エンドへの近づき2
夫は現状の詳細を教えてくださいました。
ご令嬢を取り巻く、多くのご令息方が集まって一つの派閥ができつつあり、その人数の多さのため、無視が出来ないのだとか。
そして、そこに属するのは若い方だけではないのだそうです。
ご令息を後押しする家もあるのだとか。かとおもえば、ご令息と反対の判断をする家もあり。
殿下とご令嬢、そこと関わる各家の関係は、誰が何を考えてどうしたいのか、全くわからない状況だそうです。
「まだはっきり派閥と呼べない、集団のような状態でね。誰の目的と意志がどんなふうに反映されて動くかもわからないんだ。そもそも、政治的な目的や意志を掲げて発生したわけではなさそうだ。」
とても曖昧模糊としております。
空恐ろしいと夫は言います。
「ただ、エドワード殿下がこの集団を動かしていないことははっきりしている。側近方はわからないが、殿下と集団には繋がりはなさそうだ。」
エドワード殿下についてはなるほど、と納得がいきます。王子としては随分と素直で表裏のない方、と聞いておりますので、殿下が集団を指揮し、直の派閥となさっていたら大きな話題となっていることでしょう。
しかしながら、殿下本人とは別の意思の集団が殿下の近周にある、ということはとても危ういことに感じられます。
「では、エドワード殿下の側近の方々や男爵家のご令嬢は、その集団とどのような関わりがあるのですか?」
集団の根源はクリアハート嬢を取り巻く方々でございますから、そこはある程度はっきりした繋がりはあるのでございましょう。
そう思って、促すように聞いてみたのですが、夫の答えは意外なものでした。
「実はそこはまだわかってないんだよ。今調べているところだ。」
「側近方はともかく、男爵家のご令嬢もわかっていらっしゃらないのですか? 学園でご令嬢の周りを取り巻かれている御学友が集団の発端なのでございましょう?」
わたくしの問に夫は天井を見あげながら深く息をはきます。
「そう、不明なんだよ。殿下の側近方はこれから手を付けるけど、うまく調べられるかはわからないな。まず各家への人の出入りが多いしね。令嬢の方は接点があるのに個人的なつながりがほとんど見えない。まだ調べ始めて二日目だけど、少し困ってるんだ。」
まぁ! 夫が弱音を吐くなんてめずらしいことです。
夫曰く、集団の中心となっているクリアハート嬢の取り巻きの方々が彼女に好意を持っている、ということは明白であるとのことです。
普段、その取り巻きの方々とご令嬢は学園内で複数人以上でにこやかに話しているだけ、それ以上の個人的なお付き合いは今のところ見えていないそうです。
お話しの内容も、誰に聞かれても問題ない世間話ですとか。
「取り巻きの連中と令嬢は学友の域を出ない。調べが進展しないんだ。…でも、そんなものなのかもしれない。個人的な感覚で見ると、あのご令嬢は過度な愛想を振りまいてるだけだから。」
過度な愛想とはまたシンプルな表現でごさいます。
「取り巻きの方々が男爵家のご令嬢に好意があることはどうしてわかるのです?」
「うーん…、色々あるけれど、明確なのは彼ら自身の言葉だな。クリアハート嬢への好意を公言してる生徒が多い。あとは贈り物をしていることかなぁ。そんなに特別な物ではないよ。結構無難な、なんていうか可愛らしいものが多い。小さめな装飾品や花や菓子、そんな物をみんなの前で渡しているんだ。特別に高価なものはないね。逆に安物はあったりするけど。」
「ご令嬢を個人的に呼び出したりはせずに?」
先ほどまでわたくしは、取り巻きの方々からご令嬢に向けられた好意が恋愛の感情なのだと思っておりました。しかし、間違っているのかもしれません。
一対一で渡して自分だけに注意を向けてほしい、とは違った感情があるような気が致します。
「うん、みんなの前ので渡すようだね。ただ、エドワード殿下と殿下の側近方は別だ。」
殿下と、殿下の側近方はご令嬢と個人的な関わりもあるようで、各々、一対一でお話する、なんてこともあるそうです。
それどころか、各家のパーティーに代わる代わるエスコートされたり、数刻もの間に侍女も付けずに、本当にお二人きりで過ごすこともあるのだとか。
なんというか、ふしだらでございます。
実際のところはわかりません。
ですが、貴族たるもの、未婚の、まして適齢の男女が何をしていても不思議ではない、と思わせてはならないのです。
エドワード殿下と側近のご令息方、それからクリアハート嬢も教育が届いていないようでございます。
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