11.はじめての修羅場
とにかく情報が足りない。
ということで、冒険者ギルドで何か情報はないかと行ってみた。
ポートとライトベル以外にも感知したものがいるようで、ギルド内はかなり慌ただしくなっていた。
ただ俺達同様まだ余り情報は集まっていないようで、情報を可能な限り集めているらしい。
普段マッタリしてるギルドだと思ってたが、案外やる時はやるんだなぁ。
暇そうにしてる冒険者がいたので、質問してみる。
俺が何かあったか知ってる事は一応伏せておこう。
「あのーギルドの人が忙しそうですが、何かあったんですか?」
「ん? あぁ、『大侵攻』が起きたそうだ」
「ダイシンコウですか?」
「簡単に言うとモンスターの侵略さ。コレが起きると、ほとんどのクエストは中止。代わりに大侵攻対策のクエストが配置される」
「へぇ」
大侵攻という名前。素早いギルドの対応。
男曰く、大侵攻はたまに発生するらしい。この町をターゲットにした大侵攻は、3年前だという。
大侵攻が発生すると、まず専用の機関がそれを察知する。
モンスターの数、強さ、種類から侵攻の早さを割り出し、決戦の舞台を計算する。
次にギルドは急いで交戦地点となる場所を確保し、バリケードや物資置き場等を作る必要がある。
特に矢が一番重要なのだという。
弓兵も当然冒険者。
矢の数をケチられると本当に町の危険に関わる為、矢は使い放題にするらしい。
その為に普段から備蓄を用意しているとか。
ある程度の持ち帰りも許されているようで、それを目的に弓使いが集結してくることもあるとか。
アレも一本はタダじゃないしな。
俺としては投げナイフも支給して欲しいな。
「ちなみに俺は今、その陣地へ物資を運ぶ為の護衛をしているのさ。もう少ししたらここを出る」
「なるほど、頑張ってください」
まだ俺たち末端にまでは情報は行ってないが、何のモンスターなのか見当がついてるんだな。
正直ちょっとギルドを見直した。
《えーっと、いくつか確かに見当がついてるみたいですね》
(ほう)
《候補に挙がってるので一番有力なのが、海土人系のモンスターだそうです》
海土人系モンスター。
魚は当然陸へは上がれない。
海に生息するモンスターもほとんどは陸へ上がれない。
そこで彼らは思った。そうだ、地上へ侵攻できるモンスターを作ろう。
ということで彼らは豊富な栄養を持つ海底の泥を使い、人間型のモンスターを作り上げた。
これが海土人という。
何故人型かというのは単純だ。地上で一番繁栄してるのが人間だからだ。
一部の海の生物が、人間を模していれば強いんじゃね? という思想を持った。
そして作られたのがこの土人形だ。
海の生物は度々その土人形を地上へ送り、人を襲ったりしていた。
今回はソレが大規模で行われるというのがギルドの予想だった。
《海土人はいくらかの種類がいますが、その強さは込められた魔力に寄ります》
(ほう)
《簡単に言うと、魔力をいっぱい込められた奴は硬くて力も強い! 一方弱い奴はポロっと壊されてしまいます》
(なるほどなるほど。今回はここにまで出現が分かる程の魔法の力が感じられた。つまり、強い奴がいっぱい来るんじゃないかと)
《そうですね、ちゃんと準備をして迎え撃たないといけないです》
「……そこで、私の出番」
「うぉっ」
背後からいきなり声がしたので振り返ると、ライトベルがいた。
そうか、こいつの呪術を使えば相手の魔力を減らせる。
つまりは全員を丸ごと弱体化できるのか。
ライトベルはどうやら明日の打ち合わせに来ていたらしい。
ついでなので色々教えて貰った事もあった。
3年前に起こった『大侵攻』は、彼女の師匠が1人で対処したのだという。
ライトベル・アーチボルト。
アーチボルトというのは師匠からもらった苗字であり、師匠はボルトが記す通り雷魔法のエキスパートだった。
特にその時に起こった大侵攻は相手が鳥魔族であり、空を飛ぶ彼らにとって雷魔法は天敵であった。
結果的にモンスターたちは壊滅した。
いわゆる伝説の魔法使い的なものとして語り継がれそうだな。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
翌朝、俺は普段より早く目が覚めた。
魔力結晶は寝ている時がより魔力を蓄えられる。
そう聞いたので早めに寝たのが影響したか。
俺は水浴びへ向かいながら、今までの事を考えた。
ギルドでは思ったより多くの情報が得られた。
この世界では思ったよりモンスターは少ない。が、それは決して平和というわけではなかった。
今回のように大量のモンスターが侵攻してくる事もある。
それも、この町に限った事ではない。つい2カ月前にも他の町では侵攻が行われていたそうだ。
ライトベルは確かに強い魔法使いだ。
そして、俺もまだまだ成長の余地があると思い知らされた。
敵の感知もできないし、大規模戦闘ともなれば俺の精霊魔法なんて誤差のうちだ。
ハーレム要員2人じゃまだまだなのだろう。
《そうですね、もっとブチューっとしまくりましょうよ!》
(えー、リアが機嫌悪くなりそう)
《そこは男の魅力でカバーですよ!》
(そこをチートの力でカバーして欲しかったな……)
相変わらず耳にザワザワと精霊の声が聞こえる中、俺は水浴びをした。
宿に戻り食事をしながら、ふと思う。
……この町を発つ日も近いかもしれないな。
ナイフのチェックをし、魔力結晶もチェックをする。
あれ? そういえばリアと会ってないな。
《あ、来ましたよ》
(来た?)
《ライトベルさんですよ。行きがてらユーハさん拾っていくって言ってましたよ》
(そうか、それは助かるな)
直後に外に客車が止まる音がした。
予定ではもうちょっと後に歩いて向かう予定だったが、まぁいいか。
「おぉ、ライトベル。俺を連れてってくれるってほんとか?」
「……うん、時間ないから早く乗って」
「ありがとう、助かる」
客車か、乗り物自体この世界に来て初めてだ。
どうやらこの客車自体、魔術協会のものだそうだ。
お偉いさんなんだなぁ、ライトベルも。
俺が乗り込もうと足を一歩かけたところで、後ろから声がかかった。
「私も連れていってください!」
「ん?」
振り向くとリアがいた。
連れてく? 戦場にか?
「悪いけど、役に立てないと思うぞ? 危ないし素直に町にいた方が」
「……手伝う事はある」
「ほんとですか?」
ライトベルの言葉にリアが顔色をぱーっと明るくさせる。
しかし、大丈夫か? まぁライトベルが良いって言うならいいんだが。
「……私とユハの手伝いをしてほしい。魔力結晶は自分で使うより、誰かに使ってもらった方がいい」
「ということだ、来い」
リアがコクリと客車に乗り込んだ。
案外広いもので良かった。
冒険者ギルドの前では人だかりが出来ていた。
全員が冒険者だろうか。
100人はいるな。全員が今回の戦いに参加するのだろうか。
《報酬がかなり高いですね、流石戦争は儲かるのでしょうか》
「……大侵攻はそれだけモンスターの素材が手に入る。それをギルドが売りさばいて、冒険者に還元する」
「へぇ」
やっぱり冒険者ギルドって凄い。
YBSだな。
道中で魔力結晶について等の説明を受ける。
魔力結晶は、対象の人物に石を向けて念じる事で発動する。
自分に使う事も出来るが、その間他の魔法が使えない。
だから、今回のような作戦では専用のサポート人物がいるに越した事はないらしい。
本来は魔術協会の人に頼む予定だったが、リアがやってくれるというなら頼みたいとの事。
戦いの舞台になる場所へは30分程で到着した。
本来は2時間ぐらい歩かないといけない場所のようだ。
いやぁ、助かる。
陣は平野を望める高台に作られていた。
なるべく開けていた方が、いろいろと戦いやすいらしい。
相手は基本的に土人形で、戦略などはこちらが有利なのだとか。
まぁ、指導者になる人にも何か考えがあるんだろう。
現地に到着すると、俺はリアと陣地の作成作業の手伝いをする事になった。
早くついた一方で仕事が増えるのは何か嫌だな。
まぁギャラも発生するみたいだからまぁいいか。
やがて、町からの応援が続々と到着した。
どうやら他の町の冒険者も参加するようで、見ない顔もかなりあった。
人数は200人を突破。最終的に300人ぐらいになるだろうか。
これなら勝ち目があるだろう。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
「……ユハ、ちょっと来て」
「おう、分かった」
作戦時間が迫った頃、ライトベルに呼び出された。
高台の中でも特に高い、山頂に近い部分だ。
……お姫様抱っこさせられた。自分で歩けばいいのに。
眼下には終結する冒険者たち。一際高いところだからか、平野も一望できる。
で、何で俺はここに連れてこられたんだろう。
「……ユハ」
「何だよ」
「……キスして」
「は?」
何でこんなタイミングで。
しかも、俺が断るの分かってるだろうに。
「……あそこに見えるの何か分かる?」
「あそこ?」
ライトベルが指さす先を見る。
……何だ? 青い何かが蠢いている。
いや、違う。無数の何かが……。
《……まさか、あれ全部モンスターの塊ですか?》
「そう……数は目算で5000……多分6000かも」
「そんな……」
冒険者は300だぞ?
最悪20倍の戦力差があるのか?
遠目だが、どいつもこいつも序盤で会うような連中じゃないぞ。
まだ敵は遠くにいる。
高台にいる俺たちでなければ、奴らの姿はまだ見えないだろう。
「それってお前の魔法でどうにかなるのか?」
「……無理」
……随分即答だな。
いや、いくら弱体化の魔法を使ったところで厳しいのは分かる。
「……ユハ、2択を選んで」
「2択?」
「……冒険者を皆見捨てるか、キスをするか」
《大きく出ましたね》
「……部外者は黙ってて。私は本気」
ライトベルは俺の前に立ち、首元に手を回す。
身長差があるからか、背伸びをしている。
目の前にライトベルの顔がある。
彼女がさらに顔を近づけば、キスも出来るだろう。
しかし、ライトベルは自分からキスはしない。
あくまで俺に選べと言っているのだろう。
「……お前にキスをすれば、あいつらをどうにかできるのか?」
「……出来る。貴方のハーレムになるというのは、それだけの力を得る事ができる……」
こんなの、選択肢になってねぇじゃねーか。
……しゃあねーな。
俺はライトベルと唇を重ねた。
ライトベルは俺の首に回している力を強くした。
まるで逃さないと言わんばかりに。
ライトベルは微かに震えていた。
彼女も、内心恐れていたのだろう。
顔を話して彼女の顔を見る。
ポーっと俺を見ている。
この甘い顔。たまらないな。
俺はそんな彼女の唇に再び唇を重ね、彼女の口の中に舌をねじ込んだ。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
「で、感想は?」
「……テクニシャンだった」
ライトベルは満足気に微笑んだ。
これでこの戦いが勝てるように、本当になるのだろうか。
《……あっ》
(どうした?)
《ワタクシもキスを見るのに夢中で気づきませんでした。そーっと右の木の影を見てください》
(木の影……あっ)
リアがいた。
どうしよう、ものすごい黒いオーラを出している。
完全に不倫発覚現場だコレ。
ライトベルの顔を見る。
してやったりという顔をしていた。
お前、気づいてただろ!
「……リア、ごめんなさい。これは必要な儀式だったの」
「へ?」
「……私の魔力を高めるには、唾液がどうしても必要で」
「そんなのに騙されませんよ!」
「……なら、貴女の唾液でもいいのよ?」
「そ、それは……」
ライトベルのオーラに押されるリア。
これは面白いものを見た。
いや、面白くは無い。
「……それはともかく、これで準備は整った。これから魔法を発動させる」
「あぁ、頼んだ」
「それはともかくって!」
「……リア、ちょっとこっちに」
リアはライトベルにしぶしぶ近づく。
そしてそっと耳打ちをした。
リアは顔が真っ青になった。そしてじっと黙った。
……何を言ったんだろう。
ライトベルは地面に魔法陣を書き始めた。
リアのさきほどまでの威勢はどこに行ったんだろうか。
《ライトベルさん鬼ですね》
(何を言ったんだ?)
《貴女に痩せる魔法をかけましたって》
(……何でそれで黙るんだ?)
《呪術ですからね。術師がその術を解除すると、反動で激太りするんですよ》
私の言う事を聞いて!
聞かないと魔法を解除するよ! ということか。
……鬼だな。