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10.はじめてのおしおき

「ただいまーリア」

「あ、おかえりなさい」


 帰るとリアが洗濯物を干している最中だった。

 裏庭のような場所に干すんだな。

 へぇ、女性ものの下着はこうやって干すのか。

 大きめのタオルで、大通りから隠れるように干している。

 あんまりジロジロ見るのはマナー違反だな。

 しっかし、俺のパンツを全ての洗濯物の中心に干してあるのは何の罰ゲームなんだ。

 ……まぁいいか。


「ちょっと俺はナイフの手入れとかしてるわ」

「はい、わかりました」


 最近投げナイフが2本程折れてしまった。

 刃こぼれも目立つし、思い切ってワンランク上の投げナイフを10本買った。

 ついでにナイフを収納できる大きめのポーチのようなものも購入。

 砥石も買って旅の途中に刃こぼれが起きても大丈夫だ。

 武器屋のおっちゃん……じゃなくておばちゃんが一応帰ったらまず研いだ方がいいと言ってた。

 Yシャツを買ったらまず洗えみたいなもんだろうか。


 ということで今はナイフを研ぐ作業をしている。

 最初は今まで使っていた3本で練習。

 コツを掴んでから10本研ぐ作業に。

 えっせ、ほいせ。

 よいせ、よいせ。

 ……単純作業だから暇だなぁ。


(という事で何か面白い話はないか?)

《んー、そうですね。この前おしおきがどうって話があったじゃないですか》

(あーあったなぁ)

《アンケートの結果が出たのでご報告しますよ!》

(アンケート? どこで誰に聞いたんだよ)

《まぁまぁ、そこはおいておいてください》

(お、おう……)


 1本目のナイフが研げた。

 いい感じだな。この1本は刃こぼれ少ないからまだ使える。

 捨てるの勿体ないし、リンゴとか切る用のナイフに流用するか。


《えーっと、くすぐる。あーんする。変なポーズをとらせる》

(なるほど……変なポーズ?)

《ぶっちゃけ表現難しいのでまんまじゃなくていいですよ》

(表現?)

《いえ、こちらの話です。他に下着禁止、おしりぺんぺんとかありますね》

(なるほど、確かにおしおきっぽいな。妙に性的なのが多い気がするが)

《まぁ、リアちゃんもちょっとエッチなとこありますしね》


 2本目を研ぎ始めているが、これは大きな刃こぼれがある一本だ。

 刃が欠けていると言っても良いかもしれない。

 研ぐには研げるが、やはり刃こぼれが大きすぎてダメだな。

 まぁどうせダメなら、研ぐ練習用としてことごとく使い倒してやろう。


 それから俺はナイフをひたすら研ぎ続けた。

 こういう時、ポートが話し相手になってくれるのが助かる。





 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~




 3本の古いナイフと10本の新しいナイフを研ぎ終えた頃、ドアがコンコンとノックされた。

 リアが仕事を終えて来た。

 危ないのでナイフを片づける。

 せっかくなのでナイフ入れにしまっていこうか。


「あの、今晩のご飯はどうしますか?」

「うーん、じゃあお願いしようかな」

「じゃあ、パスタにしましょうか」

「お、いいな。頼んだ」


 流石に昨日忠告したばかりで今日あの肉を仕込んで来ることはないだろう。

 昨日の今日だしな。






(と思ったんだけどなぁ……)

《真ん中にある肉がまさしくテイミングトカゲの背中の肉ですね》

(どうしてやろうかコレ)


 うーん、そうだ。あーんしよう。

 あのおしおきのアンケートとやらを使わせて貰うか。


「リア、あーん」

「へ?」

「あーん」


 肉をフォークに刺してリアに突きだす。

 リアは急にあーんされてビックリしてたが、躊躇なく口を近づけてきた。

 困惑する顔を見たかったのだが、こちらがびっくりして手を引っ込めてしまった。


「おいおい、コレあのトカゲの背中の肉だろ? よく躊躇なく食べようとしたな」

「だって……」


 リアは少し顔を赤らめながら、しかしハッキリと言い放った。


「だってユーハさんの言いなりになれば、ユーハさん責任とってくれるかなって」

「……」


(アカン、この子ガチだ)

《あーんはご褒美でしたね》

(まさか会って一週間もしてないのに責任なんて言葉を聞くとは思わなかった)

《ヤンデレの魔の手からは逃れられない!》


 肉はとりあえず保留にして、食後にくすぐりの刑に処す事にした。

 しかしこの肉このままにするのは勿体ないな。

 一応調理された肉だし。





 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~




「はぁ……はぁ……」

「フッこれぐらいにしておいてやろう」


 いやぁ楽しかった。リアへのくすぐり地獄。

 ちなみに俺は足の裏をくすぐられると嫌な人なので、主にわき腹を重点にこちょこちょとした。

 正直、ちょっと何かに目覚めかけた。

 少しおっぱいに触れても何も言われないしね。


《その最中を見たいって? そんな人は ここ をクリック!》

(へ?)

《いいえ、こちらの話です》


 しかし俺のベッドの上で服の乱れた美少女が1人ハァハァ言っている。

 これ、手を出していいんじゃないの? 本人同意するだろうしさ。


《あ、残念ながらそうはならなかったみたいですよ》

(どうした?)

《お客様が来ました》

(客?)

《間もなく、外に到着しますよ》


 窓から外を見ると、遠くに客車が見えた。

 ……ライトベルか。

 くそう、いいところだったのに。

 いや、何やましいことしようとしてた前提で考えてるんだ俺。

 仕方ないので出迎える為にアレを持って行く。





「何だ、また暇つぶしか」

「……うん」

「ちょうどいいところにきた。はい、あーん」

「……へ?」

「あーん」

「……あーん」


 ライトベルの口に例の肉を放り込む。

 モムモムと食べるライトベル。


「美味しいか?」

「……うん、美味しい」


 ちぃ、ダメだったか。変化は無さそうだ。

 こいつは何か耐性みたいなのが元からあるのかもしれない。

 まぁ、言いなりになったところで面倒臭そうな気がするけどな。


「……上まで持ってって」

「荷物扱いでいいんだな」

「……何でもいいから」


 仕方ないのでお姫様抱っこして上まで持って行く。

 相変わらず軽い奴だ。リアも軽いけどな。


《まーた来たんですか》

「……聞こえてる」

《分かってますよ。それぐらい自分で歩かせりゃいいんですよ》

「疲れるし……」

《全く、三点リーダばっかり使って。キャラ付けか何だか知りませんが!》

「さんてん……?」

《こちらの話ですよっと》


 相性としてはこの2人は良くなさそうだな。

 まぁでも、ポートの話し相手が増えると思えばそれはそれでいいか。

 部屋に入る瞬間にリアから僅かに嫉妬の炎が燃え上がるのが見えたが、スルーしておく。

 というかさっきまでぐったりしてたのに、何事もなかったかのようにしゃんと座っている。

 伊達に接客業はしてないということか。


「……こんにちは」

「ライトベルさんでしたっけ? こんにちは」


 こちらも僅かに火花が散っている気がする。

 女としてやはり気になる存在か。

 というか、このアウェー感が漂ってるのに遊びにくるライトベルは凄いな。


 ライトベルは相変わらず『マオウ』について聞いてくる。

 リアも聞いているが、別に隠し立てすることでもないしなぁ。


 俺は前世での典型的な魔王像というものを話した。

 途中ライトベルの質問が挟まったが、概ね納得したようだ。

 この世界は基本的にあの転生神が大きく関わっている。

 奴は日本のゲームに強く影響されてるところがある。

 いや、奴の影響で日本のゲームが西洋の世界観を元にしたようなものになったのだろうか。

 まぁ今はそんなことどうでもいい。


 大事なのはとにかくこの世界がゲームの影響を受け、恐らく魔王とやらが出てくる。

 ということは、俺の知っている魔王像とこの世界に関わるであろうライトベル言う魔王とやらは大体一致してるだろう。


「……なるほど、ありがとう」

「どういたしまして、参考になりゃいいんだけどな」

「十分すぎる……」


 それに加えて、ライトベルはこう付け加えた。

 あまり他言しないでほしいと。

 自分にこの事を話したのも、魔王の事自体も。

 まぁその予定はないしな。


「で、俺はお前の事が聞きたい」

「……私の?」

「あぁ、お前は誰なんだ? お前もお前で只者じゃないだろう」




 ライトベルはポツリポツリと話始めた。

 基本的に口下手な部類なので、俺が適当に補足しつつまとめたらこんな感じになった。


 ライトベルは孤児だった。

 物心がつくころには、師匠に当たる人に拾われていたそうだ。

 師匠は攻撃魔法をバンバン使うタイプの魔法使いだったが、ライトベルは呪術の方が合ってると判断したのも師匠だそうだ。

 やがて独学も交えて師匠や先輩の呪術師に教わりつつ、やがては魔術協会の特別なんちゃらになった。


「特別なんちゃらって何だよ」

「……そういうの覚えるの苦手」

「あぁ、そう……」


 彼女の話はここで終わった。

 なるほど、全く分からん。

 今の所参考になりそうなのは、魔術協会に属してる事ぐらいか。


《……あっ》

(どうした?)

《ありました。ライトベル・アーチボルト。呪術系魔法特別顧問術師。魔術協会に名前があります》

「あぁ、そうソレ……」

(……顧問って教える側かよ!)


 ただものではないと思ってたが、要は魔法使いの先生なのか。


「……正確には名前だけ。今は実験を主にやってる」

「実験? あぁ、地下のか」

「……広域に呪術をいかに広げるかの研究」


 基本的に魔法を使うのには魔法陣や詠唱は必要ない。

 しかし、それは局地的な戦闘でだ。

 広域の魔法を使おうとすると、詠唱や魔法陣が絡んで来るらしい。


「……私は集団戦でいかに多人数に呪術を影響させるかの研究をしてる」

「なるほどなぁ」


 俺の精霊魔法は、味方にかけるものだ。

 だからこそ、どの味方に効率良く魔法をかければいいかは簡単に分かる。


 しかし、ライトベル達呪術師は別だ。

 敵は思うように動いてはくれない。

 呪術の範囲外から、長射程の攻撃をしてくるかもしれない。

 だからこそ、呪術の有効範囲を広げておくのはそれだけ価値がある。

 まぁ、当然精霊魔法も範囲が広いに越した事はないが。


 そして、その範囲の拡張にはそれなりに下準備が必要だろう。

 その下準備に使う魔法陣の専門家。

 言わば呪術魔法の権威と言ったところか。

 普通にすげぇやつじゃねえか。

 若いのに感心な事だ。


「……だから、貴方の力が欲しい」

「って言われてもなぁ……」


 いかに凄い魔法使いかは、実際に見てないが大体わかった。

 だが、やっぱりそれとハーレムに入れるかは別問題だ。




 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~





「……あっ」

《むっ》

「どうした?」

「ちょっと待って……」


 ポートとライトベルが同時に反応した。

 何かあったんだろうか。


《ここから数十キロ離れた沖合で、強大な魔力を感知しました》

「……そう」

《おそらく、これはかなり多くのモンスターの反応ですね》

「……そうそう」

《詳細がまだわかりませんが、明日の午後までにこの町に押し寄せてくる可能性があります》

「……その通り」

「お前相槌してるだけじゃねーか!」


 何だ、急だな。

 いや、急に何か起きたのをこの2人が探知した。それが早かっただけか。

 にしてもかなり多くのモンスターの反応とはまたアバウトな。


「で、それは『マオウ』とやらに何か関係があるのか?」

「……分からない。とにかく一度私は帰る」

「そうか」


 そう話している間に、外にはいつの間にか客車が待機していた。

 これも普通の客車じゃなくて、魔術協会の客車だそうだ。

 どんだけ偉いんだこいつ。





 ライトベルがある物を帰り際に渡してきた。

 これは……。


「魔力結石か?」

「そう……多分ユハも使うと思うし……」

「分かった、ありがとう」


 凄い高いのに、くれるのか。

 と思ったら貸してくれるだけらしい。まぁ今夜いっぱい魔力を貯めておこう。


「……明日、ユハも力を貸して」

「あぁ、分かった」

「……ありがとう」


 何だ、良い奴じゃないか。

 ライトベルが客車に乗るのを見送る。


「……あ、1つ言い忘れた」

「何だ?」


 ライトベルは、こう言い残して去って行った。


「……そのウサギのブローチ、ダサい」


 ……やっぱりか。


「なぁ、リア。これダサいか?」

「えっと、その……」


 あぁ、ダサいと内心思ってたんだな……。


《ワタクシはユーハさん如きにはお似合いだと思ってますよ!》

(どういう事だよ!)


 とにかく、明日の為に何か準備をしておいた方がよさそうだ。

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