第6話 管理報告——鎧のフィッティングは肌で確かめろ
マーサの工房から仕上がった新しい鎧一式が届いたのは、翌日の夕方だった。
ヴァルが宿の部屋で試着する。俺は「管理者」として立ち会うことになった。自分で言い出したことだ。後悔はしていない。していないが——覚悟が足りなかったかもしれない。
「フィッティングを確認する。鎧を着けた状態で動いてくれ」
「わかった」
ヴァルが腕を上げ、体をひねり、剣を振る動作を繰り返す。新しい鎧は以前のものより遥かに動きやすそうだ。だが——。
「止まれ。胸当ての右側面、浮いてる」
「浮いている?」
「素肌との間に隙間ができている。ここに衝撃を受けると鎧がずれる。——確認していいか」
ヴァルが一瞬ためらい、頷いた。
俺は手を伸ばし、胸当ての右側面に指を差し入れた。金属と肌の間。指先に、ヴァルの体温が伝わる。温かく、柔らかい——鎧の内側の曲面に沿って指を滑らせると、確かに隙間がある。胸の膨らみが始まる位置の少し下——ここから鎧の曲面と身体の曲面がずれている。
「ここだ。鎧の内壁の曲率が、身体の曲線に追いついてない。マーサに修正を——」
「ゼク」
「何だ」
「指が、長い」
「……すまん」
気づくと、指先がヴァルの胸の側面に触れていた。柔らかい肌の感触が指腹に伝わっている。鎧の隙間を確認するつもりが、鎧の向こうに到達していた。
引き抜こうとした瞬間、ヴァルの手が俺の手首を掴んだ。
「……動くな。急に引き抜くと鎧の留め具が外れる」
ヴァルの声がかすかに震えている。顔は鎧の襟に隠れて見えないが、耳は赤い。
「ゆっくり抜け。——ゆっくりだぞ」
「了解」
指をゆっくり引く。その過程で、ヴァルの胸の輪郭を指先がなぞることになった。柔らかさと弾力が、金属の内壁越しではなく直接伝わる。ヴァルの呼吸が一瞬止まり、胸が上がったまま戻らない。
指が抜けた。
二人とも、数秒間動けなかった。
「……修正点は一箇所だ。右側面の曲率。マーサに伝える」
「ああ。……伝えろ」
「他に気になるところは?」
「ない。——いや」
ヴァルが、珍しく口ごもった。
「胸当ての上部。朝、走ったときに少し揺れた。——確認、するか」
ヴァルは俺を見ていなかった。壁を見ている。耳が限界まで赤い。
これは——管理の範囲内なのか。
「……確認する」
俺はもう一度、鎧の内側に手を差し入れた。
今度は上部だ。鎖骨の下、胸の膨らみが始まる直前の位置。ここのパッドの厚みが足りないのか、鎧と肌の間に余裕がある。
「ここだな。パッドを三ミリ追加すれば——」
「ゼク」
「何だ」
「心拍」
「……善処すると言っただろう」
「善処できてない」
「無理だと言ったはずだ」
ヴァルが小さく笑った。鎧の内側で。俺の指が入ったまま。
「……お前は、正直だな」
「鑑定士だからな。嘘は読まれる」
「ならば、一つ読んでみろ。今の私の心拍を」
ヴァルが俺の手首に触れた。指先が脈に当たる。
速い。俺と同じくらい速い。
「……同じだな」
「何がだ」
「心拍。お前も俺も」
ヴァルが何も言わなかった。
ただ、手首を掴んだ指が、少しだけ強く握られた。




