余韻
オープンの翌朝
道の駅はまだ開店前
駐車場には
昨夜の雨でできた小さな水たまり
空気は澄み 山はいつも通りそこにある
昨日の賑わいが まるで夢のようだ
私は少し早く来て
館内をひと回りする
床は綺麗に拭かれている
棚には 補充された商品
冷蔵ケースのモーター音だけが
静かに響く ちゃんと動いてる
建物は もう特別な存在ではない
使われる場所 になった
菫もやって来る
売場の中央で立ち止まる
昨日 ここは人で埋まっていた
今日は静か スマホを取り出す
朝の光が差し込む店内 投稿は短い
「昨日はありがとうございました
今日は いつも通り開けます」
特別な言葉はない
でも それがこの村らしい
さくらは
出発の準備をしている
スーツケースの中に
内定通知をそっとしまいながら
百貨店の商品開発部へ
昨日オープンした道の駅の写真も一枚
戻る場所 あるな
小さく頷く
人の気配はない
昨日の賑わいが嘘のようだった
葵は診療所へ向かう坂道を歩いていた
白衣はまだ少し硬い
風が冷たい
道の駅の建物を振り返る
「出来たね」
誰に言うでもなく つぶやく
それから ゆっくりと前を向く
「私は ここで働く」
声は小さい
けれど 迷いはない 都会も考えた
外の病院も調べた
それでも
この村には診療所が一つしかない
ここで支える人が必要なら
私はその一人になる 残るんじゃない
選ぶのだ
朝の光が 診療所の窓に当たる
村に 灯りがある
開店時間
シャッターが上がる 今日は行列はない
地元の年寄が一人 ゆっくり入ってくる
「昨日は来れんかった」
「今日でええんですよ」
菫が笑う
私は入り口の外側を眺める
遠くでバスが止まる
日常が戻って来ている
坂道を白い軽トラックが上がって来る
移動スーパーだ
車は道の駅の前をゆっくりと通り過ぎようと
していた
運転席の窓が開く
「おはよう」
運転手が笑った
「おはようございます」
菫が手を振る
運転手は道の駅の建物を見て言った
「オープンしたんやな」
私は頷いた
「ええ」
運転手は少し笑った
「ほな 此れから忙しくなるで」
そして軽く手を上げた
「またな」
白い軽トラックは
そのまま坂を上がって行った
週に二回 村を回るいつもの道へ
菫はその車を見送った
そして小さく言った
「これからも来るんですね」
「生活ですから」
菫は道の駅の建物を見た
新しい看板
新しい信号
新しい駐車場
でもその向こうには いつもの村がある
山の斜面に 家が点々と並んでいる
窓の灯りは もう朝の光の中で見えなく
なっていた
それでもそこに 人がいる
菫は静かに言った
「この村続きますね」
私は少しだけ笑った
「ええ」
山の向こうから朝日が広がる
その光の中で
村の家々が静かに並んでいた
そこには まだ人の暮らしがあった
大きな成功でもない 派手な事件も無い
でも確かに 村は一歩 前に進んだ
道の駅は完成した
若者はそれぞれの道を選んだ
それでも 山も川も 診療所も 役場も
変わらずそこにある
その中に 新しい拠点が加わっただけだ
今回の話は一旦ここまでですがもう少し続く




