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この村の灯り(修正版)  作者: 堺大和
27/50

桜咲く

休憩室でコーヒーを淹れているところに

私は入っていった

「まだ残っていたんですか?」

「少しだけ」

菫は 画面を閉じないまま言った

「山中さん」

「はい」

「クラウドファンディングって

どう思いますか?」

一瞬 間が空く

「正直な話ですか」

「はい」

「責任は むしろ重いです」

菫は 頷いた

「ですよね お金だけじゃなくて」

「言葉も 期待も 全部 

受け取ることになります」

しばらく 沈黙

「でも」

菫が続ける

「道の駅って 国の施設 になるのは後で」

「最初は 村の場所ですよね」

「それなら 少しでも 一緒に作る 

形があってもいいのかなって」

私は 直ぐには答えなかった

「補助金は 条件を満たせば出ます」

「はい」

「クラファンは 誰も保証してくれません」

「はい」

菫は自分でも驚くほど

落ち着いた声で言った

「集まらなかったら それも答えかなって」

私はゆっくり息を吐いた

「…菫さんらしい考え方ですね」

「らしい ですか」

「はい 前に出すぎないけど 逃げない」

菫は 少し笑った

「ただ」

私は続ける

「やるなら 全部を頼らない ことです」

「一部だけ 関わりしろ という意味で

失敗しても 事業が止まらない金額で」

菫はメモ帳に書き込む

一部 用途限定 集まらなくても進む

「怖いですね」

「ええ」

私は はっきり言った

「でも 村の中だけで完結しない 

覚悟は要ります」

窓の外では 校庭跡地に夕日が当たっている


まだ建物はない 図面だけである

「補助金に頼るのは 悪い事じゃない」

私は 最後に言った

「でも 応援してもらう のは 

別の仕事です」

菫は画面をもう一度見た

金額より コメント欄が目に入る

楽しみにしています

無理のない形 完成したら行きます


怖いけど 悪くないかも


菫は 画面を閉じた

まだ 決めていない でも 考え始めた

それだけで この事業は

少しだけ 村のもの に近づいていた


桜が咲き始めると 

村の時間は少しだけ早くなる

山あいの道にも 見慣れない車が増えた

川沿いの桜は 満開にはまだ早い

それでも十分綺麗だった

菫は 昼休みに少しだけ外に出ていた

観光客の流れを確認する

声が遠くで響いてる


もしあのまま何も無ければ

今は都会で働いているはずだった

一瞬だけ 考える 少し沈黙 

けど首を振る 今はここにいる

選ばなかった道は消えない

でも 今選んでいる場所も消えない

風が花びらを運ぶ

「悪くない」

小さく呟き 前を向く


夜の役場は昼間より音が

はっきり微かな調は低い音

蛍光灯の微かな唸り


菫は 自席に一人残っていた

机の上には 

ノートパソコンと 小さなメモ帳

画面は まだ白い


プロジェクト名


そこまで打って 手が止まる

大袈裟にしたくない 消して打ち直す

旧小学校跡地に 休める場所をつくります

それだけで少し胸が詰まった


「道の駅をつくります」


と書くより 今の気持ちに近い 次の行

この村には 

バスしかありません 最終便は夕方です

書きながら自分でも驚く

数字も制度も書けるはずやのに

出てくるのは

日常のことばかりだった

買い物は週二回の移動スーパーです

春は桜 初夏はホタル 冬は静かです

一度 手を止める

宣伝になってるかな

画面をみつめて 首を振る

違う

これは 説明や 便利にはなりません

でも たち止まれる場は作れます

背もたれに体を預けて 天井を見る

これ 読んでくれる人 おるんやろうか 

不安がはっきり形になる

それでも キーボードに手を戻す

この場所は 

観光客のためだけではありません

村に住む人が 先に使える場所にします

そこまで書いて 少しだけ息が楽になった


メモ帳を開く


集める金額 全部じゃない

使い道 看板 休憩所 防災備品

集まらなくても 止まらない


箇条書きは 山中の顔が浮かぶ内容だった

「…怒られへんな」

思わず 声に出る 画面に戻る

応援してもらえたら嬉しいです

と書いて消す 代りにこう書いた


一緒に見守ってもらえたら ありがたいです


時計を見ると もう夜八時を回っていた

完成には ほど遠い

でも 最初の一文は もう消さない

菫は ファイルの名を付けた


道の駅クラファン(たたき)


「たたき」

その言葉が 今の自分にちょうどよかった

パソコンを閉じる

外に出ると 夜風が少し冷たい

桜は まだ咲いている

ライトに照らされて 静かだ

菫は思った まだ始めただけ

でも 始めた ってことや


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― 新着の感想 ―
 堺大和さん、こんにちは。 「この村の灯り(修正版) 桜咲く」拝読致しました。  クラウドファンディングに興味がある、董。  山中に相談です。  桜の頃に思い出す。  もしあのまま、大阪で働いて…
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