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1.渾身の似顔絵 ※挿絵あり

 うーん、客車の中が妙な空気になっている。

 一応互いに自己紹介は済ませたが、ロントから流れる困惑が凄い伝わってくる。

 分かる。俺も今この状況に困惑している。


 客車は今俺が操作している。

 夜間とはいえ道路自体に大きな障害物はないし、ブラウン君への指示の出し方は非常に簡単だった。

 ライトベルは早々に眠りに入った。

 まぁ、彼女はいい。何だかんだで出発の為に結構動き回っていたし。

 急に旅が決まって、昨日から眠れていないのだと言っていた。

 俺が眠っている間はライトベル、ライトベルが眠っている間は俺が操作することになると思うので、今のうちに休んで貰う事は悪くない。


 ロントは地図を広げてこれから行く場所を考えていた。

 とりあえずホーガンに向かうという事は決まっていたが、具体的に何をするかは決まってない。

 何とも無計画な魔王討伐もあったもんだ。


 問題はリアだ。

 俺の腕に組みついてくる。

 まるで自分がユーハの女だ! と主張するように。

 動物のマーキングを思い出した。


 うーん、正直空気が悪い。

 しかし、どうすればいいんだろう。

 何か俺が不倫しまくったみたいな空気が漂ってる気がする。

 いや、誰とも付き合ってはないんだが。


(なぁ、今思ったんだけどさ)

《はい、何でしょう》

(男って俺1人じゃん?)

《ええ》

(女ってどんどん増えるじゃん?)

《そうですね》

(普通そういう時って、男の人権どんどん無くなってくよね?)

《まぁ、そうなりますね》


 ……だよなぁ。

 ハーレムじゃなくなるけど、男増やそうかなぁ。

 どうせ今前衛足りないんだしさ。


《ダメですっ! 絶対にダメです!》

(何でだよ!)

《女の子は最初処女! 全員が主人公にベタ惚れ! そうじゃないとハーレムものに存在意義なんてありません!》

(……何て暴論だ)


 ハーレムってもっと和気藹々としてるもんだと思ってた。

 前世の世界の、一夫多妻の国の人はどうだったんだろう。

 一夫多妻って羨ましいなぁと思ってたが、今になってその大変さが分かる。


(あ、そういえばさ。この世界って一夫多妻だったりしないのか?)

《全世界共通で一夫一妻ですよ!》

(……王様でもか?)

《はい。不倫なんてする王様は即スキャンダルで革命起きちゃいますよ》

(何でそんな世界でハーレムのチートなんかよこしたんだよ!)

《え? 修羅場が見たいからですよ》


 ぶっちゃけたな!

 ぶっちゃけやがったなこいつ!


《まぁでもそこはユーハさん次第ですよ。何だったら国を作っちゃえばいいんです》

(まぁ、冷静に考えてライトベル辺りは愛人でいいとか言いそうだしな。ハーレム作るって知ってるのについてきた訳だし)

《魔王を倒せばハーレムを作ると言っても文句は出ないんじゃないですか? 好色の英雄とか言われそうな気はしますが》

(ハーレムを作って魔王を倒し、英雄となってハーレムを正当化させるか。確かに合理的ではあるが、何か複雑な気分だな)




 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~




「……んぁ」

「ユーハ、起きたか」

「へ? ……あぁ、そうか旅に出たんだっけ。おはよう」


 客車の揺れで目が覚めた。

 流石にガタガタと揺れてしまう。

 快適な睡眠とはいかないか。

 現地の宿に到着するまでの我慢だ。


 ホーガンの町につくまで、客車でも丸2日はかかるらしい。

 その間ブラウン君はノータイムで走り続ける。

 まぁモンスターだから数日休まなくても大丈夫だそうだが。


 それでも俺達には休憩が必要になる。

 客車の中でトイレや食事は不可能だ。


「……ユハ、起きた?」

「あぁ、リアはもうちょっと寝かせてやろう」

「……もう少ししたら川がある。そこで一休み」

「分かった」


 川では水浴びができる。

 まだあまりないが洗濯もできる。

 だが、いつも出来る事ではない。


 今後は満足に水浴びも出来ない日も増えるだろうし、色々問題も出てきそうだ。

 女の子はデリケートだからな。なるべくそこらへんも考慮しなくてはな。


(なぁ、その川って飲めるのか?)

《ちょっと厳しいですね、もうちょっと上流に行ったら沸かせば大丈夫って感じです》

(そうか、分かった)


 本当にこういう時ポートがいて良かった。

 食中毒という概念が無いからな。


 リアが寝ている間に食中毒についても説明しておく。

 ライトベルはそこんところ心得てるので大丈夫だと思うが。

 リアは母親を食中毒で亡くしてるし、本人も死にかけていた。

 彼女を食中毒にさせないようにしないといけない。


「……ん」

《あ、モンスターの気配です。要するにデカいイノシシですね》

「……そういうこと」

「ロント! 準備だ!」

「どうした? 何があった?」

「飯だよ飯、肉が向こうからやってくるらしい」




 遠くででかいイノシシがこちらに威嚇している。

 とりあえずロントに精霊魔法をガンガンかける。

 今回はライトベルの呪術もあるので、楽勝だろう。

 よし行くか! と思ったら、ライトベルが俺の袖をくいっと引っ張った。


「……ユハ、せっかくだから小技を教える」

「小技?」

「まぁ、見てて」


 イノシシがこちらに向かって走ってくる。

 ロントがそれに向かってゆく。

 気配を薄くする魔法は使ってある。


 ロントがイノシシと交戦する! と言う瞬間に、イノシシがいきなりピタッと止まった。

 まるで何かに足を無理矢理止められたように。

 その大きな隙に、ロントが見事に一撃で急所を捉えた。


「今のが小技か?」

「……そう、相手を困惑させるのが主な効果」


 交戦の直前に、相手に対して一瞬だけ・・・・弱体化魔法をかける。

 すると、相手はまるでいきなり二倍の重力に一瞬だけ潰されるような感覚に陥るという。

 相手は何が起こったか脳が理解出来ず、足を止めたり転んだりする。

 これが小技らしい。

 単純に相手の足を遅くするより魔力の消費がグンと減り、かつ前衛に大きな助けになる。

 そしてそれを教えるということは……。


「俺の精霊魔法でも同じ事が出来るってことか」

「……そう。今はまだあまり強い効果が出せないけど、将来は大きな技になる」


 俺の精霊魔法も同様に相手の早さを調整できる。

 相手が遠くにいるところで少しずつ精霊魔法をかける。

 相手が交戦する直前にそれを全てキャンセルする。

 体の変化に対応できず、相手は困惑する。

 なるほど、俺にも出来る技だ。


 どうやらベテランの呪術師になると意識して使っていくテクニックなのだとか。

 熟練の冒険者の中には相手に呪術師や精霊魔法使いがいる場合、それを意識して警戒する者もいるのだとか。


 なるほど、良い事を教えて貰った。

 とりあえずロントと合流して、町で売るように毛皮を剥いでおく。

 おいしそうな部分だけ肉を剥ぎ取り、後はブラウン君に食べて貰う。

 朝から肉かぁ。まぁ旅ならではだろう。

 いつか肉が食べたくても食べられない時もあるかもしれないしな。


 客車に戻っても、リアはまだ寝ていた。

 あれだけの騒ぎがありながら、まだ寝られるのはなかなか肝が据わってるな。

 あと、ライトベルは戦いの時も客車からは降りる気配はないんだな。

 流石引きこもりの鏡だ。

 何か釈然としない。まぁ呪術はちゃんとかけてくれるんだけどね。




 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~




 リアが起きた頃には、川に到着し橋を渡り終えたところだった。

 休憩はもうちょっと上流に向かうが、良いところで起きてくれた。


「おはよう、リア。もうじき休憩になるから、料理頼む」

「へ? あ、はい!」


 ロントはまだしも、俺とライトベルには生活能力はさほどない。

 俺は前々世で自炊してたが、この世界の食べ物はあまり分からないしな。

 日々勉強だ。


 ということで、リアが料理担当になる。

 炊事洗濯担当になる。まぁ戦いできないからこういうところで役に立ってくれないと。

 俺が徹底して教えたから、肉に火を通す事だけは守ってくれている。

 ロントはずっと警戒してたので今休んでいる。

 ライトベルはどこかへトテトテと行った。

 ……トイレか。そっとしておこう。

 何かあったらポートが教えてくれるだろうし。


 ということで俺はブラウン君を一度客車から離し、水を飲ませた。

 流石にモンスターはそうそう食中毒にはならないらしい。

 とりあえずホーガンまでの辛抱だ。頑張ってくれよ。





 リアの料理が出来上がった。

 イノシシの肉は癖が強いので、ジンギスカンに似た料理がが出来上がった。

 先に俺とライトベルが食事をする。

 ロントはもうちょっと寝かせてあげよう。

 リアは今干し肉を作っている。

 何と言うワイルドな女子力。




 ライトベルとイノシシの肉を突きながら、今後の資金繰りについて相談する。

 とりあえずホーガンには呪術協会の大きな支部があるそうだ。

 そこにたかりに行くという案が出た。

 まぁ、仕事があったら斡旋してもらう程度のものでも。


「……そういえばユハは、私と違う知識を持ってる」

「あぁ、確かにそうだな」

「……それを使って稼げない?」

《知識チートってやつですね。実は一度考えたんですよね》

「そうなんだよなー。でも問題があってな」

「……問題?」

「ちょっとまってな」


 俺は紙にスラスラと絵を描いていく。

 チラッチラッと今仕事をしている彼女を見ながら。

 そして出来上がった似顔絵。


「……本気?」

「本気。俺、絵が致命的にヘタなんだよ」

《設計図とか書くセンスもないですからね。手先が器用でもないですし》

「……なるほど」


 俺の絵を見たライトベルは、色々諦めたようだ。

 まぁ、口頭でも結構いろいろ出来るかもしれないけどな。

 人には、向き不向きがあるんだ。

 自分が書いたリアの似顔絵を見ながら、俺はそう思った。



挿絵(By みてみん)

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