エピソード06
「では、これで全ての発表がおわ」
「おい、待て。まだ秋葉が残ってるだろ」
「あっ、しっ、失礼しました。で、では、最後に秋葉原支店お願いします」
「・・・えっと・・・まっ、まだ、トッ、トイレから戻って・・・ません・・・」
ドガン!
もの凄い勢いで立ち上がったせいで、鬼部長の椅子が壁に激突し横倒しになった。
「秋葉の支店長には俺から直々に電話しておく。覚悟しておけ」
坂下彩を睨みながら、鬼部長は会議室を出た。
「でっ、では、これで、本年度の各支店発表会を終了・・・します・・・」
ため息混じりの坂下彩は、誰もいなくなった会議室にいた。
「紗月先輩・・・どうしちゃったのよ・・・」
何気なくスマホのSNSを開けると、
”秋葉原立て籠もり”というハッシュタグがトレンド急上昇になっている。
「秋葉で立て籠もり?」
リンクを開けると、ナイフを首に近づける春奈紗月の写真があった。
「せっ、先輩!」
飛び上がるように立ち上がった坂下彩は、
パソコンと書類をひったくるように持ち、会議室を出てエレベータのボタンを何度も押した。
なかなか降りてこないエレベータ。
「くそー、急いでるときは絶対すぐ来ないんだから!このバカベータ!」
分厚く重い非常ドアを開け、誰もいない階段にヒールの音を響かて駈け下りた。
肩で息をしながら総務部に戻れば、
そこは電話ガンガン鳴りまくりの、罵声バンバン飛びまくりのてんやわんやのお祭りだった。
「・・・」
「彩ちゃん、ごめんね」
「あれだけの大騒ぎを起こして、よく出社できましたね」
「JTRさんが大事にしなかったから助かった。フフッ」
「笑ってる場合ですか、」
坂下彩は、大きくため息をつく。
「支店長室から聞こえてましたよ。怒鳴り声」
「ごめん、お昼過ぎちゃったね」
「3時間も缶詰されて、何言われたんですか」
「散々お説教されて、始末書20枚書けってさ」
「20枚・・・それはまた、ご愁傷様です」
「めちゃめちゃ怒ってた、支店長。フフッ」
春奈紗月の支店長室缶詰で、遅れた昼休憩。
お弁当を持って、自社ビル近くの野鳥のさえずりが聞こえる公園に来た二人。
何を笑ってんだか、と思いつつ、
自分が会議室で祈りながら待っていたのに、
当のご本人は秋葉の駅で籠城ですかと考えると、
坂下彩はムカついてきた。
「先輩!あたしはプレゼンで鬼部長に、舌打ちされてバカ者呼ばわりされたんですよ!あの本店のクソ鬼部長に!」
「あっ、彩ちゃん・・・落ち着いて、」
それでなくても、SNSで時の人となった春奈紗月に、
坂下彩のクソ混じりの大罵声が止めを刺し、
公園の通りすがりの人が、足を止め指を刺しながらヒソヒソ話しをしている。
「いいんですか、こんなに目立っちゃって」
「彩ちゃんの声が小さかったら、よかったんだけど」
「それは、誰のせいなんですか!」
「わかった、わかったから」
ブツブツ言いながら、坂下彩はお茶を飲んだ。
「なんで籠城なんかしたんですか」
「彩ちゃん、SNSか何かで、駅にある白壁の絵見なかった?」
「見ましたよ、白い壁に鉛筆で描いたような絵でしょ」
「あの絵見てさ、何か感じない?」
「感じる?何をですか?」
「暖かいオーラのような感じ、」
「別に何も感じませんが」
「・・・彩ちゃん、女だよね」
「ちょ、ちょっと先輩!見ます、わたしのパンツの中!」
「あっ、彩ちゃん、声が大きい」
真剣に悩む表情を見せる先輩に、坂下彩は顔を覗き込みながら聞いた。
「先輩は感じたんですか?そのオーラってやつを」
「彩ちゃん、今日仕事終わったら本物を見に行ってみようよ」
「はいっ?」




