愛という名の殺意
凍てつく空気の中、かすかな陽だまりが残る市場の朝。
ベルノールが用事で外に出るたび、呼ばれなくともピロトは必ず後をついて行った。
その無言の頑なさで――
息子は父の注意を引こうとしていた。
ベルノールは毎回それを許した。
不満を口にすることも、煩わしさを見せることもない。
欲しいものがあれば買い与えた。
――いい子でいれば。
「靴ひも、結んでくれませんか……」
ピロトがそう呼びかける。
それは彼の得意な仕草だった。
父が買ってくれる靴は、いつも少しだけ足に合わなかったから。
あの女のものとは違って。
その顔を思い出した瞬間、
父の身体に染みついた薬草の香りが、白粉の匂いに塗り替えられる。
それが、彼を苛立たせた。
「どうしてそんな顔をするんだ?
ちゃんと靴ひもは結んであげただろう」
「……」
ピロトは小さく息を吐く。
視線は静まり返るが――
その奥には、なお毒が潜んでいた。
今夜かもしれない。
あの女が父を喜ばせている、その背中に、
冷たい刃を突き立てるのは。
「今夜の月は、黄金色だといいな……」
かつて父が本を読んでくれた、その声を思い出す。
ピロトは、決して忘れなかった。
――ザクッ。
――ドン……ああっ……!
刃は肉を裂き、骨に触れ、
それでも少年はさらに深く押し込んだ。
数分もしないうちに、彼女は刃の下で息絶えた。
そしてその後、
ピロトは失われていたものを取り戻す。
――再び、
父が本を読んでくれる時間を。




