不良と夜
くそ!わけがわかんねえ!俺が死ぬって?んなわくねえだろ!
昔は身体が弱かったけど、今はそうじゃない。最近じゃ病気らしい病気はしたことがねえ。今少し風邪気味なくらいだ。それなのにこの死神野郎は。マジでウゼェ!
「クソッ!」
タバコを探していたら、携帯の着信音が響いた。
「なんだよ?」
電話の相手はいつも夜の街でつるんでるツレだ。
『おう。暇くね?今から出てこいよ!』
「暇。ちょっと待っとけよ。すぐ行く。」
たぶんいつものファミレスにいけばいるだろ。
場所も聞かず通話を切る。いろいろうっとうしい気分もツレと話してりゃはれるだろ。死神に目をやるとただこちらを見ているだけ。立ったまま壁にもたれ、仕草も表情も変えずに俺を見ているだけだ。ウゼェ。その目がウゼェって言ってんだよ!
「外出か?」
「うるせえよ。テメェにゃ関係ねえだろうが!」
上着を羽織り部屋を出る。階段を降りればすぐに玄関だ。
死神がついてくる気配は無い。まあついてこられてもウゼェだけだけど。玄関のドアに手を掛けようとしたら、急にお袋の声がした。
「またこんな時間に…あんたいい加減にしときなさいよ?」
振り返ると寝巻姿のお袋が立っていた。
「明日も仕入れがあるから朝早いんだから。もう鍵締めちゃうわよ?」
「締めりゃあいいじゃねえか!ほっとけや!」
「あんたねえ…高校でてから仕事もバイトもしてないんだから、いい加減うちの仕事も手伝いなさいよ。」
「うるせえ!花屋の仕事なんてだれがやるかよ!」
家を飛び出し単車のエンジンに火をつける。
とっととツレのところに行っちまおう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「おっせぇよ。トロトロと走ってくんなや!」
ファミレスに入ってきた俺を見つけると、電話をかけてきた本人、隆二が俺を見るなり言ってきた。
「うるせえよ。とばすと寒くて死にそうになんだよ。」
今は冬。へたにスピードを上げると凍えそうになる。
「こっちは死ぬほど残業やってきて疲れてんだよ!待たせんな、プー太郎が!」
「いちいち勘に触ること言いやがるな。やんの?」
隆二と俺とで険悪な雰囲気になったところで、隆二の向かいに座ってるやつが割ってきた。
「お前ら二人ともうるさい。」
「お、昭人もいるんか。気ずかんかったわ。」
そう言うと、昭人は
「あ、そう」
と自分の前に置かれているコーヒーに手をやった。
隆二と昭人は同じ工場で働いている。毎日残業ばっかでウザったいと、いつも隆二が愚痴っているのを聞いている。
「オメェはいいよな。毎日ゴロゴロしやがって。ニート野郎が!それにいざとなったら家の仕事を手伝えばいいだけなんだからよ。」
「うるせえな。花屋なんてやらねえよ。」
「じゃあプラプラしてんじゃねえよ。バカウゼェ。」
仕事場で何かあったのか?今日は隆二がやけに喧嘩を売ってきやがる。昭人は、我関せずでシカト決め込んでやがるし。せっかく気晴らしに来たのに、意味ねえじゃねえか!クソッたれ!
「クソッ。ウザってえッ!ゴホッ!ゴッ!ゲボッ!」
悪態をはこうと思ったら咳がそれを邪魔した。最近風邪気味みたいで咳がよくでる。
しかし、口をおさえた手に違和感がした。そして、手のひらを見て絶句した。
「どうしたよ?いきなり咳だしたと思ったら急に固まって。今日食った晩飯でも出てきたかよ?」
じっと手のひらを見つめ固まっている俺を見て、怪訝そうな顔で隆二がそう聞いてきた。昭人も心配そうな顔でこちらを見ている。
「いや、何でもねぇ…」
なんでもない。ってゆうか何だこれ?意味わかんねえよ。いや、マジで、どうなってやがる。
手のひらについた血糊を見ながら混乱していると、今度はめまいまでしてきやがった。
「ッ!まじかよ…」
ブラックアウトする意識に崩れ落ちていく途中、あの死神やろうの顔が頭を過ぎった。
こんなのが最期かよ。そう思うと、底知れぬ恐怖が込み上げて来て、床に突っ伏したまま涙が流れ出た。