幻獣戦隊ライガルファン第2話
美しい世界だった・・・。
花は咲き乱れ、木々は緑に芽吹き、動物達は命の賛歌を謳歌する。
皇族によって統治され、平和で争いのない世界。
レイラの傍らにはいつも父と母と幻獣の美しい姿があった。
そして、いつも自分を護ってくれた近衛兵である青年。
永遠にあの平和な時代が続くと思っていた・・・。
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体の痛みでレイラは目を覚ます。
瞳に映るのは見慣れた王宮の天井ではなく、雑多にものが散乱した狭い部屋。
所々に怪しげな面や、ぼろぼろに錆びた剣や鏡、古文書のような埃をかぶった巻物などが見える。
段々と意識がはっきりしてくると、意識を失う前の戦闘が思い出された。
『そうだ、私契約を・・・!』
腕のブレスレットを見るが、ハピネスと呼ばれたそれは、今はただの無機質な金属のブレスレットだった。
『いい加減部屋をガラクタで埋めるのはやめてください!』
『ガラクタなどではない!古代のロマンの詰まった・・・』
『ガ・ラ・ク・タです!』
『君にはロマンというものが理解できんのかね?』
どたどたという足音と共に男性二人の会話がレイラの耳に入る。
一人の声には聞き覚えがあった。
バタン!
大きな音を立ててドアが開けられると、両腕にスーパーのビニールの手提げ袋を提げたシュンと、年配の男が一人入ってくる。
『あ、目が覚めたんですね』
シュンは手に持った荷物をガラクタと表現した雑多なものの脇に置き、レイラの傍に腰を下ろした。
『ふむ、この子が?』
『そう、皇女さまですよ』
シュンの後ろから現れたのは人のよさそうな笑顔を満面に浮かべた男だった。
無精髭を生やし、伸びっぱなしの頭髪を後方で乱雑にまとめている。
不躾にレイラを穴の開くほど見つめていた。
『貴方は?』
レイラの質問に嬉々として立ち上がり答える。
『よ~くぞ聞いてくれました!古代の秘宝、伝説に果てしなき浪漫を求める男!考古学という名の学問を愛する、人呼んで伝説を追い求める求道者マナブ・イカヅチ博士とは私のこと!』
『はいはい、人呼んで変人考古学者ね・・・』
シュンの言葉にずっこけるポーズを大げさにしてみせるイカヅチ博士に思わずレイラの顔に笑顔が生まれる。
『イカヅチ博士』
『マナブでいいよ、レイラ・・・さんだったかな?』
マナブの顔とシュンの顔を交互に見つめていたレイラだったが、急に厳しい表情になり詰問口調で問いかけた。
『なぜ私を皇女と?そしてなぜ契約者のことを?』
レイラの言葉にマナブがガラクタの山をごそごそと探る。
『おお、これだこれだ!』
マナブが取り出したのは1枚の石版だった。
表面に細かい文字がびっしりと刻み込まれている。
『シュンは発掘現場で見つけた子供でな、遠い異国の遺跡の神殿と思われるつくりの場所に私が調査に訪れたときだ、柱に刻まれた言葉を解読し、口にした瞬間辺りがまばゆい光に包まれて、光の治まった後にシュンとこの石版が現れたのだ』
石版の文字を指でなぞりながらマナブは石版の表面の文字を読み出した。
『この文字を解読するのにずいぶんかかった・・・』
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遥か昔、幻獣と呼ばれる神秘の獣達と人間達は互いに仲睦まじく暮らしていた。
人間達をまとめる皇族の傍には人間と力を合わせることによって皇族を守護する選ばれし幻獣が常に付き従っていた。
黄金の鬣をなびかせし獅子の姿の幻獣レオ
美しい刃のごとき牙と爪を持つ狼の姿を持つ幻獣ウルフ
翼を持ちし美しい銀色の体を持つ天馬の姿をした幻獣ペガサス
未来を見通す力と美しい癒しの歌声を持つ幻獣マーメイド
敵をすくませる魔眼と大きな翼をもつ幻獣コンドル
しかし、幻獣のなかには自分達の力を驕り、人を支配しようと目論むものも居た。
自らを邪神獣と呼んだ幻獣は人間達と無理矢理同化することで、人間の意識を奪い、人の体と幻獣の戦闘能力を持つものとなった。
皇族に仕えていた幻獣は、皇族の選ばれた若者達に自らの力を託し、自ら意識を捨て戦士達の力となる道を選んだ。
戦いの果て、邪神獣を湖の奥深く封印することが出来るが、人の身には幻獣の力は重く、戦士達も力尽きようとしていた。
そのとき光り輝く1羽の蝶が現れ、邪神獣のよみがえらんとする遠い未来の世界へ皇女を導いた。
金色のブレスレットの姿をとりしその蝶は、幻獣の意識と力をその身に封印し、契約を結んだ相手に幻獣を受け渡す器となった。
そして、その契約を執り行えるのが未来へと飛ばされた皇女レイラである。
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沈黙が辺りを支配していた。
その沈黙を破るようにレイラが口を開く。
『その内容を貴方は信じたのですか・・・?』
両目を閉じ、一度大きく頷いてマナブは語る。
『全てを否定してしまっては可能性はそこで終わる、しかし真実を求めるのならば肯定することで世界は開かれる』
にっこり笑って続けようとした言葉をシュンが引き継ぐ。
『それが浪漫ってもんだ!・・・でしょ?』
『シュン!俺の見せ場を・・・!』
二人の笑い声が狭い部屋にこだまする。
レイラの顔にも柔らかい笑顔が浮かんでいた。
『シュン、おそらく貴方は私と同じ時代の子供、何らかの理由で石版と共にこの世界に飛ばされてしまったのでしょう・・・』
『皇女様を・・・』
『え?』
『貴方を護るためにです』
レイラの前に膝を折り、頭を下げるシュンに、レイラが慌ててその手をとった。
『いいえ、貴方はあなた自身のために戦ってください、巻き込んでしまって本当に申し訳ない・・・』
『さてさて、何はともあれ腹ごしらえだ!この世界のものがお口に合うかどうかわからないですがね』
マナブが先ほどの大荷物を持って立ち上がり、部屋から出て行こうとする。
シュンもその後ろに続いた。
『和んでるとこ悪いんですけど~ごめんね~拉致させてちょうだいなっと!』
レイラの眠っていたベットのすぐ後ろの窓から茶色い二本の腕が伸びてきた。
派手な音を立ててガラス窓が壊れる。
『きゃぁ!』
窓から伸びた二本の腕はレイラの両腕を掴み、窓から外に引きずり出した。
『いただいてくよ~~ん♪』
慌ててシュンとマナブが後を追う。
ドアを開け、家の外に飛び出した二人の見たものは巨大な熊の姿をした幻獣だった。
先ほど伸びてきた二本の腕は今は普通の長さになっているが、ずんぐりむっくりしたからだと、バネのような伸び縮みする腕、顔の正面にはギラリと光る一つ目がシュンとゼンマを見つめていた。
『幻獣召喚!』
シュンが叫ぶと、レイラのブレスレットが光って蝶が羽ばたいた。
『はいは~い、やっと私の出番ね。幻獣よ!契約者へ!』
シュンの体に黄金の獣が憑依し、体の表面を金色の光が覆う。
『レオのシュン顕現!』
名乗りと同時にシュンの体が瞬時に熊の幻獣に肉薄する。
『おっと!皇女は渡さないよん♪ほいっとな!』
熊の幻獣がレイラの体を中空に放り投げると、後方から伸びてきた緑色の腕がレイラの体を掴んだ。
『ナイスキャッチ!』
『なに!?もう一体だと!?』
緑色の腕に緑の体、シュノーケルででもあるかのような動力パイプを持ち、肩には棘のついたショルダーアーマーをつけたその姿は、ちょうど蛙に鎧を着けたのような姿をしていた。
『ライオット、そっちは任せた』
『2対1ならまけないよ~ん♪ってジンさんてつだってくれないのか~~!?』
緊迫感のない会話だが、ライオットと呼ばれた熊の幻獣はかなり手ごわいであろうことをシュンは感じていた・・・。
第2話 完