エピソード18
ガチャっと音を立て、大きな扉が開いた。
木製の長椅子に座っている人々は、一斉に後ろを向いた。
大きな拍手と羨望の眼差しで、扉の前に立つ純白の花嫁を見た。
しかし、拍手は一瞬で止まり、ざわめきに変わった。
下を向き、父親に抱えられように、青いバージンロードを花嫁は歩いた。
足をひきずりながら歩く花嫁。
その異様な光景に参列者は息を飲み、壇上から見下ろす大塚は手のひらを握りこぶしに変えた。
すぐ横を花嫁が通り過ぎた女性は、苦しそうな顔に思わず口を押さえた。
フラつきながら、花嫁は大塚の横に並んだ。
「なにやってんだ。笑い者になってんぞ」
「・・・」
「ちっ、」
オルガンの音が講堂に響き、賛美歌が流れた。
小刻みに震える花嫁を見て、牧師は動揺した。
困った表情で花婿を見た牧師に、大塚は目で威嚇する。
「そっ、それでは・・・誓いの言葉を・・・はっ、始めます」
「大丈夫なの、この結婚式・・・」
「あの花嫁、今にも倒れそうだけど、」
着席した参列者は、あちこちでヒソヒソ話しを始めた。
「みっ、皆さん、お静かに願います」
「・・・」
「新郎、大塚裕樹。あなたはここにいる春奈紗月を、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか」
「誓います」
「しっ、新婦、春奈紗月・・・あっ、あなたは、ここにいる大塚裕樹を、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、・・・おっ、夫として愛し、敬い、慈しむ事を、誓いますか」
「・・・」
「誓いますか?」
「・・・」
「おい、なに黙ってんだ」
「・・・ません」
「なに、もっとデカイ声で言え」
彼女は牧師に向けて、顔を上げた。
「誓いません」
「なに言ってんだ!冗談はやめろ」
「お前のようなクズ男と、結婚なんかするわけないわ」
「なんだと!」
彼女は、ウエディングベールを引きちぎって投げ捨てた。
「お前、正気か!」
「いたって正気よ」
「俺の顔にドロ塗りやがって!覚悟できてんだろうな!」
大塚はドレスをつかんで彼女を引き寄せ、右手を大きく振り上げた!
「メフィストーーー!」
花嫁の大声に、チャペルが一瞬静まり返った。
「はあ?なに叫んでんだ。なんだよ、メフィストって」
彼女は、不敵な笑みを浮かべる。
「・・・ねえ、変な臭いしない?」
「おい、なんかクサいぞ」
「これ、温泉に行ったときの臭いよ」
前部の参列者は、手やハンカチを鼻にあてた。
彼女の目線は、大塚の背後に現れたメフィストを捕えている。
「なんですか、急に呼び出して」
「あの人が死んだわ」
「そのようですね」
「お前、誰と話してんだ?」
大塚は後を見たが、誰もいない。
(なんだ、このクセえ臭いは・・・待てよ、この臭い、確か前に俺のマンションで・・・)
「お願い・・・彼を生き返らせて・・・」
「まさか・・・死んだ人間を生き返らせるなんて。そんなこと、出来るわけないでしょ」
「ウソよ!あなた、人の生死に関わった天使でしょ・・・絶対できる!出来ないわけないわ!」
「・・・」
「正直に言って!」
(さっきから誰としゃべってんだ・・・こいつ、頭おかしくなったのか?)
「・・・まあ、出来ないことも無いですが、」
「彼を生き返らせて!」
「出来たとしも、せいぜい1時間くらいですよ」
「それでもいいの!お願いよ!」
「・・・やれやれ、ほんとに仕方のない人間ですね・・・まあ、わかりました。ですが、タダで出来ませんよ。代償はなんですか?」
彼女は大塚を指さした。
「この男よ」
「この人間は、今夜魂をいただくことになってますが?」
「今よ、今殺して!その時間差を代償にしてよ」
「おいおい、なんだよ、殺してって・・・さっきから、わけわかんねえ独り言しゃべりやがって・・・お前、気でも狂ったのか?」
メフィストが右手を振り上げると、鈍く光る銀刃の巨大なカマが現れた。
「では、」
シュッ
首を切断するように、銀色の刃が風のように走る。
ドカッ、ドカッ、ドサッ
大塚は壇上から崩れるように落ちた。
「キャー!」
チャペルに悲鳴が響きわたる。
青いカーペットに投げ出された大塚を、彼女は無表情で眺めた。
身体に損傷はない。
しかし、白目をむいて動かなくなった。
「これで彼は生き返ったの?」
「フフフッ、」
「なにがおかしいのよ、」
「そんなわけないでしょ」
「ええっ、・・・はっ、話しが違うじゃない!」
「こんなちっぽけな代償で、死んだ者を生き返らせるなんて。あなた、悪魔をなめてませんか?」
「そっ、そんな・・・」
「この程度じゃ何の役にも立ちませんよ。もっと大きな代償が必要です」
「・・・」
「さあ、どうしますか・・・フフフッ」




