読者の涙は、作家への報酬だ」と
月が高く昇り、
その光が窓をすり抜けて、居間の暖炉のそばに置かれた寝台へと差し込む。
そこは、この屋敷で唯一、まだ温かな息遣いが残されている部屋だった。
ソファ、楽器、本棚、紙片、手紙——
無秩序に散らばるそれらの中で、
父と子の二人が寄り添うように眠っている。
衣擦れの気配から察すれば、
父は薄い黒を身にまとい、
子は厚手の白に包まれている。
月のような毛皮の帽子——
あるいは、ふくろうに見えなくもない。
そのとき、月光が息子の頬に触れた。
水面がそっと触れるような感覚。
それは静けさの中で、やさしく彼を目覚めさせる。
目を開けると、そこには「無」ではなく、
確かな静寂があった。
皮膚をすり抜ける空虚ではなく、
自由そのもの。
隣で毛布に包まれ、安らかに眠る父の姿が、
言葉にならない安心をもたらしていた。
今、目覚めているのは、
彼と——暖炉の炎だけ。
風に揺れ、身体の動きに呼応するように、炎は踊っている。
ピロットは、もう父の手を借りる必要はなかった。
立ち上がり、身体の赴くままに進めばいい。
あちらへ行く? それとも、こちらへ?
闇を探ることは、彼にとって楽しい遊びだった。
父がこの部屋に集めたものすべてに、彼は触れることができる。
どれも温かく、父と自分の匂いが混ざり合っている。
すべてで遊び尽くし、疲れれば、
暖炉の前の寝台へ戻り、
ゆっくりと父の上に身を預ける。
ただ近くにいること——
それだけが、彼の呼吸を楽にする。
けれど、なぜだろう。
ピロットが幸せを感じるほど、
涙の音が聞こえる。
彼が無邪気に笑うたび、
心の奥底から、悲しみの匂いが立ちのぼる。
「……父さん」
それは、彼に言える唯一の言葉。
そして、
父と共に泣いた。
二人の寝姿は溶け合い、
窓の隙間から忍び込む夜風が、
暖炉の炎をさらに赤く燃え立たせる。
一瞬の温度変化に、二人は震えたが、
やがて、この空気が
深い眠りに最もふさわしいものだと気づく。
ピロットは微笑み、父にしがみつき、
意味をなさない言葉を紡ぐ。
きっと、こう言いたかったのだろう。
「明日も、本を読んでほしい。
父さんがムーヴィエンナを殺した、あの話を」
ベルノールは不機嫌そうに目を開け、
やがて静かに瞼を閉じ、
再び子を寝かしつけた。
……
……
……
夜が明けた日。
空気は相変わらず冷たかったが、
ベルノールにとって、その朝は驚くほど明るかった。
まるで、ごく普通の父親が、
息子と共に朝日を浴びるように。
ただ一人の女性を迎えるために、
ベルノールとピロットは外に出た。
彼女は最初、明るく微笑んだ。
男が子を抱いて待っているのを見て。
だが近づくにつれ、
その表情は疑念へと変わった。
無作法と知りつつ、
彼女は問いを口にする。
「……お嬢さんに、何があったの?」
「重度の低体温症です。
ただの病気ですよ……それに、この子は男の子です」
ベルノールは、それ以上語らなかった。
ピロットが
「半分、生きていて
半分、死んでいる存在」
であることを。
ムーヴィエンナは屋敷で茶を飲み、
ベルノールと向かい合って座った。
ピロットはすぐそばで眠らされていた——
二人が茶を飲む卓の、すぐ横の寝台で。
彼女は、幼子のようなその姿を見つめ、
何度も問いを重ねた。
症状の由来、看病の方法、これまでの経緯——
やがて、すべてを理解した。
それは憐れみではなかった。
二人の間にある愛が、
あまりにも大きく、美しかったから。
「……大切な人のもとへ、戻らなければ」
彼がそう言い、
毎日欠かさず帰宅していたことを知り、
ムーヴィエンナは涙を流し、
二人を助けたいと申し出た。
けれど、こうも言われる。
「読者の涙は、作家への報酬だ」と。
では、
ベルノールにとっての報酬とは、何なのだろう。
彼は、
誰かに愛しい息子の世話を
任せたいなどとは、
最初から望んでいなかったのだから——。




