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6.デートの時


「じゃ、俺は寝直すわ」

「……助かった」

「おやすみなさーい」


 血を抜かれたり、静電気流されたり。

 本を読んだりして何だか疲れたので、部屋に戻って休む事にした。

 夜も更けてるしな。


 扉をガチャリと開ける。

 廊下は真っ暗だった。

 そして何か異物にぶつかった感触があった。

 扉を開けた時に、人に軽くぶつかってしまったらしい。


「おっとすいません」

「はぁ……」


 ぶつかったのはリアだった。

 リアはため息をつきながら、俺の前を通り過ぎた。

 ……え?


「今の、リアさんでしたよね?」

「……ユハに気づいてなかった」

「良く分からないんですけど、無視されてませんでした?」


 後ろの3人の会話が耳に入る。

 今起きた出来事に、少し背中に寒気を感じる。


(リアが、スルーした……?)

《にわかには信じられませんね……》


 こんな事は今まで無かった。

 どんな事があっても、あいつは俺を見かけると笑顔で絡んで来た。

 まぁリアが気を利かせて近づかない事はあったけれども。


「……最近ユハが冷たかったから」

「あーあー、可哀想にリアさん」

「良く分からないんですけど、ユーハさんが酷いってことでいいんですか?」

「……ヒソヒソ」

「ひそひそ」


 何だろう、何かしたのか。

 俺、何かリアに失礼な事でもしたのか。


《いえ、何もしてないですよ》

(だ、だよな?)

《えぇ、優しくするとか、遊んであげるとか、そういう事も何もしてないです》


 うっ……。


《最近構ってないのに、二週間遠出してしまう。自分は足手まといだからか置いて行かれてしまった。》


 ぐっ……。


《しかも帰ってきたと思ったら、女の子が増えている? そして洗濯物だけ頼んで、自分の事はほったらかし?》


 ぬぅ……。


《あぁ可哀想なリアさん。ホレた男が、釣った魚に餌をあげないようなダメ男だったばかりに……》


 背筋が凍る感覚だった。

 汗が全身から吹き出してくる。

 確かに、俺が悪い。

 客観的に見て、リアを放置しすぎていた。


《何か、女の子を道具としか見てないような考えですね》

(とーにーかーくー!)


 とにかく! 何とかする!

 何とかする方法は、俺には1つしか思いつかない!

 デートだ! 何とかデートして、機嫌を取る!


《単に疲れてため息ついただけでこんなにも釣られるなんて、やはり童貞……》

(ん? 何か言ったか?)

《いえ、何でもないです》


 しかしデートか。

 いつも一緒にいる人とデートと言うと、気恥ずかしいな。

 だが、楽しみでもある。

 さてどうしようかな。




 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~




「ユーハさん! 早く行きますよ!」

「ちょ、ちょっと待って。靴がまだはけてない」


 翌日、俺たちはリアに家事禁止令を出した。

 俺たちと違って、リアはほとんど休みなく家事をこなしている。

 十人分、いやモンスター達を含めるとそれ以上の食事や洗濯。

 いくら誰か手伝いがあるとはいえ、毎日は本当に大変だろう。


《あそこまでの事なんてなかなかできることじゃないよ》

(うん、そこまでにしとこうな)


 ということで今日はお休み。

 一日羽を伸ばしてもらおうと思う。

 そして一応デートにも誘ったが心良くオーケーされた。

 好感度が下がってたのかと思ったが、快諾されて内心ほっとした。

 ちなみに、リアはフリフリのワンピースを着ている。

 かなり気合の入った服装だ。


「で! 今日はどこ連れてってくれるんですか?」

「んーとりあえず昼過ぎまでそこらへんの雑貨屋見て回ろうかなと」

「あ、じゃあ私行きたいお店があるんです!」


 今回のデートに使う場所が昼ぐらいから入れるので、それまでは時間を潰す方向だ。

 さりげなく腕を組まれて、店に引っ張られる。

 確かに、この辺りの店はあんまり来る機会無かったしなぁ。


《あ、ワタクシは今日一日はあんまり発言しないので》

(おう、気を使わせちゃって悪いな)

《いえいえ》


 まぁ、財布事情はリアも知っているはずだ。

 あんまり高い物は、容赦してくれる……と信じたいところだ。





 結局、ちょっとした小物を買った程度に収まった。

 これからデートするってのに大荷物は邪魔だしな。

 荷物は俺が持つ。

 反対の腕には、やっぱりリアがガッチリと組みついている。


「ふふふ、今日は……今日こそはユーハさんを全て頂いて……」


 たまに考えてる事が口から漏れてる。

 怖い怖い。


「よし、リア。今日はあそこに行くぞ」

「あそこ? 教会ですか?」

「違う違う、その先の建物の裏だよ」


 リアは頭に『?』がついた状態だったが、行ってみたら表情が明るくなった。

 いやぁ、こういう場所もあるんだなぁ。


「ユーハさん、ここですか?」

「そうそう。そろそろ開園の時間のはずだ」


 王都にある教会。

 そこには、教会所有の庭園が広がっている。

 一般人は立ち入りが禁止されているが、月に2、3回ぐらい解放される日がある。

 本来は予約も必要なのだが、エレフトラのコネを使ってねじ込んでもらった。

 あいつのコネ、マジで便利だな。

 ちなみに入園にはやっぱり入園料が取られる。


 この庭園は、普通の庭園とは違いハーブ類が基本になっている。

 教会の庭園だからな。

 もちろん一般開放もされているので、見栄えの良い花も植えられている。

 それでも、この世界では植物園や庭園の類がそもそも珍しい。

 リアは目を輝かせてアレコレ見ている。


「わぁ……この小さなお花綺麗ですねー」

「コレは肩こりのお薬にもなるんですよ」

「へー」


 気になる花があれば、庭園にいるシスターさんが解説をしてくれる事も。

 時々、エレフトラの持っている薬の名前の花やハーブも出て来る。

 なるほど、こういうのを加工して薬とかを作るんだな。


 庭園の中の観光は、そんな長時間いる事は出来ない。

 そもそも前世の植物園のような広さでは無いというのと、次の人の為にドンドン先に進まなければならない。

 一周40分ぐらいで、庭園巡りは終了した。


 庭園のコースの終わりに、売店があった。

 流石協会、金にがめついな。

 見ると、庭園の花を元にしたブローチが売られていた。


「へー、綺麗だな」

「そーですねー!」


 あぁ、リアの声が色づいている。

 顔を見なくても、買ってくれという表情なのが分かる。

 しゃーねーなー。


「すいませんシスターさん、このブローチいくらですか?」

「はい、こっちがこのような値段で……」

「なるほど、じゃあ1つください」


 貰ってそのままリアのワンピースの胸元につけてやる。

 おぉ、悪くない悪くない。

 ちょっとおっぱい触っちゃったのはご愛嬌だ。


「えへへー、ありがとうございます」


 まぁ普通よりちょっと高めのブローチだったけど、この笑顔を見れれば満足だ。




 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~




「あー食った食った」

「ご馳走さまでしたー」


 少し早めの夕飯を済ませる。

 もんじゃのような、お好み焼きのような。

 鉄板で焼くタイプの食事だった。

 リアが以前から気になってたお店らしい。

 そこそこ美味かった。


 この後はやや町外れにある、ちょっと高めの塔を訪れる予定だ。

 元々は見張りの塔として建てられた塔だそうだ。

 しかし王都が発展し、塔より外にも建物がどんどん建って行った。

 結果、見張りの塔としての役割は果たさなくなったそうだ。

 現在は新しい見張りの塔が王都の端に建っているそうだ。

 これから行く塔は、観光とか実験とかに使われてるらしい。

 デートスポットとしても王都の人には有名だそうで。

 そこでキスの1つでもして、今回のデートは終了の予定だ。

 あ、帰りにまた雑貨屋に寄るか。


「えへへー」

「どうだ? デート楽しんで貰えてるか?」

「うへへーもーさいこーですよー」


 堪能して貰えてるようで何よりだ。

 次の目的地は塔だから、見やすくて助かる。

 こっちの裏通りを行った方がいいかな。


《ユーハさん》


 突然ポートの声が頭に響く。

 今日は喋らないと言っていたが、どうしたんだろう。


《ナニカがいます》

(ナニカ?)

《はい、ナニカです。すみません、何なのかは分からないのですが》


 非常にアバウトな情報を貰った。

 要するに気を付けろという事だ。

 状況的に、好ましい何かが来ているという訳ではないのだろう。

 エルフの里の長関係だろうか?


「リア、ちょっと道を変えよう」

「へ? あ、はい」


 人通りが少ない道は危ないのだろうか。

 デートの中止も考えるべきか?

 ナニカとしか言われてないから判断が出来ない。

 とりあえず、人通りの多い所に出よう。

 精霊魔法も発動させとくか。

 まぁ、何が来てもリアには指一本触れさせないけどな。




 比較的大きな通りに到着した。

 マーケットが開かれているのか、人ごみと言ってもいい程に人が沢山いた。

 ここまで来れば、事を起こす可能性は低いだろう。

 さて、どうするか。


「悪い、リア。もしかしたらデートが中止になるかもしれない」

「へ? 何でですか?」


 手を引っ張りながら説明をする。

 リアが少し悲しい顔をした。

 心が少しチクッと傷んだ。

 しかし異変があるなら、まったりデートしてる場合ではない。


 んーどうやって説明するか。

 素直に危険が迫ってる気がするとかでいいかな。

 適当に誤魔化してもいいかもしれない。


 そんな事を考えていたその時だった。

 軽く、本当に軽く人にぶつかった。

 人ごみを掻き分けて進んでいたので、誰にぶつかったかは分からなかった。


 お腹に違和感を感じる。

 重い。いや、異物がある?

 俺は自分のお腹を見た。

 深々と、鉄製のナイフが刺さっていた。

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