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13.ロントが覚醒したら


「うわ、雨が降りそうだな」

「避難所は近いのか?」

「すぐそこだ。雨が本降りになる前に入るぞ」


 少し駆け足で避難所に向かう。

 えーっと、たしかこの辺りだったような。あったあった。

 若干分かりづらいんだよなここ。

 まぁいいや、とにかく中に入ろう。


「暗いな……」

《中にランプがあるはずです。魔力込めると明かりになるような奴が》

(へぇ、と言ってもそのランプが暗くて探せないな)

《いや、ちょっとだけ生活魔法で火を発生させればいいじゃないですか》

(あぁ、確かに)


 ボッと指の先から火を付ける。

 えっと、あったあったこれか。

 魔力結石が埋め込まれた装置がある。

 レバーのようなものが付いており、それを引っ張ると避難所の中が明るくなった。


「ここが休憩所ですか。広いですねーユーハさま」

「避難所な」

《休憩所とか、何か卑猥ですね》


 とりあえず合羽を脱ぐ。

 ちゃんと洋服とかかけられる場所があってちょっとびっくりした。

 避難所というだけあって、結構色々な物があった。


「樽に水が入ってるな」

「こっちにはちょっとした食べ物もありますね」

「簡単な治療用の道具も置いてありますね」


 ちょっと充実しすぎじゃないだろうか。

 放棄されたのは結構前のはずなんだが。

 食べ物はつい2、3日前ぐらいに補充されてるように思える。


《ピート、何か知ってますか?》

《定期的にモンスター狩りをしに来る人たちが、ちょっとずつ後続の為に置いて行ってるんだよ》

《へぇ》


 俺達も何か置いて行った方がいいだろうか。

 とりあえず水を一旦全部捨てて、俺の生活魔法で新しく入れるか。

 食糧は余裕が無いから難しいが、まぁ包帯とか消毒液ぐらいは少し置いて行ってもいいか。


「ユーハさん、カー君を呼んでおきました」

「あぁ、分かった」

「日没までには到着するそうです」

「早いな」


 彼には申し訳ないが、あんまりこっちでやる事ないんだけどな。

 あぁ、ドラゴンに詫び入れる時は戦力になるか。

 いざとなれば、囮のエサになって貰おう。


「カー君って誰なんです?」

「あぁ、ンーニャは知らなかったか。トロープの使役するモンスターだよ」

「カラスなんですよ。今頑張って飛んできてます」

「へー! 会いたいです!」


 ンーニャが食いついた。

 実は、今でもモンスター使いになりたがってたりして。




 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~




「あっ、来ました」

「何が?」

「カー君ですよー」

「あ、さっき言ってた子ですか?」


 トロープが立ち上がり、避難所の扉を開けた。

 俺も腰を上げ、周囲の警戒をする。

 ンーニャも興味深そうについてきた。


 空は雲が覆い、物凄い雨が降っている。

 ここは地形上風はそんなに強くないが、木が揺れているのを見るとかなりの暴風なのだろう。

 雲の近くの風速は想像もつかない。


「この中を飛べるのか?」

「あの辺りから出て来ますよ」


 トロープの指さした方向を見てると、まるで黒い槍のような何かが降ってきた。

 それは勢いを一切殺す事もなく地上付近まで落下すると、そのままの勢いで森の上を滑るようにこちらに迫ってきた。

 何あれかっこいい。

 カー君は空中で急ブレーキをかけると、俺たちの前にスタッと降り立った。


「カー君!」

「かー! がぁー!」

「とりあえず中に入ろう。濡れるし」


 カー君を部屋の中に入れ、体を拭いてから照明器具の近くに立たせる。

 この照明器具、地味に暖かいから服乾かすのに便利なんだよな。

 そのすぐ近くで、ンーニャが目を輝かせて見ている。


「かーかー」

「そうです、例の子ですよ」

「言葉が分かるんですか?」

「えぇ、まぁ」

「すごい!」

「そうだ、餌あげてみますか?」

「かー」

「え、いいんですか?」

「この木の実を持って、そっと前に出してあげてください」


 ンーニャが手を前に出すと、カー君はそのエサをカツカツと食べた。

 それから、カー君はンーニャの肩に乗ってみたりと大サービスをしてた。

 あいつノリノリだな。ふれあい広場にいるフクロウかよ。

 ンーニャがカー君に夢中になっている隙に、そっとトロープがこちらに近づいて来た。


「どうやら、カー君がここに来る途中で良くないものを見たらしいです」

「良くないもの?」

「盗賊団です。今こっちに向かって来てるようです」

「おう、流石の偵察能力」

《ちょっと調べますね。ピート》

《分かってる、こっちでも調べてみる》


 その盗賊団というのはすぐにポートに発見された。

 中型の客車が3つ、並んでこちらに向かっている。

 このペースだと、夜中にはエルフの里に到着しそうだ。

 情報が揃ってから、一度皆で相談する。


「どうするの? 隠れる?」

「敵は十二人か。そんなに手ごわい相手では無さそうなんだけど」

「エルフの里に援助してくれるとかそういうのは?」

「無いな、つい一週間前に行商襲って男を皆殺しにした奴らだからな」

「えっと、女の人は?」

「聞かない方がいいぞ」

「うん、あたしも聞いて損したから」


 一通り犯してから、かなり残虐な方法で殺し、客車を引くモンスターのエサにしていた。

 結構非人道的な連中だ。

 調べてみると、懸賞金もかかっている連中だった。


「誰か見つかったらどうなるか分かったもんじゃない。今のメンバーなら余裕で行ける」

「え、人と戦うんですか?」

「まぁ大丈夫。直接戦うのは一人だけだし」


 相談している俺らの後ろで、真顔で素振りをしている奴がいた。

 無表情を作ろうとしているようだが、若干口元が緩んでいる。

 今回はロントに覚醒を使い、どうなるか見てみるとする。

 いざとなれば、カー君が潰して全滅させるという寸法だ。




 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~




 真夜中の森の中を、微かな光を放ちながら3台の客車が走っている。

 俺とロントは、それを見ながら森の茂みの中に姿を隠している。

 ヤバい、超緊張する。


 やがて、先頭の客車が停止する。

 道に木が横たわるようにして倒れていたからだ。

 もちろん、この木は俺らが倒しておいたものだ。

 流石森の中にある里。木を倒すための斧はすぐに見つかった。


「おいおいどうしたんだよ」

「どうやら木が倒れてて進めねーんだよ」

「チッ、おい何人か手ぇ貸せ!」


 数人の屈強な男が5人程降りて来た。

 仮にもモンスターだらけの道を悠々と移動するだけはあるな。

 どいつも強そうではある。


 5人は腕を組んだりしながら木を囲んでいる。

 どうやって移動させるか相談を始めた。

 今がチャンスだ。


「いくぞロント」

「あぁ、任せろ」


 ロントに覚醒を使う。

 彼女の体は光に包まれ……なかった。

 説明は事前にポートから聞いていたからな。




 ロントは普段、前衛でバリバリ剣を振るっている。

 しかし敵の攻撃を受け、反撃を入れる。という戦い方はしていない。

 基本的に、俺の精霊魔法で気配を消している。

 そして俺とスランが目立つように戦い、ロントがこっそり近づいてトドメを刺す。

 こういう、いわゆる闇討ちのような戦い方をしている。

 そして彼女はそれに応じた覚醒の能力を得た。


 5人の男のすぐ近くで、一瞬だけ光の筋が現れる。

 直後、男たちの首は体から離れた。

 ボトリと落ちるその首の音は雨の音で掻き消される。

 驚くべき事に、5人は首を落とされた後でさえ、立って腕を組んだままだった。

 恐らく死んだ事すら気づいていないのだろう。


 あまりの仕事の速さに流石に俺すら何が起きたか分からなかった。

 そして5人が絶命しているのだと俺が気づいた時には、客車の中の人間も全員絶命した後だった。





 ロントの能力は暗殺に特化したものだった。

 俺の気配を消す精霊魔法。

 アレの上位互換とも言える状態になる。

 姿も見えず、気配もなく、音も立てない。

 足音も聞こえない透明人間と言っても過言ではないかもしれない。

 しかも普段とは比べものにならない程の身体能力と五感を得ている。


 とはいえ、覚醒ではある。持っている剣だけは抜いている時にのみ限り光る。

 それがあの光の筋という事だ。

 ゆっくり剣を動かせば、ビーム〇ーベルとかビームセ〇バーみたいになっている。

 まぁ剣が早すぎるから目視も俺には無理だが。


《凄まじい強さですね》

(もうあいつ1人でいいんじゃないかな)

《タイマンとかだとそうかもしれませんね。まぁ万にも及ぶ狼の大軍には勝てませんが》

(まぁそりゃそうだな)


 ちなみに精霊魔法で気配を消すのは、魔法を消すエリアでは発動しない。

 例えば公衆浴場とか、銀行や両替所とか、お城とか。

 しかし今回の覚醒は魔法ではないのでそういう所でも大丈夫だそうだ。

 まぁ30分ぐらいで効果が切れるから、あんまり悪さは出来ないが。

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