#99-55 月の味 (Tsuki no Aji)
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。心から感謝いたします。これからも精進して執筆に励みます。次回作「水の王」をお楽しみに。
最も美しいものとは、
ただ一つのもののために生まれてきたものだと、そう言われている。
それはフォーカスと同じだ。
映画を作るときのように、主人公にだけ焦点を合わせる。
悪役や脇役たちは、ただ一つの美しさへと向かえばいい。
つまり――
彼を「役」として生まれさせ、
「役」として死なせ、
それからこの、すべてが嘘でできた劇場世界から去らせればいい。
だから私は考えた。
もし自分が映画を作るとしたら、どんなものになるだろうか、と。
表紙は、夕暮れの水面。
金色の光を反射する川と、黒い屋敷。
あるいは、私の黒い着物。
登場人物の視線から撮られた構図で、
隣には、白い月の手が私の手を握っている。
彼の顔は写っていなくてもいい。
きっと彼も、琥珀色の水面をぼんやりと見つめているはずだから。
私の息子――「ピロト」。
月の双子、あるいはフクロウ。
第二の娘。
彼は本当に双子だ。
私のフクロウは月蝕で、
ピロトは月。
そして彼は、ずっと前に闇の中で死んでいる。
月のことだ。
もしピロトが生きていたなら、
今ごろ一緒に、映画(本)の表紙のように、並んでぼんやりしていただろう。
けれど、それは私がノートに書き留めただけの夢でしかない。
だからここで、謝らなければならない。
私は――
月の味を、知らない。
だが、私が嘘を書き込んだその本を振り返れば、
わかることがある。
月の味は――
「甘ったるい」。
そうだ。
「この子は、賢すぎる」。
だが、フクロウのように獰猛な賢さではない。
「父さん……嘘つき……」
第二幕の月の味は、きっと甘く、脂っこい。
私たちは、劇場の中で、信頼の中心だった。
ピロトは私に手を握らせ、
また一緒に眠ることを許してくれた。
しかし第三幕で、それは崩れた。
無垢で、無言で、賢かった子どもは、
今や、殴りたくなるような態度しか残っていない。
私は――
今回は味がわからなかった。
だが、匂いはした。
大人への不信の匂いだ。
だから私は、ピロトに代わりに食べさせた。
それは、成長途中の子どもには辛すぎた。
肌はひりつき、
涙で目を真っ赤にして、
慰めない私を見つめていた。
私は、それが普通だと思っていた。
だが、それは間違いだった。
ピロトは、私の妻のもとへ行った。
「冷たい」と呼ばれる彼女は、
かえってピロトを悪化させた。
私は裏切られたように感じ、
怒ったが、表には出さなかった。
だがピロトは賢い子だった。
最初から気づいていた。
自分が限界でも、言葉を選んだ。
「大丈夫だよ、父さん。
ピロトは、まだ死んでない。」
そして、私が怒ると知って、
眠ったふりをした。
好物の味が失われたとき、
人は代わりの料理を探す。
「初めての外食。
そして、家へ招く。」
ウィーン。
私はまずパンを食べ、
あとから中身を食べる。
だが、彼女の話はピロトが好きではなかったから、
あまり説明できない。
ああ……忘れていた。
ピロトは、もう目を覚ましている。
ただ、私が怒るのを怖れて、
しばらく呆けたふりをしていただけだ。
だから私は、復讐として、
父と子の罰の味を与えた。
「食べなさい、ピロト。
食べろ。」
そして私たちは、また元通りになった。
居間の食卓で。
「父さん、夕食ができたよ。」
最後に、私は嘘の循環を、
このまま続けることを選んだ。
どうせいつか、
また必ず、
私たちは再会すると信じているから。
もう終わった話のはずだ。
この結末を、私は選んだ。




