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55-99 月の味 (Tsuki no Aji)

作者:チミちゃん
大切な人の残り香が、彼を呼び覚ました。
長い眠りについていた“息子”はゆっくりと目を開け、
無表情のまま、不思議そうに部屋中へ視線をさまよわせる。
感情も記憶もなく、
ただ目の前の男だけに、触れようと手を伸ばした。
しかしその腕は弱りきっていて、ほんの少しも動かせなかった。

だから彼はただ、静かに視線を送るしかなかった。
崩れ落ちそうになっている、その男へ――。

「アッ──ハ……ヒグ……エ、オオ──オオオオオッ!!」

数日が過ぎると、少年の身体は少しずつ反応を取り戻し始めた。
まだ虚弱なままだったが、大柄な男は何も言わず、
いつも手を取り、歩く練習を支えてくれた。
少年は、かつて馴染んでいた物を手に取ろうと試み、
やがて自力で歩けるようになり、
屋敷の中を探索し始める。
だがその一歩一歩には、いまだ感情も、
記憶の欠片さえも宿っていなかった。

身体の回復には、以前と同じく薬草風呂が必要だった。
肌が冷え、硬くならないようにするためだ。
けれど時間が経つにつれ、その必要性は少しずつ薄れてゆく。
温かな薬草湯と、そして男の腕の中の抱擁だけで、
小さな身体は十分な温もりを保てるようになったのだ。

――記憶を失っても、“好きなもの”だけは変わらなかった。

少年は以前と同じように、本を読んでもらうのが好きだった。
暖かな灯りの下、ソファで、一枚の毛布を分け合いながら。

そして毎晩、男がそっと囁く「愛している」という言葉も、
意味はわからなくとも、やはり好きだった。

「父さんはお前が嫌いだ……」
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