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牛頭のミノス  作者: RK
第一章
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少女の家にて

 ニーナと俺はミリシャ村に着いた。

「いい村だな…」

 お世辞にも大きいとは言えない村。だが人々の表情は笑顔で溢れている。アストラルゲートに近いと言うのに穏やかな空気が満ちている。ここがニーナの育った場所と言うのも頷ける村だった。

「ありがとうございます!」

 ニーナは自分の育った場所を褒められて嬉しいようだ。

「ここからちょっと先に行ったところにすんでるおばさんはとても親切で優しいんですよ!それと…」

 ニーナは俺にもっと村を知ってほしいようでいいところを教えてくれる。大半は誰それがいい人だとかなにそれがおいしいとかだ。

 俺はそうなのか、それはいいな、と相槌を打つ。覆面でニーナには見えないだろうが俺の顔は笑っているだろう。自分でもミノタウロスの笑顔がどんなものなのかは想像もつかないが…。

「あっ!すいません!今はご飯でしたね!私の家はこっちです」

 ニーナに手を引かれて村を歩く。ニーナは人気者の様ですれ違う人がいれば必ず声をかけてくる。すれ違わなくても遠くから声をかけてくる。

「おや、ニーナちゃん。今日は変な格好の人と一緒だね!」

「シギュンおばさんこんにちわ!変な格好ですけどミノスさんは悪い人じゃないですよ!」

「そうかいそうかい。ニーナちゃんが言うなら間違いないねぇ」

 これは途中ですれ違ったおばさんとの会話。

「おう!ニーナちゃん!今日は後ろにでっけえ奴連れてんな!何かされそうになったら俺を呼べよ!」

「ミゲルおじさんこんにちわ!大丈夫ですよ!ミノスさんはそんなことしませんから!」

「ガハハハ!ニーナちゃんが言うなら間違いねえな!」

 これは畑仕事をしているおじさんとの会話だ。

「人気者なんだな」

 俺は感心したように言う。

「そんなことないですよー。皆優しいだけですよ」

 照れたようにニーナは笑う。

「いや、謙遜しなくていい。それは君の人柄だろう。君のように笑顔が素晴らしい少女ならば誰でもそうなるはずだ。逆に私のような覆面の見るからに怪しい男が一人で歩いていてはこうはいくまい。むしろ後ろに俺が居てあの程度の反応なのだから余程信頼されているのだな」

「その、ありがとうございます」

 俯きながら礼を言う。耳が少し赤いのは照れを隠しきれなくなったのだろう。

「あ、私の家はここです!ちょっと待ってて下さいね!今お母さんに伝えてきますから!」

「ああ」

 ニーナは家に入っていく。

 その瞬間、俺の周りに人がワッ!と集まってきた。

「おうおうお前さん!ニーナちゃんとはどういう関係なんでえ!?」

「俺のニーナちゃんに手を出そうとはいい度胸だな、ええぇ!?コラ!」

「てんめえその怪しい風体でニーナちゃんにすり寄ってくるたぁいい度胸じゃねえかコラ!」

「おい、ちょっとまて!誰だ俺のニーナちゃんっていった野郎は!?俺のだ俺の!」

「ああ!?ふざけんな!てめえはそこらへんの豚がお似合いだっての!」

「ああ?」

「んだと!?」

 俺の周りに勝手に集まって勝手に俺にいちゃもんをつけ、俺を置いてけぼりにして喧嘩を始める村の男達。

「名乗り遅れました。俺の名前はミノス。ニーナさんとは先ほど道で出会ったのがきっかけですね。空腹で倒れかけていたところをニーナさんが声をかけてくださって昼食を御馳走になるところです」

 村の男達は自分達のアイドルのような存在のニーナにこんな怪しい男が居るのを心配してきたのだろう。その心配を取り除かなくてはと思い声をかけたがまるで聞き耳持たず。

 最早、当初の目的すら忘れているありさまだ。

「おい、この怪しい兄ちゃんがなにか言ってるぞ!!」

「ああ?なんか文句あるのか!?」

「おら、はっきりと言ってみろや!」

 メンチ切ってくる村の男衆。よく見れば先ほど畑で仕事をしていたミゲルさんが居るではないか。そのほかにもニーナに声をかけてきた男達が見受けられる。

「ですから…」

 言葉を続けようにも周りが騒がしくて伝わらない。

「ミノスさん、お母さんも大丈夫だって!」

 その瞬間、俺の周りから男衆は風よりも速く散っていった。

「あれ?今誰かいませんでした?」

 ああ、大勢いた。「誰か」と言うレベルの問題ではないくらいたくさんいた。だが、彼らはわざわざニーナが居ないと気を狙ってきたのだから言わない方がいいのだろう。彼らの為にも、後々の面倒を考えても。

「いや、誰もいなかった」

「そうですか?気のせいでしたか。それはそうとどうぞ家に入ってください!」

「ああ、お邪魔させて貰う」

 俺は身長が190cm程度もある為、扉をくぐる際は頭をぶつけない様に下げなくてはならない。

 その様子がおかしかったのかニーナはクスッ笑った。

 中に入ればニーナらしい、その一言に限る。

 ピンク色の生地で作られたカーテンやテーブルクロス。細かいところにまで可愛らしさを醸し出している。花瓶には今の季節に咲くピンク色の花が差してあった。

「可愛らしい部屋だ。俺が異分子に感じられる」

 想像してみてほしい。ピンク色で可愛く飾られた部屋にボロボロの服を纏った覆面の大男がいる図を。

 犯罪者か不審者、そのどちらかにしか見て貰えまい。

「これ全部私の手作りなんですよ!」

「それはすごいな」

 手放しに褒める。とてもじゃないが俺にはできそうにないし。

「それほどでも…」

 ちょっと誇らしげにしている姿は可愛らしいと思った。

 俺が暖かい目でニーナを見ていると奥の扉が開く。

「こんにち…!…わ?」

 挨拶をしながら出てきたのはニーナの母親だろう。俺の姿を見て硬直している。

「こんにちわ。お邪魔させていただいています。私はミノスという者です。本日はニーナさんのご厚意によって昼食を頂くことになりました。このような失礼な格好で申し訳ありません」

 見た目に反して礼儀正しい対応に目をパチクリさせる。咳払いを一つすると微笑を浮かべる。ああ、ニーナの母親なのだなと思う。それほどそっくりだったのだ。

「こんにちわ。先ほどは失礼しました。私はニーナの母、ミリィです。何か訳あってのそのような格好なのでしょう。たいした御持て成しも出来ませんが、どうぞゆっくりして行って下さいね」

「私の格好について問いたださないのですか?」

 村の住人なら一応は理解できる。だが、ニーナの身内であるミリィはそうではない。このような怪しい人間(ですらないのだが)を家に招くことに嫌悪感や恐怖心を覚えてもおかしくないはずだ。

「ニーナが大丈夫と言ったのです。この子はどこか抜けているようで人を見る目はちゃんとしていますからね」

 そういいながらもテキパキと食事の準備をするミリィ。

 献立は白パンに新鮮な野菜と薄くスライスしたハム、チーズを挟んだものとミルクスープだ。ミルクスープには長期保存が出来る黒パンを入れてある。それに豆と野菜を煮込んだものだ。

「パンはお母さんと一緒に焼いたんだ!あと味付けとかも私がしたの!」

「そうか」

 正直腹がなりっぱなしではやく食べたいのが本音だ。ニーナの頑張りを褒めてやりたいのはやまやまなのだが返事がおざなりになってしまうのは仕方ないことだろう。

「お待たせしましたね」

 最後に水を新鮮な牛乳を注いだコップをミリィが持ってきて準備が終わる。

「じゃあたべましょうか」

「いただきます!」

 ニーナが元気良く叫ぶ。

「いただいます」

 俺もそれに続きパンを一口齧る。美味い!それからスープを啜る。濃厚なミルクの味がする。黒パンがそれをよく吸っていてセカル麦の味と調和していて食事が進む。豆もよく煮えていて美味い!

 無心でそれらを喰らいつくす。覆面を汚さないように、しかし迅速に食事を口まで運ぶ。無心だからこそ出来た芸当だろう。

 数分もかからないうちに食べつくす。

「ごちそうさまでした」

 俺は感謝の念を込めてミリィに言った。

「お粗末さまです」

 ミリィは微笑を浮かべていた。

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