直ちょっと引いた。

 そして本当に前の穴から針が出てきてもっと引いた。

 俺じゃ絶対調べられねぇ。

 というかあのスプーン予想外に大活躍だな。

 あ、口の中からカプセルが出てきた。アレも毒かな。


「ぜぇ……ぜぇ……」

「ユーハさま! 大丈夫でした!?」

「あぁ、大丈夫だ」


 ロントに続いて、マイとエレフトラも倉庫に入ってきた。

 エレフトラが息を切らせて走ってきたのは、俺が麻痺毒を食らったからだろう。

 物凄いぜぇぜぇ言っている。タバコ辞めた方がいいんじゃないだろうか。


 ふと気づけば体の光も大分収まっていた。

 これはポートとの交渉の結果でもある。

 俺が俺へ覚醒するなら、効果時間も長くしていいのではないかと。

 長丁場になる場合は、自己覚醒の時間が長く。

 短時間で決着がついたら、自己覚醒も早めに。

 その代わり、体の気だるさのようなデメリットを抑え目に。

 今回は早めに事態の収拾がついたお陰で、気だるさはかなり抑え目だ。

 まぁ床にへたり込んでるのは変わらないが。


「なるほどねぇ」

「こいつをどうすればいいと思う?」

「なら、いい場所を知ってるさ」


 ひと息ついたエレフトラ達に、状況を説明する。

 襲われたけど返り討ちにした事。

 後でキスで蘇生する事。

 こいつをどこかに隔離したいという事。

 どこかというのは宿ではなく、拷問とか出来そうな場所という事。

 一応聞いてみたが、当然のようにあると言われるとは。


「ロント、そういう訳だ。移動するぞ」

「あぁ、泥酔した仲間という事にしておくか」


 ロントとマイが、刺客の死体に服を着せる。

 流石に全裸の女を背負って町を歩く訳にはいかない。


 俺への自己覚醒が完全に切れるのが待ってから、倉庫を出発する事に。

 服が血まみれになってしまってるな。

 倉庫にあった布を拝借して、とりあえずコートっぽくする。

 夏場なのにコートって、流石に怪しいな。

 後でマイに頼んで着替えを持って来て貰うか。


「というより精霊魔法を使えばいいんじゃないのかい?」

「え?」

「ほら、気配とか消すアレさ。この死体にかけておいた方がいいんじゃないかい?」

「あ、あぁ。悪いな、今使えないんだ。精霊魔法」

「まぁ、キラキラの後だから仕方ないかねぇ」

《キラキラって、覚醒の事ですかね》

(だろうな)


 エレフトラの提案に、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。

 俺は今、精霊魔法を使えない。

 それは魔力が枯渇しているからではない。

 時間が経過すれば、覚醒が終われば治るという物でも無い。

 文字通り、使えない。

 使えなくなったのだ。

 自己覚醒の代償として。




 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~




 俺は自己覚醒の時、ポートとある交渉をした。

 今回、俺は呪術を使う事にした。

 しかし当然の事ながら、俺に呪術を使った経験はない。

 使用経験のない呪術に強い効果は無い。

 だから、俺は呪術の経験を時間限定で得るよう交渉した。

 その代償として、俺が差し出したのは精霊魔法の経験だった。


 経験を差し出すというのは簡単な事ではない。

 分かりやすいのはスポーツで例える事だろう。


 例えば俺がどこぞの高校の水泳部のエースだったとする。

 急遽野球部なんかの助っ人で頼まれ、俺は今回のチートを使う。

 水泳の経験を、野球のバッターとしての経験に置き換えたい。


 その試合の間だけ、俺は物凄いバッターとして大活躍出来る。

 ただし水泳の経験が無くなるので、今までのように速く泳げなくなる。

 という訳ではない。

 もっと根本的な物だ。




 そもそも泳げなくなるのだ。

 息継ぎのタイミング。

 上手く水を掻く方法。

 ターンの練習。

 飛び込みの練習。

 それら全てが初めから知らなかった事のようになる。

 練習し直せば、すぐに思い出せるようにはならない。

 バタ足から始めないといけない。


 俺はそういう契約をポートとした。

 ここ数か月で覚えた感覚、方法、精霊魔法を発動させた時の身のこなし。

 それらを全て忘れた。

 消耗した。欠片も残ってはいない。


 もちろん、1から覚えれば問題はない。

 俺が精霊魔法を使った初日も、俺は一応精霊魔法は使えていた。

 あの時とは違い、俺は精霊魔法の強化もチートとして何個か得ている。

 体に染み込んだ感覚は無くなっているが、今の実力に戻るまで同じだけの時間は必要ないだろう。

 魔力が回復したら、再び一から勉強しなおすつもりだ。

 仮にここまで3か月ぐらいだとしても、1カ月ちょっとで覚醒前の状態まで戻れるだろう。


 だが、今は精霊魔法に関しては全くの素人だ。

 いつ襲撃を受けてもおかしくない身で、だ。

 そして今この瞬間に自己覚醒しても、現在積み上げられている経験はゼロ。

 また呪術を使いたいと思っても、ずぶの素人には変わらない。

 まぁ強いて言えば呪術を一度使った事あるぐらいの経験にはなるが。

 ちなみに今回俺が消耗した精霊魔法の経験は、呪術に変換された訳ではない。

 今から俺が適当にキスをして呪術を使えるようになったとしても、ずぶの素人だ。

 その点はポートに釘を刺されてしまった。

 あわよくばと思ってたのに。チッ。




 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~




(はー……)

《何だかテンションが低いですねー》

(まぁ、そりゃそうだろう)


 万が一のピンチを切り抜ける切り札を切った代償と割り切れはする。

 だが、やっぱり慣れ親しんだ感覚を失うというのは寂しい物がある。

 心の中にぽっかりと穴が開いたような感覚。

 昔のアニメで大事な記憶を失った子供が似たような事を言っていた。

 今ならその子の言っていた事がよく分かる。

 一から鍛え直しだな。


「到着したさ」

「したさってここは……」


 到着したのは、まさかのさっき来たばかりのハーブ園だった。

 その傍らの倉庫のような小屋に入る。

 中はまるっきり倉庫だったが、下に降りる階段があった。


「暗いから気を付けた方がいいねぇ」

(ポート、ここに入るの誰かに見られてるか?)

《いえ、大丈夫そうです》

(一応監視を強化してくれ)

《ほーいほい》


 エレフトラが置いてあったランプに灯りを付けた。

 地下は思ったより広そうだ。とりあえず彼女に付いて行こう。

 しかし冷静になるとアレだな。

 死体運ぶってのは何というか、精神的に来る物があるな。

 まぁ俺自身が殺した訳じゃないし、こいつに同情の余地も無いんだが。


 マイは蘇生出来ると知ってても動揺しているようだが、他2人は凄い堂々としてるというか。

 まぁ余りに今更という感じもするが。


「到着したさ」

「うお、何だここ」

「そりゃ教会の管轄の拷問部屋さ」


 なるほど、それなら納得だ!

 じゃねぇよ! 何で教会が拷問部屋なんか所有してんだ!

 というツッコミが喉から出そうだったが何とか飲み込んだ。

 それにしても凄いな。

 拘束具から拷問道具から何からそろい踏みだ。

 そして何故か部屋の中に井戸がある。

 何故井戸?


《多分アレですよ。血だの大や小や垂れ流しになるので、それを流す用です》

(な、なるほど?)


 よくよく見たら排水溝や換気口もある。

 そのままにしておくと、臭いがヤバいんだろうな。

 でも地上に血の臭いが届いちゃまずいんじゃないだろうか。


《ユーハさんにしては鈍いですねー》

(え、何がだよ)

《その為のハーブ園じゃないですか》

(…………)


 地下で拷問を行い、血が流れたら臭いがやばい。

 それを誤魔化さなきゃ。

 そうだ、ハーブ園をその上で作ればいいんだ!

 ついでに拷問で使うハーブもそこで育てよう!


 ……何と合理的な。

 デートスポットとか笑わせてくれる。

 リアには、絶対に黙っておいた方がいいだろうなぁ……。

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