お父様に愚痴ってみた〜男性には人格が二つある〜
「お父様ー!お父様ー!」
「おお、どうしたミーティー」
「婚約者が…!クロード様が春画をこっそり持っていましたの!」
「…んん?」
お父様に抱きついて泣く。
お父様は「おおよしよし」と私を撫でてくれるが、困惑している様子だ。
「ところでミーティー、なんでそんな話になったんだ」
「わたくし、クロード様のお屋敷に遊びに行ったでしょう?」
「うん、そういえば今日はそういう予定だったな」
「そしたら!婚約者の部屋の机の上に、春画を見つけてしまったのです!」
「あー…」
お父様は遠い目をする。
「こんなの浮気ですわ!酷いですわ!わたくしなんかよりあんな肉付きのないスレンダーな女が好きだったなんて!わたくしと真逆ではありませんの!!!」
「そうだなぁ、お父様が言うのもなんだが…ミーティーはデブまではいかないが肉付きがいいからなぁ…」
「うっ…ぐすっ…うえーーーーーん!!!」
「おおよしよし、だがミーティー。大丈夫だ」
「ふぇっ…うっ、ぐすっ…大丈夫って…?」
お父様はわたくしを見つめる。
「いいか、ミーティー。真実を教えよう」
「真実…?」
「男にはな、人格が二つあると思いなさい」
「え?」
「一つは理性的な人格。ミーティーに普段あの子が見せる優しくて紳士的な、ミーティーに一途な人格だな」
???
お父様は何を言ってらっしゃるの?
「もう一つは…下半身に支配された本能剥き出しの人格。男はな、一人の女性を一途に愛する心とは別に、どうしても色々な美女をつまみ食いしたいという本能に振り回されるモノなんだ」
「そ、そんな…」
「だがな、それは浮気ではないんだ。愛しているのはミーティーだけ。でも他の女性の春画でないと処理できない煩悩があるのだ」
「な、なんてこと…それは不道徳的ですわ」
「そうだな、だが本能だ。どうすることもできない」
……!
本能…。
では、浮気ではありませんの?
本当に好きなのはわたくしだけ?
「お父様…も、そうですの?」
「ああ、愛しているのは亡くなったお前の母だけだ。後妻も娶っていないだろう?だが、色々な女性の春画は持っている」
「!!!」
「愛と欲は違うモノだ。どうか分かってやってくれ」
「…そ、そうですの………」
お父様がそういうのなら、そう言うモノかも知れませんわ。
クロード様の屋敷から帰る時、クロード様に何も言わずに馬車まで走ってしまいましたけれど…。
クロード様、怒ってないかしら。
仲直り、できるかしら。
「ねえ、お父様…わたくし、クロード様と仲直りできるかしら」
「ああ、もちろんだとも!そうだね、クロードくん」
「は、はい」
「…!?」
後ろを振り向くと、そこにはクロード様。
「その、君が突然何も告げずに泣いて出て行ったので心配で、急いで馬車を出して追いかけてきたのですが…まさか、見られていたなんて…」
「あ、えっと…その、わたくし、覗き見するつもりはなくて…」
「ええ、あんなところに出しっぱなしにしていた僕が悪いんです。気にしなくていいんですよ」
「あ…よかった…」
「それより僕の方こそすみませんでした。あんなものを出しっぱなしで君を部屋に迎えるなど、デリカシーに欠けていました」
頭を下げるクロード様に焦る。
「いえ、そんな、その、殿方がそういうことに興味があるのは仕方がないこと…なんですものね、その、お気になさらないで。わたくしが狭量でしたの…」
「ミーティー!では、許してくださるのですね!」
「え、ええ。もちろんですわ。クロード様も、今日の非礼を許してくださる?」
「もちろんです!ああ、ミーティー、よかった!愛しています、心の底から君だけを!」
「クロード様!」
こうしてわたくしとクロード様は無事仲直りした。
お父様は満足そうに、うんうんと頷いていた。
「ということがわたくしにもありましたのよ」
「は、母上…!」
「ですからね、我が馬鹿息子。春画のことは精一杯謝りなさい、心から。その上で愛しているのは婚約者だけだと伝えるのです」
「は、はい!父上、母上、行ってきます!」
おバカな息子を見送る。
婚約破棄とかにならなければいいのですけど…まあ、普段のあの子たちの仲の良さなら大丈夫でしょう。
「旦那様、やっぱりあの子も旦那様の子ですわね」
「僕に似てしまわなくてよかったのに…」
「ふふ、でも紆余曲折があってもわたくしと旦那様はラブラブですもの。きっとあの子たちも大丈夫ですわ」
「あの子の婚約者も、君のように理解してくれると良いのですが…」
「大丈夫ですわ。だってあの子、誰から見ても婚約者にゾッコンですもの。そう簡単に切り捨てるには勿体ない優良物件と相手もわかっているはずですわ」
そうだろうかとハラハラする旦那様の頬にキスをする。
「えっ…きゅ、急にっ…嬉しいですけど、嬉しいですけど何故っ…?君からなんて珍しい…」
「そんなに心配しなくても、わたくしが大丈夫と言ってるんですから大丈夫ですわ!落ち着いてくださいまし。それよりわたくしとのせっかくの時間を、あの子の心配だけに使わないでくださいまし」
「ミーティー…」
「愛してますわ、旦那様」
「僕もです、僕の愛おしいミーティー…」
「父上、母上!おかげで婚約者と仲直りが出来ました!ありがとうございます!」
「それは良かった」
「これからは春画の扱いには気をつけなさいな」
「は、はい…」
ということで騒動は一件落着、息子の婚約者は息子を許してくれたようだ。
「結婚式も間近なのですから、信用を落とさないように頑張りなさいな」
「はい、母上」
「これからも婚約者を精一杯愛するのですよ」
「はい、父上」
そんな会話をした日の午後、仲良くデートする息子とその婚約者にほっとした。
「ね、大丈夫だったでしょう?」
「そうですね、よかったです」
「でも、まだまだ気は抜けませんわね。女の子は不満を溜め込むモノ。いつか爆発せぬよう、ガス抜きも必要ですわ」
「え、ではどうするのです?」
「おすすめの薔薇本を数冊差し上げようと思いますの!」
薔薇本?と首を傾げる旦那様にちょっと特殊な癖の本ですわと答えると旦那様は目を丸くしたが、仕方がなさそうに笑った。
「僕も人のことを言えませんからね」
「あの子が気に入ってくれるといいのですけれど」
後日薔薇本を手にした将来の義理の娘から、感謝の手紙と本について語らいたいというお誘いがあった。
将来の義理の娘とも仲良くなれそうで、なによりですわ!
…まさかの着地点。
そうか、貴婦人は腐女子だったかぁ…。




