投票用紙
午後九時を過ぎて
役場の会議室に大勢の人が集まって来ていた
蛍光灯の白い光の下で
長机がいくつか並べられ
その中央に詰まれているのは
封をされた投票箱だった
村の人口は約八百四十人
有権者数なら約七百人それが今日は
普段の役場では見ない顔が集まっていた
農家の老人
商店をたたんだ元店主
そして帰省してきた若い夫婦
都会からの移住者
今日成人式だった二十歳の若者
この村では珍しい光景だった
「そろそろ始めますか」
村長は静かに言った
部屋の空気が少しだけ固くなる
山中幸一は壁際に立ち腕時計を見た
二十一時三分
予定より三分遅れている
たいした差ではない
だが
こういう時は時間の感覚が妙に長く感じる
長机の端では職員が
「投票総数 六百五十票です」
その声が部屋に響いた
村の有権者の九割を超えている
私は小さく息を吐いた
この結果で この村の十年先が決まる
いや もしかしたら
二十年かもしれない
課題は一つだけだった
道の駅の建設計画の賛否
白い投票用紙が
村の未来だった
冬の会議室
声はない
秒針が響く
「賛成」か
「反対」か
私は腕を組んだまま
壁際に立っていた
『住民投票条例』に基づく
高校生も投票している
年寄も同じ一票
その結果が
投票箱が開かれると
紙が読み上げられる
目の前で積みあがっていく
数字が増える
「賛成」
「反対」
「賛成」
「賛成」
また一枚
「反対」
会議室は一般にも解放され
隅で高校生たちが息をのむ
視線が合う
あの子たちの未来も
紙の上にある
終わるのが 楽かもしれない
進むほうが ずっと怖い
刹那とも
永劫とも
思える時が流れる
開票責任者が顔を上げる
「賛成 多数」
時が止まった
いや 進むのか…
私が動かした歯車は
回り始める
逃げ道はもうない
灯りを残したいと思ったのは
私だった
進むのか…
ほんの九ヶ月前
ここまで来るとは思わなかった
初めてのかた 一話目読んでいただきありがとうございます
再度読んでいただいた方ありがとうございます
修正版になります 文字数にして約一万八千文字 エピソードで八話増えてます
以前より充実した内容になっていると思います
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