まだ付き合っていないだけ
「ずばり、理想の告白とは!?」
舞がペンケースをマイクにして、こっちに差し出してきた。
「LINE」
「えっ、文面派っ?」
舞は驚いて、ペンケースが少しだけ元の位置に戻る。
「断るのに楽」
「断る前提かよぉ…、このモテ男め」
口を尖らせて、なぜか睨まれる。
訊かれたから答えてるんだけどな。
「ミステリアス王子様ってことになってるからな」
「自分で言っちゃうの?」
「周りが勝手に言ってるからな。この見た目で声をかけてくる奴は多い」
「ビジュは最高だもんねぇ、翔月は」
やれやれと首を振って、舞は乗り出していた身を引っ込めた。
舞も俺の見た目を気に入っていることを知っている。
初対面で、「君、めちゃめちゃ顔いいね!最高!」と言ってきたくらいだから。
たまーに俺の顔を眺めて満足そうにしている。
俺はそれを意外にも気に入っている。
他の奴だったら、うんざりしそうなものだけど。
「じゃあ、実際に言われたら心動きそうな言葉もないの?」
「なに、誰かに告る予定でもあるの?」
「今後の参考に。てか、人に告白したことないから単純に気になる」
「今のも角度を変えりゃあ、モテ発言じゃないか?」
俺の言葉に、舞は首を捻った。
意味は通じなかったらしい。
「人に聞く前に、自分からどうぞ」
「ええーっ、告られたことないからわかんないよ〜」
「そこを考えるのが、今の議題だろ」
「翔月って、変なとこ真面目だよねぇ。んー、『好きです』で嬉しいと思うけどなあ」
舞は眉間に皺を寄せながら、ありきたりなことを言う。
舞が喋るたびに、ポニーテールの毛先が揺れているのが見える。
「シンプルだな」
「好きな人に言われたらなんでも嬉しいんじゃない?」
「好きじゃない奴に言われたら?」
「えっ、困るね?」
「俺と言ってること変わらないじゃないか」
俺が笑うと、舞はムスーッと顔を歪めた。
「わかった。誰に言われてもときめく言葉、探そう」
舞がこういう時は一歩も引かないから、付き合うが吉。
まあ、舞が楽しそうだから、なんでもいいんだけど。
「『あなたのことがずっと好きでした』とかは?」
「なし。百万回言われてもときめかん、心は揺れない」
「モテ男め…。あ、『月が綺麗ですね』は?」
「綺麗だけど、言われてピンとくるのかな」
「うーん、私だったらわかんないかも」
言った本人がわからないんじゃ、ダメじゃないか。
「翔月もなんか言ってよ」
「えぇ…。『俺を恋人にしてくれませんか?』」
「えっ!翔月、そんな感じなの!?」
舞があからさまに動揺していて、笑ってしまう。
「ひとつの案だよ」
「ええ〜、翔月って好きな子にはちゃんと言うんだあ」
「人の話、聞いてるか?」
「疑問系はいいかもね。『好きって言ったらどうする?』とかさ」
「駆け引きかぁ、俺はあんまり好かないけど」
「わがままだなあ」
ポニーテールの先を見ながら、俺は肘をついた。
「ほーん、じゃあもっといい案くださいよ」
こうやって煽ったら、舞はすぐに食いついてくるだろう。
舞はニヤッとしながら、身を乗り出してくる。
「『私じゃだめかな?』」
「あざといのは好きじゃない」
「『私と付き合ったら、楽しいよ!』」
「ああ、それは好きかも」
「自信満々に言い切り系がいい?」
「そっちの方が好みかもなあって、今聞いてて思った」
「じゃあ、『今日から恋人ね!』は?」
「強引だなぁ」
「わがままだなあ」
その様子にフフッと笑うと、舞は俺の方に視線が固定した。
たぶん、顔を見ているんだと思う。
この『顔』は、好きなんだろうな。
「『初めて会った時から、君しか見えていません』とかは?」
「情熱的だけど、本当なのか?って思う」
「疑り深いなあ」
「なんか『結婚を前提に付き合ってください』ぐらいに聞こえてくる」
「ええ〜、そうかな?」
不服そうな舞の表情がコロコロ変わって、飽きない。
「そこまでいったらプロポーズじゃん」
「『ずっと俺の隣で笑っていてほしいです』とか?」
「プロポーズじゃん」
「『毎日味噌汁作ってくれ』?」
「プロポーズじゃんっ!あと、味噌汁は自分で作れ」
「『あなたの味噌汁を作りたいんです』は、逆プロポーズになるのか?」
「インスタントでいいなら、毎日作るよ」
「それは自分で作った方が早そうだな」
その時スマホが鳴って、雅記から連絡が入った。
「雅記たち、終わったってさ」
「じゃあ、行きますかあ。今日もいつもの居酒屋?」
「そうじゃないかな。んで、舞的にはいい言葉はあったわけ?」
荷物をまとめて、さっさと立ち上がる。
舞の支度が終わるのを待って、歩いていく。
「う〜ん、『隣で笑っていてほしい』は実は好きだったな」
「じゃあ、ずっと隣で笑っててくれ」
「え」
舞が立ち止まったから、俺は振り返った。
たぶん、舞が好きだろうなという笑みを浮かべながら。
「な、なっ、私が告白しようと思ってたのに!」
「あはは」
「わ、私と付き合ったら楽しいよ…!」
「うん、知ってる」
「なんだよ、もう〜」
顔を赤くした舞が追いついてきて、いつものように隣を歩いた。
了
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