4.魅惑の金髪
宿に戻ると、泥のように眠る事にした。
旅の疲れが大きい。客車で睡眠は取れるが、それは小さな睡眠であってまとまった睡眠は難しい。
やっぱり揺れていない綺麗なシーツのベッドは良いな。
ちなみに部屋は完全なる相部屋だ。
4人一緒の部屋で寝る。それは客車の中で決めたルールだった。
本来は男女別の部屋にした方がいいのだろうが、長期的に見ると毎回2部屋取るか大部屋で済ませるかで大きな違いが出る。
どうせ客車で長い間過ごすんだし、一緒に寝るのが嫌と言われても仕方ない。
まぁチートのおかげで多分それはありえないんですけどね。
今後人数が増えていく可能性が高い。
その場合は2部屋とか増えていくだろうが、その時に考える。
宿にお風呂があるらしいが、明日入ろう。
「じゃあ、私お風呂入ってきますね」
「……行ってらっしゃい」
「おう、俺は先に寝る」
リアはお風呂セットを持って風呂場に行こうとする。
しかし扉に手をかけてからふと思い出したように俺に近づく。
そしてそっと耳打ちをした。
「抜け駆けはダメですよ?」
ちょっと顔を赤くして風呂へ行くリア。
……エロい。
大丈夫、俺今そんな元気ないから。
お姫様抱っこ強要のお陰で、ちょっと力がついてきた気がする。
「……ねぇ、何か話をしてくれない?」
「ごめん、無理。寝る」
「……いや、貴方じゃなくて」
《あ、ワタクシですか?》
「……そう」
《そうですねぇ、じゃあユーハさんがユハさんだった場所で有名だった話をしましょうか》
そして、ポートは話を始めた。
ポートに任せて俺は寝よう。
脳内に流れて来た話は浦山太郎。
……何か知らない話だ。
ある所に浦山太郎という男がおった。
浦山が浜辺に行くと、大きな緑の亀が子供に虐められていた。
これはいけない。やめさせよう。
「やめるんだ君たち!」
「あ? 何だおめー」
「おめーではない。私の名前は浦山太郎!」
「今いそがしーんだよ、うせろ」
「そうはいかない。罪もない亀を虐めるのは見過ごせない!」
「いや、こいつ借金あるんだよ」
「……え?」
「しかも結構な額だ。お前これ代わりに払うのか?」
「この額は……ちょっと……。まさか法外な金利でぼったくんたんじゃ」
「馬鹿いうんじゃねぇ、利率はコレだ」
「凄い良心的だ……でもお前子供だろ?」
「この見てくれだから仕方ないけど、俺今年で28だからな?」
「……年上か」
「あいつらもいい大人だ。こっちも仕事だからな。大体この亀が3年も支払を伸ばしてんのがいけねーんだ」
「……ぐうの音も出ないな」
この後、浦山太郎が亀に弁護士を紹介するところで俺の意識は途絶えた。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
目が覚めるともう夜が明けていた。
リアは既に起きて洗濯をしているようだ。
ライトベルはまだ寝ている。
今のうちにお風呂に入って来よう。
どうやら暖かいお風呂らしい。この世界では初めてだな。
ちなみにポートは寝てるっぽい。
脱衣所で服を脱いで体を洗う為の布だけ取り出し、肩にかける。
ガラガラッと風呂場の扉を開けた。
ロントの道場の風呂場同様、ヒノキを彷彿とさせる風呂場だった。
ただし違いがあるとするなら、道場は綺麗な庭が見えていたことだろう。
そして、この宿には換気用の小さな窓しかない。
まぁお風呂があるだけいいだろう。
その代わり、俺の前には山があった。
……山?
「うわぁ!」
思わず戸を閉めた。
女性! 女性ナンデ!
《あぁ、言い忘れてましたね。夜は時間によって男女分かれてますが、今の時間は混浴です》
(起きてたのかよ!)
《いやぁ、黙ってたら面白い事が起きるのに喋るわけないじゃないですか》
こ、こいつ……。
しかし、良いものが見れた。
……ってそうじゃねぇ!
中に入れねぇよ。どうしよう。
「あの! 出たいんですけど!」
「あ、はいごめんなさい!」
扉を開けながら、女性の体を絶対に見えないように壁際に寄る。
女性が中に入ってきたのを足音で感じると、そそくさと脱衣所から風呂場の中に入る。
ふんわりと粉石鹸の匂いがした。
黄金とも言えるウェーブのかかった金髪に、青い眼。
日本人の憧れとも言える金髪蒼眼。一言で言えば美形。
そして大きなお胸。
完全に山頂が見えていた。
一瞬の事だったが、完全に脳裏に焼き付いている。
風呂場に入るとつい浴槽を見てしまう。
……あの人が入ってた風呂なんだよなぁ。
ちょっとぐらい飲んじゃおうかな。
《あ、やめといた方がいいですよ。昨日重騎士のおっさんが入ってますし》
(わ、分かってらぁ!)
久しぶりの暖かいお風呂を楽しんだはずだが、全く記憶に残っていない。
俺の脳裏には、あの双丘が残って仕方なかった。
お陰で風呂を出るタイミングを逃し、ちょっとのぼせてしまった。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
「あ、ユーハさん! おはようございます! ……どうしました?」
「いや、ちょっとのぼせた」
「そうですか。どうぞ」
ナチュラルに膝枕を提案してくるリア。
脳裏に焼き付いたあの光景を打ち消そう。
好意に甘えて全力で顔を埋めた。
あぁ、洗濯していた匂いだ。
前世で聞いた童話を思い出す。
リアの股に顔を突っ込みながら、今日の予定を考える。
ロントをまず出してやろうか。
《あ、それはもうちょっと後にしましょう》
(何でだ?)
《ユハさん時代で言う3時ぐらいに、勾留のカウントが一日進みます》
(つまり?)
《保釈金が一日分減り、ライトベルさんの口添えもちょっと楽になります》
(なるほど、じゃあそれまでどうしようか)
《ここで本来の目的を進めませんか?》
(目的?)
《ハーレムの増加ですよ。ナンパに行きましょう!》
あー、そうだな。この町で一回ぐらい行ってもいいかもしれない。
……さっきの子じゃダメかなぁ。
《それが、ワタクシでも居場所が分からないんですよね。あの方》
(へぇ、そんなことがあるんだ)
宿の部屋を全て巡れば発見できるかもしれないが、ちょっとそれもみっともないな。
ということは、アソコで探すか。
《冒険者ギルドですね。強くて可愛い子がいそうですし》
(決まりだな。ちなみにライトベルは今寝てるか?)
《ライトベルさんですか? えーっと、今寝たフリをしてますね》
(じゃあ伝言頼む)
《はい。ちょっと女の子つまみ食いしてくるので、ユーハさん1人で出かけてきますね!》
(人聞きが悪い事言うな!)
まぁ、ともあれ冒険者ギルドへ向かう事にした。
ちなみにライトベルは筋肉痛らしい。普段歩いてない彼女にとっては、ここしばらくハードだったか。
冒険者ギルドに入った瞬間、一発で分かった。
あの子がいた。
身軽な服装。腰に下げているのはナイフ。ではなく二刀流用の短刀だろう。
風呂場の色っぽい雰囲気とは一変。活発そうな印象を受けた。
……やべ、興奮してきた。落ち着け。
ナンパなんかしたことないよう。
《ユーハさん、まず先にやる事があります》
(ん? 何?)
《ギルドに冒険者手帳を提出し、登録しましょう》
(あぁ、そうだな)
受付に手帳を提出する。
ちなみに受付は凄いイケメンの兄ちゃんだった。
爆発しろ。
受付で登録を待っている間、ふと隣に気配を感じた。
ふと右を見るとさっきの子がちょこんと脇に立っていた。
な、何だぁ。
「なぁ兄ちゃん。朝会ったよな?」
「あー、やっぱり気づいてたか」
「まぁ、あたしは気にしてはいないさ。あんちゃん、旅のものだろ。あたしもさ」
やだ、ボーイッシュ……。
吐息がかかる位置に来ている。
この距離感。いいな。
「でさ、あたしも今日ここに初めて来たんだけどどうだろう。一緒に組まないか?」
「ん? 俺は構わないけど、なんつーか積極的だな」
「まぁ、互いに見合った仲だろ?」
チラッと視線を落とす彼女。
うわぁ、完全に俺の息子をチラッと見たよ。
俺も見られてたのか。
やだ、恥ずかしい……。
「あたしの名前はヴェルノーン。あんたは?」
「ユーハ。ユーハ・ガイアベルトだ。精霊魔法使いをしてる」
「精霊魔法使い?」
「まぁ、後で教えてやるよ」
思ったより進展が早いな。
これはハーレム入りもあり得るな。
ヴェルノーンと握手をする。とりあえず今日だけでも交流を深めよう。
……外れの奴の可能性もあるしな。
《……ところで、フルネームまた変わりました?》
(フルネームなんて飾りだ飾り)
そうこうしていると冒険者手帳の登録が終了した。
チラッとヴェルノーンの手帳を見ると、まだ白紙が目立つ。
もしかしたら俺の方が先輩だったりしてな。
今回のクエストはショックマンティスというカマキリの姿をしたモンスターが相手だ。
巨大なカマに麻痺の効果のある毒が仕込んであり、それがまるで電撃が走るようなのでショックという言葉が名前についているそうだ。
《えーっと、この辺りですね》
(分かった)
ホーガンの南にある森に巨大なカマキリの卵があった。
それを守っているのがこのショックマンティスだ。
この卵を焼き払うのが今回のミッションだ。
放っておくとこのショックマンティスがぞろぞろ出てくるからな。
「ヴェルノーン、あそこに見える奴が分かるか?」
「おう! 分かるぜい!」
「アレがターゲットだ」
「じゃあ行くか!」
「まーちょっとまて。精霊魔法をかける」
「お? おぉ?」
サクっと魔法をかける。
力が上昇する魔法。足が速くなる魔法。そして気配を消す魔法だ。
ちなみに気配を消す魔法はかなり強くなっている。
具体的には同じ部屋にいてもすぐには気づけないぐらいだ。
というか、俺の目の前にいるはずのヴェルノーンの気配がなんかあいまいに感じる。
まぁ気をせず話すか。
「俺が気を引く。ヴェルノーンは相手の隙を突いてくれ。多分上手く行く」
「おっけー、分かった」
そう言うと、俺はショックマンティスにナイフを投擲する。
硬い殻に阻まれ、俺はショックマンティスに睨まれる。
近づいてくる相手。しかし、気が付いたころにはショックマンティスの腕がポロリと落ちる。
当然、ヴェルノーンの手柄だ。
「あれ? 簡単に落とせちゃった」
「いいからどんどんやっちまえ!」
「おっけー」
スムーズに両方のカマを関節で切り落とし、足を叩き折って首を狩った。
楽勝だ。油をかけて火をつける。
カマに仕込まれた麻痺毒が売れるので、1人1本持ってホーガンへ戻る。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
「うーん」
「どうした?」
「このカマ、麻痺する毒が仕込まれてるんだよね?」
ヴェルノーンがじーっとカマを見る。
どうしたんだろう。
「……一回麻痺かかってみたい!」
「馬鹿じゃねーの」
「ねぇねぇ、麻痺になってみたいから周囲の警戒お願い出来ない?」
「うーん」
何か馬鹿っぽい奴だな。
しかし麻痺で動けなくなったところでキスをしてしまうというのも手だな。
周囲にモンスターがいなければいいんだが。
……いや、今までこんなに軽々しくキスしてきたのがいけない気がしてきた。
《周囲にモンスターの気配はありません》
(うーん、分かった)
《まぁ、ちょっと麻痺毒に触るぐらいなら大丈夫ですよ》
ならいいか。
襲われても知らんぞ。ぐへへ。
「分かった、いいぞ」
「おう、じゃあちょっと失礼して……」
ヴェルノーンがカマの表面の粘液をそっと指にすくう。
そして躊躇いもなく舐めた
「ばっ」
《ちょっ》
まさか舐めるとは思わなかった。
仮にも毒だぞ?
案の定、全く発声出来ない程全身に麻痺が回った。
うーん、アホだこいつ。
《しかし、これはチャンスですね。ぶちゅーっと行きましょう!》
(うーん、まぁいいか。分かった)
俺は薬草を口に含むと、少し噛んでヴェルノーンに口移しで飲ませた。
治療目的だからね。仕方ないね。
ヴェルノーンの麻痺は俺のチートの力で治って……。
「……あれ?」
《……おや?》
治らなかった。
相変わらずヴェルノーンはアホみたいにビリビリしている。
……どういうことだ?
(おい、チート使っても麻痺は治らないのか?
《それはありえません。唯一考えられるとしたら……》
(したら?)
《ちょっと待ってください。……うーん、やっぱりそうだ》
結論から言うとヴェルノーンには、チートの力が全く発動してなかった。
彼女には何故か知らないが、ハーレムのチートが効かないらしい。
事実、俺自身のチートによるパワーアップは行われなかった。