君を愛することは、僕がしてきたことの中でいちばん簡単なことだった。
ベリュノールは小さなポットに熱湯を注いだ。
だが、それは少し熱すぎた。
その熱が、ピロットの唇を灼いた。
少年は声を上げなかった。
その代わりに、顔を歪め、身をよじり、
ぱちぱちと瞬きを繰り返す瞳で――
その痛みから逃れようとするかのようだった。
「……ごめん……!」
ベリュノールは悔恨の声を漏らし、
慌てて息子のか弱い口元を拭った。
しかし、ピロットの身体はその助けに応じなかった。
痛みはまだそこに残り、
まるで身体がそれをどう扱えばよいのか分からないかのように。
ベリュノールは、
痛みが引くまで、
静かで、穏やかな、優しい声で息子に語りかけ続けた。
しばらく時が流れ、
同じ暖炉の火を見つめながら無言で過ごした後、
ベリュノールはふと、ぼんやりと呟いた。
「……温かいのを、作り直してくるね」
ピロットは彼を横目で見た。
まだ少し、怒っているようだった。
その様子に、ベリュノールは小さく笑みを零し、
立ち上がって台所へ向かった。
そして再び戻り、
ポットをピロットの前に置いた、その瞬間――
少年は身を引いた。
動かすことさえままならない身体で、
彼は最後の手段として、
視線だけで拒絶の合図を送った。
だが、ベリュノールは動じなかった。
ピロットが落ち着くのを待ち、
穏やかに声をかけ、
機を見て――
温い水を、ほんの少しずつ、
(けれど何度も)
彼の唇へと含ませた。
その頃には、ピロットの表情も随分と和らいでいた。
何度も水を与えられることを受け入れ、
時折、口の端からこぼれてしまうこともあったが、
それは不思議ではない。
彼はまだ、一度に飲み込むことができず、
噛むこともできなかったのだから。
だから、食事は流動食でなければならない。
ベリュノールは、
脂っこくなく、
熱すぎず、
甘すぎも塩辛すぎもしない、
澄んだ薄いスープを選んだ。
ピロットはそれを、苦もなく口にした。
気に入っている様子だったが、
十口にも満たないうちに、
身体を軽く押し当ててきた。
――「もう、いい」
その合図だった。
ベリュノールは怒らなかった。
無理に食べさせることもしなかった。
それどころか、彼は微笑んで言った。
「最初で、これだけ食べられたんだ。
すごいよ」
そう言って、軽く頬をつまむと、
ピロットの瞳に、幸福そうな色が浮かんだ。
そのとき、ベリュノールは気づいた。
――何かが、
再び呼び戻されようとしている兆しに。
そして彼自身もまた、
背を向けたまま、
ピロットのその表情を見て、
赤い瞳の光を取り戻しつつあった。
……
紙の匂いと、
薄い頁が擦れ合う音が、
背後から響いた。
ピロットはそれに気づき、
ゆっくりと目を開け、振り返る。
「……読んであげようか?」
少年は、何ひとつ変わっていなかった。
父の読む本を聞きながら眠ってしまうことは、
彼にとって、
最も容易なことだった。
少年は、今も信じている。
この声は、
たとえ自分が聞かなくなっても――
消えはしないのだと。




