第24話 また胸の大きい女が増えると思ってました
翌日の昼。
ギルド支部のガストンから連絡が入った。
「ゼク、客だ。女の冒険者が一人、お前を訪ねてきた。白いローブの、回復術士。名前は——」
ギルドの入口に、見覚えのある姿があった。
蜂蜜色のミディアムヘア。柔和な垂れ目。白いローブに包まれた、ふくよかな体型。だが目の下には深い隈があり、旅の疲れが色濃く滲んでいる。
「ゼクくん!」
リーリア・グラーティアが、俺を見た瞬間に泣き出した。
「やっと——やっと見つけた。ゼクくん、ごめんなさい。あのとき止められなくて——私は——もう、あのパーティーにはいません」
宿に案内し、全員を紹介した。ヴァル、ティア、ニーナ。リーリアは一人一人に頭を下げた。
「ゼクくんがお世話になっています。私は元、銀嶺の剣で——ゼクくんの追放に反対できなかった、弱い人間です」
「過去の話だ。今ここにいるなら、それでいい」
「ゼクくん……」
「それより、情報をくれ。銀嶺の剣は今どうなっている」
リーリアが目元を拭い、表情を引き締めた。
「それを伝えに来ました。——ガルドさんが、大変なことを言い出しています」
「大変なこと?」
「ガルドさんが、始源の刻印庫の大規模攻略を宣言しました。パーティーランクがCに落ちた汚名を返上するために。王国の支援を取りつけて、三十人規模の合同パーティーを組んで、大陸最大の記憶迷宮に挑むと」
部屋が静まり返った。
「始源の刻印庫。過去にどのパーティーも最深部に到達できなかった、最大最深の記憶迷宮。——ガルドの合同パーティーに、刻紋を読める者は?」
「いません。オスカーさんはまだパーティーにいますが、記憶迷宮の刻紋が読めないことは——本人が一番わかっています」
「つまり、刻紋を読めない三十人が、全層が刻紋で守られた最大の迷宮に力押しで突入すると」
「はい」
ニーナが舌打ちした。
「自殺行為だろ、それ」
「ニーナの言う通りだ」俺は立ち上がった。「あの迷宮の罠は、表層から最深部まですべて刻紋で制御されている。読めなければ回避できない。三十人でも三百人でも同じだ。死人が出る」
ヴァルが腕を組んだ。
「ガルドのプライドが暴走しているんだな。——お前を追い出した結果を認められないまま、大きな成果で帳消しにしようとしている」
「ガルドさんの気持ちもわかるんです」リーリアが言った。「アウレリウス家の三男として、実力で名を上げるしかなかった人。パーティーランクの降格は、家名への泥になる。だから——」
「だからって死にに行くのは話が別だ」
俺は窓の外を見た。エルデの町並みの向こうに、北の山脈が見える。始源の刻印庫は、あの山脈の麓にある。
行くべきか。
ガルドは俺を追放した男だ。義理はない。
だが——三十人の冒険者が死ぬのを、知っていて放っておけるか。
リーリアが俺を見ていた。ヴァルも。ティアも。ニーナも。
「ゼクくん」
リーリアの声は、祈るようだった。
「助けてあげてほしいとは、言えません。あなたを追い出した人たちだから。でも——死んでほしくはないんです。ガルドさんも、オスカーさんも、ボルグさんもヴェルトさんも。嫌な人たちだったけど——死んでほしくは」
「リーリア」
「はい」
「お前も、パーティーに入れ」
リーリアが目を丸くした。
「え——」
「回復役がいない。お前の【慈愛の泉】がなければ、始源の刻印庫は攻略できない。——それに、俺たちのパーティーには、もう一人分の席がある」
リーリアの目から、また涙が溢れた。だが今度は、違う種類の涙だった。
「はい——はい。今度こそ、離れません。約束します」
ヴァルが小さくため息をついた。
「また胸の大きい女が増えた」
ニーナが即座に返した。
「あんたが言うな」
ティアが微笑んだ。
「リーリアさんも大きいですね」
リーリアが涙を拭きながら胸元を見下ろした。
「え——あ、ありがとう……?」
五人パーティー。
追放された鑑定士。冤罪の騎士。記憶を封じられた王女。元奴隷の情報屋。そして、贖罪の回復術士。
全員が、何かを奪われた人間だった。
だが——全員が、取り戻すために戦う意志を持っている。
「行くぞ」
俺は言った。
「始源の刻印庫に。ガルドの馬鹿を助けに——そして、すべての答えを掴みに」




