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13.手紙を受け取ってみよう

「ようやく寝たか……」


 エレフトラが完全に眠ったのを確認する。

 あれから酷いキス攻めに遭った。

 酒をなんとか飲ませて、無理矢理酔い潰してしまった。


 エレフトラをちゃんとベッドで寝かせ、立ち上がる。

 ちょっと不安だったが、クローゼットをチェックしたらマイはいなかった。

 流石にそこまで神出鬼没ではなかったらしい。


 ……まぁ、エレフトラも不安だったんだろうというのは容易に想像が付く。

 大事な妹があんな事になっていたんだ。

 さっきの事は、色々な反動が来たんだろうと思っておく。

 あいつが露骨に酔ってるのも初めて見た。




 廊下の鏡を見ると、頬っぺたに赤い跡が残っている。

 くそ、キスマーク付けやがって。

 回復力を上げる精霊魔法をその部分だけにかける。

 血行が良くなって治りが早くなるのを期待したい。


 廊下を歩いてると、ドアがガチャリと開く音がした。

 ライトベルが自分の部屋から出てくる。

 若干小走りでこっちに駆け寄ってきた。珍しい。


「……ユハ」

「おう、どうした?」

「……アレやって。私も強くなりたい」

「アレってこの前のか?」

「……そう、ピカーっとしてみたい」

「だからアレは疲れるから簡単には出来ないって今朝も言っただろ」

「……むーケチ」


 ライトベルは、エレフトラの覚醒を見て以降自分もやりたいと言ってきている。

 だが俺は割と日常生活で精霊魔法使ったり、飲み水を魔法で出したりしている。

 お試しでもあの能力を使うと、魔力が一気にマイナスへ振り切れて半日動けなくなる。

 まぁ慣れておいたほうが色々と便利なのは分かるんだけどさ。


 そんなやりとりをしていると、ライトベルがいきなりピクッとしながら壁を見た。

 方角的に、この屋敷の門がある方角か。

 お前はアレか。遠くで郵便屋さんが来たのを察知する犬か。


「……手紙が来る。玄関で待機してた方がいい」

「手紙?」

「……じゃあ、私は寝る」


 そう言うとあっさり部屋へ戻るライトベル。

 手紙? この世界では珍しいな。

 というか、本当に郵便屋さんみたいなものだったのか。




 玄関で少し待っていると、扉がコンコンと叩かれた。

 ガチャリと開けると、酒場のマスターが立っていた。

 予想外の人物だ。


 話が少し長引いてしまったので要約すると、酒場のマスター宛ての手紙の中に俺ら宛ての手紙が入っていたそうだ。

 手紙を見ると、確かにマイの名前が書いてあった。

 マイ宛ての手紙?

 一体誰からだろう。

 マスターが帰ったのを確認する。

 ちょっと渡すの躊躇するな。変質者だったら困るし。

 まぁあいつ自身が変質者なのは否めないが。


《これは、お姉さんですね》

(おぉうビックリした。お姉さん?)

《はい。マイさんのお姉さんのエルリッドさんです》

(えっと、俺がインスタントキスした事は?)

《ある方ですね》


 トレイサーと王都の戦争の際にいた5人の内の1人か。

 ちなみに妹にカルロッドちゃんもいるらしい。

 3人とも俺のインスタントキスを受けている。


《それにしても、ちょっと出した場所が気になりますね》

(出した場所?)

《手紙を出した場所ですよ。ホラ、そこにスタンプが押してあるじゃないですか。それはペガサスのスタンプです》


 消印みたいなものか。

 確かに馬っぽいマークにペガサスの文字が見て取れる。

 ペガサスかー。ちょっと嫌な予感がするな。


(まぁ渡さない訳にはいかないだろうなぁ)

《一応調べておきますか?》

(頼む)


 ペガサスは大侵攻を受けたばかりだ。

 そんな地域から時期に手紙が届くというのは、嫌な想像をしてしまう。

 まぁ、取り越し苦労だといいが。




 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~




 コンコンとドアを叩く。

 マイの部屋だ。そういえば彼女の部屋の中を見るのは初めてだったかもしれない。


「はーい。……あれ? ユーハさま?」

「夜分遅くに悪いな。手紙がお前宛てに」

「あ、それはどうも。えーっと、お姉ちゃん?」

「消印を見るとペガサスにいるみたいだし、ちょっと覚悟決めて開いた方がいいかもしれないとだけ言っておく」

「えっと……はい分かりました」


 そっとドアを閉める。

 あとは彼女がどう受け止めるかだけだ。


(で、どうだった?)

《相当ひどい怪我をしたようです》

(手紙は出せるぐらいなんだろ?)

《どうやら、左足をやられたようです。多分立つ事はもう……》

(そうか……)


 仲間の親族であり、インスタントキスをした相手という事でなんとかしたい気持ちがある。

 幸い俺達には2つの切り札がある。

 キスでの回復と、エレフトラを覚醒させる事だ。


《あーユーハさん》

(何だ?)

《それ、どっちも出来ません》

(へ? 出来ないって?)

《脛から下が潰された状態だったので、そのままでは腐ると切り落とされてるんですよ。そこまで来てしまうと、ちょっと回復は……》

(うーん……そうか)


 そういえば、エルフの里では蘇生が出来なかった。

 何となく法則が分かって来た気がする。


 基本的に、切り傷等は大丈夫だ。

 何だったら首を切断されて死亡しても問題ない。

 打撃も多少なら大丈夫。

 これらは俺のキスでなんとかなる。

 これらは、ロントとナナの例が証明している。


 だが骨が粉々になったり、原型を留めない程ぐちゃぐちゃに潰されてしまった場合は蘇生が出来ないのだろう。

 原理が分からないが、恐らくそうなのだろう。


《壺の修復と同じと考えてください》

(壺?)

《多少割れたぐらいなら接着剤で治せます。汚れたら磨けば綺麗になります》

(あぁ)

《ですが修復不能まで粉々になったり、欠けた部品が紛失してしまっては修復は出来ないんです。それはチートも、回復魔法も同じです》

(うーん確かに分かりやすいが、それならチートって感じしないよなぁ)

《あくまで回復魔法の延長ですからね。キスをすると1度限りで、凄い回復魔法が使えるという認識が正しいでしょうか》


 うーんしかし足の切断かぁ。

 どうしようも無いらしいけど、どうにかしたい所でもある。




 この世界は、やっぱり簡単に人が死ぬ。

 フマウンでの戦いでは2桁の死者、3桁の怪我人が出た。

 恐らくアリに足や腕を千切られたり、潰されたりした者もいるだろう。


 だが大侵攻とか以前に、モンスターがいる世界だから危険は付き物だ。

 事実リアの父親もそれで命を落としている。

 俺達はなんだかんだで実力の高い者ばかりなのでさほど危険は感じないが。

 今日ですらマーシュとフマウンの間の道で、2人組の冒険者がモンスターによって命を落としたらしいし。

 その内1人は俺の酒場での演説の際にいた男だそうだ。

 いたたまれない気持ちになる。

 まぁ危険だからこそモンスター退治の依頼が来るし、冒険者も食っていける訳だが。


 ということは、それだけ怪我人が多いということだ。

 怪我人が多いということは、怪我人が便利な物もあるという訳で。

 具体的には義手や義足、松葉杖や車いすなんかがきっと……。


《それが、その分野はあまり発展してないんですよ。流石に松葉杖ぐらいはあるんですけどね》

(うーんそうか)


 だとしたら、その分野でなんとかお手伝いは出来ないものか。

 俺は絵が苦手だが、幸いここには3人の転生者がいる。

 3人揃えばもんじゃ焼きの知恵だ。

 きっとなんとかなるだろう。


《そういえば、ペガサスについて調査しましたか?》

(へ? いや、してないけど)

《あそこも大侵攻があった場所ですからね、行ってみるのもいいんじゃないでしょうか?》

(あーなるほど)


 その発想は無かった。

 だとしたら、ペガサスへ行くのはやぶさかではないだろう。

 とりあえず、明日の朝皆に意見を聞いてみるか。

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