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牛頭のミノス  作者: RK
第一章
3/3

村の男達

「ミノスさんのお召し物は流石に酷いですね」

 食事も終えて一息吐いたところでミリィが言った。

「お母さんもやっぱりそう思う!?」

 ニーナも「やっぱり」というくらいだから口には出さずとも酷いと思っていたのだろう。

 俺も正直酷いと思っていたのでなんとも思わないが。

「よろしければ洋服を作りましょうか?」

「よろしいのですか…?」

 ミリィの願ってもない問いかけに謙虚な態度も作れずに本音で訊ねてしまう。

「ええ、いいわよね、ニーナ?」

「もちろん!」

「しかし、御馳走になった上でここまでして頂くのは…」

 断ろうと思い口を開くがそれをニーナに遮られる。

「いいの!私がやりたいんだから!」

「…ならお願いしようか」

「では、サイズを測らせて貰いますね」

 ニーナとミリィで採寸をテキパキと行う。少しくすぐったかったがそれは表情に出さなかった。(覆面をしている分からないだろうが)

「それと、覆面ももう少し綺麗なのをお造りしましょうか?」

「作った方がいいって!顔火傷してるんでしょ?そんな汚いのじゃ酷くなっちゃうかも!」

 火傷と偽ったのでニーナが心配している。罪悪感が疼く。

「火傷自体はもう古いものだから心配しないでいい。だが、襤褸切れのようなものでは他人に与える不快感も大きいだろう。申し訳ないですがお願いしてもいいでしょうか?」

「うん!」

「大丈夫ですよ」

 快諾してくれる親子。本当に感謝してもしきれない。

「じゃあ、早速作るんでその間は村を見て回ってはどうでしょうか?」

「ああ、そうさせてもらいます」

 ニーナとミリィに見送られて俺は家を後にした。


 扉を閉めると男達が群がってきた。

「おいてめえ!なにニーナちゃんだけじゃなくミリィさんともイチャイチャしてんだコラ!!」

「ああ!?」

「俺の将来の嫁に手を出してんじゃねえぞ!?」

「誰がてめえの将来の嫁だ!てめえはそこらへんの金魚とでも結婚してろ!」

「やんのか!?」

「ああ!?」

 先ほどのように俺に文句を言い、俺を置いてけぼりにして喧嘩を始める男達。

 乱闘を率先してやっているのは畑仕事をしていたミゲルさんではないか。年齢的にニーナとは30以上離れているような気がするんだが…。

「おい、木偶の坊!てめえも何か言ったらどうでい!」

「いや、俺は別にいちゃいちゃしていた…「男ならぐだぐだ言ってないで喧嘩で語れぃ!!」

 何か言えと言ったので口を開いたのにこれはどうなんだろうか…?人として。いや、人ではない俺が言うのもなんだが。

「いや、俺は喧嘩はちょっと…」

 俺はミノタウロスなのだ。人間よりも遥かに強靭な肉体を持っている魔獣だ。今は人のように思考し理性的であるが本質としては人と相容れぬ存在なのだ。

「なんでぇ!そんなでかい図体してて喧嘩もろくに出来ねえもやしっ子なのかい!!」

 だがここまで言われて引き下がるのも何かと癪だ。

「分かりました。だが、殴り合いは下手をすれば大怪我をさせてしまうかもしれない。だから違う案を出してもいいだろうか?」

「違うああん?意味分かんねえこと言ってんじゃねえ!喧嘩売ってんのか!?」

「違う方法を言ってもいいか?」

 なんだ違うああんって。意味分からないのは俺だと言いたい。

「こういうのなんですけど…」

 俺が提案したのはミノタウロスの雌を奪い合う際に行う決闘法だ。

 二人で行う決闘で5m程度の円の中で行う。

 円から相手を出すか、転ばすかをすれば勝ち。

 簡単に説明すればこうだ。

 ミノタウロスの決闘では相手が死ぬか降参するまで続く。それに殴る蹴るもありだが、今回は俺のアレンジで採用はしなかった。

「意外と面白そうじゃあねえか!」

「おい!試しにやってみようぜ!」

 早速男達は地面に足で円を引き取っ組み合う。意外にも好評でそのまま次々と対戦者が変わる。

「こりゃいいじゃねえか!」

「勝ち抜き戦やろうぜ!勝った奴がニーナちゃんは俺の嫁宣言できる権利を得る、でな!」

「ウォォォォォッー!!!」

 違う理由でも白熱してきた。

「お前も参加しろ!発案者であり、ニーナちゃんとデレデレしやがって!俺達の恨みはこの闘いでぶつけてやるぜ!」

「…わかった。手加減はしないからな!」

 男達の熱気に当てられた俺も円の中に飛び込む。


 結局俺が発案したゲーム、スモウ(ミノタウロスのスと牛の鳴き声であるモウを合わせた。語呂がいいのでそのまま使っている)は日が暮れるまで行った。

 闘いの行方はといと。

 俺は宣言通り全力で当たった。男達の熱気の中で手を抜いて戦うと言うことは考えられなかったのだ。結果、ミノタウロスである俺が優勝したのは当然のことだろう。だが、男達も意外と頑張るものでミゲルさんはかなり奮戦していた。

 俺が一番になった時、男達には「お前にニーナちゃんを嫁と言う権利はやらねえ!」と口々に叫ばれたがそれはどうでもいいことだろう。

 スモウをやっている最中に物珍しさに村中の人たちが集まって見ていたので終わった後は慌ただしかった。

 夕食の準備に急いで戻る主婦達。

 ほっぽり出していた仕事をキリのいいところまで進めなくてはならないと大急ぎで戻る男達。

 帰り際に男達には様々な言葉を貰った。

「ニーナちゃんは俺の嫁だかんな!手ぇ出すなよ!」

 これはミゲルだ。

「おんめえつええじゃねえか!見直したぜ!ガハハハ!」

 これはカルロ。

「今度は負けねえからな!特訓しとくから首を洗って待っとけ!」

 そう言ったのはナットー。

「お前の強さに…、胸がキュンとしたぜ…」

 これは、…誰だろうか?考えたくない。

 男達とも打ち解けることが出来たと思う。

 運動後の気持ちいい汗をぬぐい、俺はそろそろ戻ることにした。

 ニーナの家につくまで余韻を楽しんでいた。

 扉を開けて飛んでくる、ニーナの一言を貰うまでは…。

「すいません…、ちょっと臭います…」

 そういえば、2週間アストラルゲート付近の森で生活をしていたのだ。水浴びもろくにしていなかったところに今日みたいに汗をかけば臭いは大変なことになるだろう。

「…そうか。すまんが、風呂を貸してくれないか?」

 俺は申し訳ないという気持ちと、臭いと言われたショック。

 このままではまずいと言うことで風呂を借りることにしたのだった。


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