第26話 真実の刻印、敵の正体〜俺たちの目的3つを一度分かりやすく整理しておきますね〜
リーリアがパーティーに正式加入した翌朝。
宿の食堂に五人が揃った光景は、壮観というか——賑やかだった。
「リーリアさん、パンにバターをもう少し塗りますか?」
「あ、ありがとうティアちゃん。——ヴァルさんは、もっと食べないんですか?」
「これで充分だ。騎士は腹八分目が基本で——」
「あんたは胸に栄養が全部持ってかれてるから、もっと食え」
「ニーナ。朝から喧嘩を売るな」
「事実を言っただけだ」
俺はパンを齧りながら、この光景を眺めていた。
二週間前まで一人だったのが嘘のようだ。追放されてエルデに流れ着き、ヴァルと出会い、ティアと出会い、ニーナと出会い、リーリアが追いかけてきた。
全員が、何かを奪われた人間だった。名誉を。記憶を。自由を。そして勇気を。
だが今、この食堂には笑い声がある。
「ゼクくん、何を見てるの?」
リーリアが首を傾げた。
「いや。——いい朝だと思って」
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朝食後、宿の一室に全員を集めた。
始源の刻印庫に向かう前に、持っている情報を全て共有する必要がある。
闇市場で得た記憶結晶の情報。ニーナが入手した帳簿。エルフの古文書の預言。ティアの記憶の断片。ヴァルの剣に刻まれた真実。
すべてをテーブルに広げ、一つずつ確認していった。
「ティア。記憶が戻った分で、教会について覚えていることはあるか」
「はい。断片的ですが——。お姉さまが封印を施す前に言っていたことを思い出しました。『教会はスキルの真実を知っている。技晶石が刻銘者の遺物であること、スキルが神の恩寵ではないこと——すべてを知った上で隠している。そして今、お前の力を使って刻銘者の知識データベースに接続しようとしている。それを許してはならない』」
「知識データベース」
「わたしのスキル【星詠の書架】は、刻銘者が遺した知識の集積——全スキルの設計図、迷宮の全構造、古代の技術体系——そのすべてに接続できる鍵なんです。教会がこれを奪えば、スキルシステム全体を書き換えることすらできてしまう」
重い沈黙が落ちた。
「つまり教会は——スキルの真実を隠し、『神の恩寵』として独占的に管理することで権力を維持してきた。そしてさらに、ティアのスキルを使って知識データベースにアクセスし、スキルシステムそのものを掌握しようとしている」
「はい」
「ニーナ。帳簿の内容と照合すると?」
ニーナが紙の束を叩いた。
「全部繋がる。教会の特別研究部門は、獣人を使ってスキルの人為的制御の実験をしていた。スキルを外部から操作する技術の開発。あたしに刻まれた焼印は、その実験の痕跡だ。そして実験を統括しているのは——」
「枢機卿オルトス・テネブリス」
「ああ。帳簿の最終承認欄に、奴の代理署名がある。ヴァルを嵌めたのも奴。ティアを追ってるのも奴。あたしを実験素材にしたのも奴。——全部、同じ男だ」
ニーナの金色の瞳に、静かな怒りが灯っていた。
ヴァルが拳を握った。
「オルトス・テネブリス。あの男が、すべての糸を引いている」
「そしてクラウス・ヘルツォークは、オルトスの手駒。記憶迷宮の遺物を闇市場で売り、利益を教会に流す見返りに、騎士団長の地位を保証されている」
リーリアが青ざめた顔で聞いていた。
「そんなことが——教会がそこまで腐っていたなんて」
「教会全体じゃない」ティアが首を振った。「お姉さまは言っていました。教会の中にも良心的な聖職者はいる。問題はオルトスの派閥が教会の上層部を掌握していること」
俺は立ち上がった。
「整理しよう。俺たちの目的は三つだ」
テーブルの上に、三つの出土品を並べた。記憶結晶。帳簿の写し。エルフの古文書。
「一つ。始源の刻印庫の最深部に到達し、刻銘者の遺言を読む。スキルシステムの全真実を手にする。——これが、すべての根幹だ」
「二つ。ヴァルの冤罪を晴らす。オーリエルの記憶映像と、帳簿の証拠を合わせれば、クラウスとオルトスの結託を証明できる」
「三つ。ニーナの奴隷組織を潰す。帳簿が証拠になる。教会の特別研究部門を告発し、囚われている獣人たちを解放する」
全員の視線が俺に集まっていた。
「そして——そのすべてが、始源の刻印庫に集約されている。あの迷宮の最深部に刻銘者の遺言がある。それを読めば、教会が隠してきた真実が白日の下に晒される。教会の権威の根幹が崩れる。オルトスを追い詰めるための、決定的な一手になる」
ヴァルが剣の柄に手を置いた。
「行こう。始源の刻印庫に」
ティアが頷いた。「わたしも行きます。古代語の碑文があるなら、わたしが読みます」
ニーナが牙を見せた。「あたしの情報網で、迷宮周辺の安全を確保する」
リーリアが立ち上がった。「回復は任せてください。今度こそ——ゼクくんの力になります」
五人の決意が、一つになった。
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——同刻。王都ルクレイン。聖典教会大聖堂。最奥の私室。
枢機卿オルトス・テネブリスは、執務机の前に座っていた。
蝋燭の光が、深い皺の刻まれた顔を照らしている。年齢は不詳。五十にも見え、七十にも見える。だが暗い瞳だけが異様に若く、知性と策謀の光を湛えていた。
机の上に、二通の報告書が置かれている。
一通目。「辺境都市エルデに滞在する刻紋鑑定の使い手、ゼク・ベルンマルク。記憶迷宮の深層部に到達する能力を確認。始源の刻印庫への移動の兆候あり」
二通目。「Aランクパーティー『銀嶺の剣』元リーダー、ガルド・アウレリウス。始源の刻印庫の大規模攻略を宣言。王国より支援獲得。三十名規模の合同パーティーを編成中」
オルトスは報告書を閉じ、椅子の背にもたれた。
「好都合だ」
呟きが、暗い部屋に落ちた。
「ガルドのパーティーが先行し、迷宮の表層を切り拓く。だが彼らは深層の刻紋を読めない。最深部の扉は開かない。——そこに、刻紋読みの少年が来る」
枯れた指が、机の上をゆっくりと叩いた。
「少年に扉を開けさせ、刻銘者の遺言を確認する。中身が我々の想定通りなら——少年ごと確保する。管理者の血を持つ者は、生かしておく価値がある」
蝋燭の炎が揺れた。
「ガルドのパーティーには——いい囮になってもらおう」
オルトスの口元が、薄く弧を描いた。
「さあ——来い、ベルンマルクの末裔。三千年、待ったのだ。もう少しだけ、待ってやろう」




