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エピソード03

 「あ、もしもし、山下君。どしたのよ、中継が繋がらないんだけど」

 

 「あのー、今、秋葉のホテル前なんすけど、どうやらここに宿泊してるってのはガセだったみたいっすね」

 

 「なんですって!」

 

 「ホテルの従業員に金つかませて聞き出したんっすよ。間違いありません」

 

 「えー、じゃどーすんのよ。今朝のワイド生放送、”薬物疑惑芸能人を直撃”を9:30オンエアでもう組んじゃってるわよ」

 

 「俺に言われてもねー。他局も来てるみたいだし、皆同じガセ握ったんじゃないすか。どうしようもないっすね、これは」

 

 「ちょっと、何開き直ってんのよ。あんたが、なんとかしなさい!」

 

 「駅で立て籠もってるらしいわよ」

 

後ろを通り過ぎる女性グループの会話を、山下は逃さなかった。


 「もしもし、山下君。聞いてるの?」

 

 「すいません、後でかけます」

 

山下は、電話を切った。


 「あのー、すいません」

 

女性グループは足を止めた。


 「わたし、テレビ新東京の者ですが、今の話し詳しく聞かせてもらえませんか」

 

 「今の話しって?」

 

 「駅で立て籠もりって、言ってましたよね?」

 

 


バリケードの奥に、春奈紗月はいた。

手には、裸男が鉛筆を削るために使っていたであろう小型ナイフを持っている。

握るのが限界というところまで短くなった鉛筆が、足元に数本落ちていた。


 「近づかないで!」

 

紗月は、自分の首にナイフを向けた!


 「近づいたら、あたし死ぬから!」

 

 「バカなことやめて、そこから出てきて!」

 

戻った駅員二人が、また白壁の所に来ていた。

 

 「この絵にペンキ塗るのやめてくれたら、ここから出るわ」

 

 「絵って、あの男が描いた落書きじゃないか」

 

 「何を言ってるんですか!こんな貴重な絵を落書きだなんて」

 

 「はあっ?なんですか一体」

 

 「この絵の尊さが分からないのなら、あなたの目はフシアナよ!」

 

 「なんだと!言わせておけば、この女!」

 

 「あっ、ちょっと、主任!」

 

年配の駅員がバリケードを壊して中に入ろうしたのを、若い職員が身体で止めた。


 「落ち着いてください、主任!相手は客ですよ」

 

 「バカやろう!これはな、駅構内の乗っ取りだ!」


 「警察には連絡しましたから、警官来るまで待ってくださいって」

 

 「うるさい、放せ!小娘のクセに俺をバカにしやがって、思い知らせてやる!」

 

 「あそこだ!おーい、カメラ!こっち、こっち、早く!」

 

山下は秋葉原の駅内を走りながら、女Pに電話した。


 「あ、俺っす、山下っす」

 

 「どうすんの、あと5分だよ!」

 

 「タイトル変えてもらえませんかね」

 

 「走ってるみたいだけど、何かつかんだの?」

 

 「今、秋葉の駅構内で立て籠もり事件が発生してるんですよ」

 

 「立て籠もり!マジで!じゃ、あなた今そこの現場にいるのね!」

 

 「ええ、これはウチ独占生中継になりますよ!」

 

 「やった!大スクープじゃない!スーパー入れ替えるから、中継4分で用意して」

 

 「了解っす」

 

 

 

 「じゃ、次の発表お願いします」

 

 「・・・」

 

 「あれ、どうしました。次は、えーっと、秋葉原支店の春奈紗月君と坂下彩君」

 

 「・・・」

 

 「無断欠席か?おい、秋葉原支店はどうなっている。だれか支店長呼んで来い」

 

 「あっ、あの、います」

 

 「なら、さっさと初めろ」

 

 「あっ、あのー、はっ、春奈紗月は・・・たっ、体調不良で・・・トイレ・・・」

 

本店の鬼部長は、舌打ちをして眉間にシワを寄せた。


 「はあ、トイレだ?何やってんだ、このバカ者が!いますぐ連れて来い!」

 

 「いや、せかすと・・・よけい時間が・・・かかると思います・・・」

 

会議室の中で、クスクスと失笑が聞こえた。

 

 「もういい!秋葉は最後にしろ、次だ!」

 

 「はっ、はい・・・じゃ、次は、まっ、町田支店お願いします」

 


 もー、紗月先輩!なにやってるのよ、早く来て!

 

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